絆の鎖――追跡の決意
シルヴァーナの大広間は、春の陽光が差し込む中、冷たい静寂に包まれていた。
リシア・シルヴァーナは床に膝をつき、砕け散ったシルフィードの光の粒を見つめていた。
彼女の主、アルヴィン・シルヴァーナが、ギルバート・ヴァンデル=アークノスによって連れ去られた。
胸に刻まれた七つのカルマ
――傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲――
の痣が熱く脈打ち、暗い奔流が彼女の心を締め付ける。
アルヴィン様、あなたの孤独が私の胸を刺す。どうか、私に力を…!
リシアの碧い瞳は涙に揺れ、震える手が床を掴む。
私が…私が守れなかった。シルヴァーナの戦乙女として、アルヴィン様を…!
カルマの重さが容赦なくのしかかる。
アルヴィンの傲慢がもたらす孤高の痛み
ガルドの憤怒が燃やす怒り
バルクレイドの暴食が喚く飢え
――それぞれがリシアの精神を蝕み、絶望の影を濃くしていた。
私の信念は、ただの夢だったの? こんな力では、アルヴィン様を救えない…?
レイラとミリアがリシアを支え、鋭い声で呼びかける。
「リシア、しっかり!」レイラの野性的な瞳がリシアを射抜く。
「あなたの胸の痣、感じて! アルヴィン様との絆はまだ生きてる! それが戦乙女の証でしょう!」
ミリアが柔らかく続ける。
「リシア、アルヴィン様はあなたを信じてる。私たちも、あなたの力を知ってる。立ち上がって!」
リシアは胸に手を当て、痣の脈動を感じる。
確かに、アルヴィンの存在が遠くで響いていた。
アルヴィン様…あなたは生きていらっしゃる。私の忠誠は、決して揺らがない!
彼女は涙を拭い、ゆっくり立ち上がる。
だが、ギルバートの圧倒的な力と、戦聖騎士リュシエルの存在が、彼女の心に恐怖の棘を残していた。
あの力は、カルマを超えるもの。
私一人では…
円卓に集う七人のロード――
クラウディア・グリーンヴァイン、
ガルド・レッドフォージ、
ルーカス・ブルーストーン、
ソフィア・ゴールドウェル、
バルクレイド・クロウ、
エリオット・ラヴェンダー――
とそのメイドたちが、動揺を抑えてリシアを見つめる。
ガルドが拳を握り、吼える。
「くそくらえ! あのギルバートって野郎、アルヴィンをさらって何を企んでやがる!
俺の憤怒をぶちかましてやるぜ!」
マリカが冷静に言う。
「ガルド様、落ち着いてください。ギルバートの力は未知数です。
セレナとティナの攻撃を一瞬で無効化し、空間を裂いて現れる…
まるでカルマそのものを操る存在です。」
クラウディアが眉を寄せ、ソフィアに問う。
「ソフィア、あなたはギルバートを知っていたわね。
彼は一体何者? なぜアルヴィンを狙ったの?」
ソフィアは唇を噛み、声を低くする。
「ギルバート・ヴァンデル=アークノス…エリュシオンの古い伝承に名が残る男。
私の前に一度現れた。
その時は、ダリウスの一件の絡みで行商の元締めとしてゴールドウェル家に現れました。
威風堂々とした雰囲気は只モノではないとすぐにわかったのだけれど、まさか伝説のロードだとは思わなかった。
その時交渉に当たった父が『ギルバート氏…伝説の名前と一緒ですね』と言っていたのを覚えていたので後から調べさせたの。只モノではないとわかったから…そこで分かったのは
百年以上前、カルマの力を操り、エリュシオンを支配しようとしたロードだったと。
歴史書では、彼は封印されたとされている…ので、私も本物とは思っていませんでした」
エリオットが静かに続ける。
「彼が言った『贖罪のヴァルグリス・聖域』…アルヴィンとリシアが統一した七つのカルマが、その鍵らしい。ギルバートはアルヴィンを利用して、何か強大な力を解放しようとしている可能性がある。」
リシアはシルフィードを握り直し、光の粒が再び集まる。
七つの紋様――炎、鎖、砂時計、金貨、牙、薔薇、王冠――が輝き、彼女の決意を映す。
ギルバートが何を企もうと、アルヴィン様を取り戻す。
それが私の役目…シルヴァーナの戦乙女として! だが、彼女の心にはまだ迷いがあった。
私一人では、ギルバートに勝てない。カルマの重さに、私の心が潰されそう…どうすれば…?
