絆の薔薇――薔薇に堕ちた夢魔との戦い
ヴァンデル砦の奥深く、冷たい霧が渦巻く回廊を進むリシア・シルヴァーナ。
彼女の胸では、七つのカルマ――
傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲
――の痣が激しく脈打っていた。
アルヴィン・シルヴァーナの存在がすぐそこに感じられるが、甘美で危険な気配が一行を包む。
シルフィードの刃には、炎、鎖、砂時計、金貨、牙、薔薇、王冠の七つの紋様が輝き、戦乙女たちの絆がその力を増していた。
リシアは戦乙女たち――
セレナ、ティナ、レイラ、ミリア、エリナ
――とロードたち――
クラウディア、ルーカス、ソフィア、バルクレイド、エリオット
――を見やり、決意を新たにする。
「ソフィア様、ティナさん、ルーカス様、エリナさんが強欲の騎士を倒してくれた。
ガルド様とマリカさんの犠牲も無駄にしない。アルヴィン様を救うため、次は私たちが戦うわ!」
一行が回廊の奥に進むと、エリオット・ラヴェンダーが足を止め、静かに言う。
「リシア、この気配…色欲だ。私のカルマと同じ、だが…あまりにも強い誘惑。」
彼の声には過去の孤独が滲む。
ミリアが鉄扇「ラスティーヴ・チェインソウル」を広げ、「エリオット様、この敵、私たちの力で引きつけられます!」と応じる。
リシアの胸の痣が共鳴し、シルフィードの王冠の紋様が強く輝く。
「エリオット様の色欲が反応してる…でも、私の傲慢のカルマも共鳴してる。
ガルド様の憤怒が傲慢に強く、ルーカス様の怠惰が強欲に強かった…もしかして、傲慢が色欲に強い?」
彼女は前回の戦いで気づいたカルマの相性を思い出し、仮説を立てる。
ソフィアが頷く。
「リシア、鋭いわ! カルマには順番がある…この力は…「円環の理」の一部ね。
ガルド様の憤怒がレギオンの傲慢を、ルーカス様の怠惰がヴァルデマールの強欲を抑えた。
なら、アルヴィン様の傲慢がこの色欲に効くはず!」
彼女は興奮気味に続ける。「リシア、あなたとアルヴィン様の絆が鍵よ!」
エリオットが微笑む。
「リシア、俺の色欲で敵を引きつける。ミリアと俺で隙を作り、お前が仕掛けるんだ。」
ミリアが扇を振る。
「エリオット様、私の扇であなたの魅力を増幅します! リシアさん、信じてください!」
リシアがシルフィードを握り、頷く。
「わかったわ、エリオット様、ミリアさん、援護を頼むわ! 私たちの絆とこの相性で、敵を倒す!」
彼女は一行に指示を出す。
「クラウディア様、バルクレイド様、ルーカス様、ソフィア様、皆さんは後方で次の敵に備えて。
円環の理を信じて戦うわ!」
回廊の空気が甘い香りに変わり、薔薇の花びらが舞う。
床から赤い蔓が這い出し、リシアたちの心を惑わそうとする。
突然、濃厚な香りが一行を包み、視界が揺らぐ。
リシアの前に、アルヴィン・シルヴァーナの姿が現れる。
彼は穏やかな笑みを浮かべ、優しく囁く。
「リシア、もう終わったんだ。俺は解放された。戦いは無意味だ。
二人でシルヴァーナに戻り、共に幸せに暮らそう。」
彼の手がリシアの頬に触れ、温もりが彼女の心を揺さぶる。
「リシア…僕の心の太陽よ…さあ、君の全てが欲しいんだ」
アルヴィン様の手が、どんなに近くに居ても触れ合うことが許されない…
私の肢体と貴方の身体…その身に刻んだカルマの痣…
…私が求めるもの
リシアの胸が締め付けられる。
「アルヴィン様…本当に…?」
だが、胸の七つのカルマの痣が焼けるように痛み、彼女を現実に引き戻す。
そうです、そんな訳がない。
アルヴィン様は常人では耐えがたい苦痛を背負い、シルヴァーナ領のロードとしての責務を真っすぐに受け止められている。私との絆を信じて下さっている。
欲望に囚われた安易な肌の触れ合いに溺れる方ではないのを私は一番知っている…!