リシアが沈黙する中、マリカが静かに言う。
「リシア、アルヴィン様が最後に残した言葉を思い出して。
彼は言ったわ、『リシア…君との絆が漆黒の深淵なる闇の中で、私を繋ぎとめてくれている銀の鎖であることを』って。
あの言葉は、私たち全員へのメッセージでもある。」
リシアの瞳が揺れる。
アルヴィン様…あなたは、私たちの絆を信じていた。
彼女はアルヴィンの言葉を反芻し、心に刻む。
銀の鎖…心の絆…それが、私たちの力の源。
ギルバートに立ち向かうには、皆の絆を一つにしなきゃいけない!
バルクレイドが鎌を肩に担ぎ、豪快に笑う。
「リシア、てめえの信念は俺の暴食を癒したぜ。アルヴィンの言う通り、絆が俺たちを強くするなら、ギルバートだろうが喰らい尽くしてやる! レイラ、準備しろ!」
レイラが頷く。
「バルクレイド様、リシアの絆は私たちの暴食を癒しました。ギルバートを叩き潰しましょう!」
ルーカスが肩をすくめ、言う。
「面倒だが、アルヴィンがいなけりゃエリュシオンの均衡が崩れる。リシア、君一人で突っ走るつもりではないよね? 僕の怠惰も、今回は役に立ててやる。」
クラウディアが静かに言う。
「リシア、あなたの戦いは、私の嫉妬を浄化した。
エミリアの亡魂を鎮めるためにも、ギルバートを止めるわ。セレナ、準備して。」
セレナが鎖「クルーエルチェイン」を握り、答える。
「クラウディア様、リシアと共に戦います。ギルバートの霧を切り裂くわ!」
ソフィアがリシアに近づき、言う。
「リシア、あなたの強欲を受け入れた時、私は自分の欲を制御できた。ギルバートは私の過去を知っている…彼の目的を確かめたい。ティナ、準備して。」
ティナが金色の短剣を閃かせ
「ソフィア様、リシアの絆なら、どんな深淵も乗り越えられるわ!」と応じる。
エリオットが微笑み、言う。
「リシア、君の純粋な想いは、僕の色欲を癒した。
アルヴィンを救うなら、僕の力も貸すよ。ミリア、君もいいね?」
ミリアが頷く。
「エリオット様、リシアの信念は本物です。私も、アルヴィン様を救うために戦います!」
リシアはロードたちの言葉に胸が熱くなる。皆…私の戦いを信じてくれる。
アルヴィン様との絆が、皆の心を繋いでいる! だが、カルマの重さが再び彼女を襲う。
胸の痣が焼けるように疼き、アルヴィンの傲慢が囁く。
リシア、お前一人で俺を救えるのか? お前の力は足りない… リシアは歯を食いしばり、心の中で叫ぶ。いいえ、アルヴィン様! 私は一人じゃない。皆の絆が、私を支える!