そして、そのアルヴィン様の力を信じて力を貸して下さる絆を結んだエリシュオンのロード達。
ガルドの憤怒、ルーカスの怠惰、ソフィアの強欲…戦乙女たちの絆が、彼女の心を繋ぎ止める。
「違う…! アルヴィン様はまだヴァンデル砦にいる! この幻覚、偽りよ!嵐の裁き!」
リシアがシルフィードを振り、風の刃で幻を切り裂く。
霧の中から妖艶な姿が現れる。
薔薇の装飾が施された深紅のドレスをまとい、扇型の刃「ローズテンプトレス」を握る女性――その瞳は色欲の光に輝き、額に薔薇型の痣が浮かぶ。
「私は色欲の騎士、薔薇に堕ちた夢魔セラフィナ・ヴェルミリオン。
愛してあげるわ…命の最後まで。」
彼女が扇を振ると、甘い香りがさらに強まり、ロードたちが幻覚に囚われ始める。
バルクレイドが呟く。「妹…お前が生きてる…?」
クラウディアが鎖を握り、「エミリア…?」と目を潤ませる。
リシアが叫ぶ。「皆さん、目を覚まして! セラフィナの色欲が心を惑わしてる! 私たちの絆を思い出して!」
彼女の声とカルマの痛みが一行を現実に引き戻す。
エリオットが目を覚まし、苦笑する。「くそっ、危なかった…。リシア、よくやった!」
リシアがセラフィナを睨む。「甘い幻覚など、私たちの絆を壊すことなんてできない! アルヴィン様との絆、皆との絆が私を強くする!」
彼女のシルフィードが輝き、傲慢のカルマが色欲の香りを打ち消す。
セラフィナが驚く。「その意志…! 私の誘惑を跳ね除けるなんて…!」
彼女の声に焦りが混じる。
エリオットが前に進み、色欲のカルマを放つ。
「セラフィナ、きみの愛は偽物だ。俺の色欲で、その仮面を剥がしてやる!」
ミリアが扇を広げ、薔薇と鎖の力が舞う。
「エリオット様、私の扇であなたの力を届けます!」
リシアは胸の痣を通じて、セラフィナの色欲がエリオットのそれと共鳴しつつ、傲慢のカルマに抑えられるのを感じる。
「この相性…アルヴィン様の傲慢が効く! エリオット様、ミリアさん、隙を作って!」
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セラフィナ・ヴェルミリオンは、百年前、エリュシオンの貴族を魅了した伝説の歌姫だった。愛を求め、民を癒したが、裏切りと孤独に心を蝕まれ、色欲のカルマに堕ちた。ギルバート・ヴァンデル=アークノスによってヴァルグリス・聖域の力で復活し、誘惑の化身と化していた。
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「エリオット・ラヴェンダー! 貴様の色欲など、私の愛の前では色あせる!『欲望を縛る棘の蔓』」
セラフィナが扇を振り、薔薇の蔓がエリオットとミリアを襲う。
蔓は心を惑わし、動きを封じようとする。
エリオットが色欲のカルマを放ち、誘惑の波で蔓を弱める。
「愛? きみのそれはただの支配だ。俺の色欲で、きみを足止めする!」
ミリアが扇を振り、「時間と呪いに蝕まれた混沌の嵐」で薔薇と鎖の風を放つ。
風がセラフィナの蔓を絡め取り、彼女の動きを制限する。
リシアが前に出る。
「エリオット様、ミリアさん、ありがとう! 私の傲慢で、セラフィナを倒す!」
シルフィードに傲慢のカルマを集中し、「王の被りし風の精霊」で王冠の光を放つ。光がセラフィナの誘惑を打ち消し、彼女の動きを鈍らせる。
セラフィナが笑う。
「絆? 愛のない絆など、脆い玩具よ!」
彼女の扇が薔薇の嵐を巻き起こし、リシアを押し返す。
だが、エリオットの色欲が嵐を弱め、ミリアの扇がその隙を突く。
リシアが叫ぶ。
「エリオット様、ミリアさん、今よ! この相性が鍵!」
ミリアが扇にカルマを集中し、「時間と呪いに蝕まれた混沌の嵐」を放つ。
薔薇と鎖の爆風がセラフィナを包み、彼女の動きを完全に封じる。
エリオットが続ける。
「ミリア、俺の色欲を乗せろ!」
彼のカルマがミリアの扇に流れ込み、爆風が誘惑の力を帯び、セラフィナの心を揺さぶる。
リシアがシルフィードを振り上げる。「アルヴィン様の傲慢と、私たちの絆で…!」王冠の光が刃に集まり、「覇王の嵐」がセラフィナを襲う。
光が彼女の痣を貫き、色欲のカルマが砕ける。
セラフィナが膝をつき、扇を落とす。「私の…愛は…終わるの…?」彼女の瞳から誘惑の光が消え、静かな光が宿る。「…かつての私は、民を癒した…。解放してくれて…ありがとう…。」
彼女の身体は薔薇の花びらとなり、霧に溶けた。
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エリオットが息を整え、ミリアに微笑む。
「ミリア、きみの扇、最高だった。俺の色欲も悪くなかっただろ?」
ミリアが笑う。
「エリオット様、あなたの魅力がセラフィナを動揺させました。私たちの絆とリシアさんの傲慢が勝利を呼びました!」
リシアは一行を見やり、シルフィードを握る。
「セラフィナの幻覚を、皆の絆とカルマの痛みが打ち破った。
円環の理…また一つわかった。傲慢が色欲に強い。
ガルド様の憤怒、ルーカス様の怠惰、そして私の傲慢…この法則をもっと知れば、ギルバートに勝てる!」
彼女の声には希望が宿る。
バルクレイドが鎌を振り、「リシア、俺の暴食で次の敵を喰らい尽くすぜ!」と笑う。
クラウディアが鎖を握り、「リシア、この相性と絆を活かせば、アルヴィン様を救えるわ!」
一行は霧を突き進み、ヴァンデル砦の最深部へ向かう。
リシアの心に、アルヴィンの声が響く。
(リシア、俺の戦乙女…お前の絆とその法則が、俺を救う)