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リシアは円卓を見渡し、声を上げる。
「皆さん、ギルバートに立ち向かうには、私たち戦乙女の力が足りません。
アルヴィン様が言った『銀の鎖』…それは、カルマを絆で共有すること。
私たち戦乙女が直接つながり、カルマの力を分担し、強化すれば、ギルバートにも対抗できるはずです!」
マリカが頷き、言う。
「リシア、その通りよ。カルマは一人で背負うと心を壊すけど、絆で分散すれば制御できる。ガルド様の憤怒を私が支えたように、私たちで力を分かち合いましょう。」
ティナが短剣を手に、言う。
「リシア、カルマを共有すれば、私たちも複数のカルマを使えるようになるかもしれない。私の強欲と、例えばバルクレイド様の暴食を合わせれば、ギルバートの霧を突破できるかも!」
リシアは深く息を吸い、決意を固める。
「では、皆さん、輪になって手を繋いでください。私が中心となり、シルフィードを通じてカルマを共有します。アルヴィン様の言葉を信じて…絆で力を取り戻しましょう!」
戦乙女たち――リシア、セレナ、マリカ、エリナ、ティナ、レイラ、ミリア――がホールの中央に集まり、手を繋いで輪を作る。
ロードたちは円卓の周りに立ち、彼女たちを見守る。
リシアはシルフィードを胸に当て、目を閉じる。
アルヴィン様、あなたの信念が、私たちを導く。銀の鎖を、強く…!
リシアがシルフィードを掲げると、七つの紋様が輝き、大広間に光の奔流が広がる。
彼女の胸の痣が熱くなり、カルマの力が戦乙女たちに流れ込む。
リシアは心の中で呼びかける。
傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲…皆の痛みを、私が受け止める。
でも、この絆で、力を制御する!
戦乙女の周囲をカルマのオーラが覆う。七色の光の渦になりやがて弾けた。
戦乙女達の戦闘衣装が変化し、武器も変容する。
セレナが鎖をまとう戦斧を握り、言う。
「リシア、クラウディア様の嫉妬と、ガルド様の憤怒を感じる…! 私の戦斧『チェインリーパー・トゥームブレイカー』が、炎と鎖を纏うわ!」
マリカが頷きその手には巨大な刃が備わる弓を持つ。
「ガルド様の憤怒と、ソフィア様の強欲…私の弓『ブレイドゲイル・アルテミス』に、炎と金の力が宿った!」と応じる。
エリナが静かに言う。その手には魔法石が嵌った鋭い槍が握られている
「ルーカス様の怠惰と、エリオット様の色欲…私の槍『「ルースフル・カースホーン』が、砂と薔薇の力を帯びる。」
ティナが双短剣を閃かせ
「ソフィア様の強欲と、バルクレイド様の暴食…私の刃『グリードイーター・ツインファング』が、金と牙の力を得たわ!」
レイラが巨大な鎌を握り
「バルクレイド様の暴食と、アルヴィン様の傲慢…私の鎌『グルトニクス・ルシファリアン』が、牙と王冠の力を纏います!」
ミリアが微笑み手にした巨大な鉄扇を広げる。
「エリオット様の色欲と、クラウディア様の嫉妬…私の扇『ラスティーヴ・チェインソウル』に、薔薇と鎖が宿った!」
リシアは戦乙女たちの力を感じ、胸の痣が調和するのを感じる。
皆の絆が、カルマを一つにしている。
アルヴィン様、この力で、あなたを救う! 彼女はシルフィードを高く掲げ、叫ぶ。
「シルヴァーナの戦乙女、リシア・シルヴァーナ! 皆の絆で、カルマの力を取り戻した!
ギルバートを倒し、アルヴィン様を救う!」
ロードたちが一斉に声を上げる。
ガルドが拳を打ち鳴らし、「おう、リシア! てめえの覚悟、気に入ったぜ! ギルバートに俺の炎を喰らわせる!」
バルクレイドが笑う。
「リシア、てめえの絆は俺の腹を満たした。ギルバートを喰らい尽くしてやる!」
クラウディアが微笑み
「リシア、あなたの純粋さが、私の嫉妬を溶かしたわ。アルヴィンを救うなら、私も力を貸す。」
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ティナが円卓に魔術の短剣を突き立て、言う。
「ギルバートの黒い霧、解析したわ。あの魔力はクロウ領の北、ヴァンデル砦に向かってる。
アルヴィン様はそこにいる可能性が高い。」
リシアは胸の痣を通じてアルヴィンの微かな脈動を感じ、目を閉じる。
アルヴィン様、あなたの心が、私を呼んでいる。
必ず、救い出す!
彼女は円卓を見渡し、宣言する。
「皆さん、アルヴィン様を救うため、ヴァンデル砦に向かいます。
ギルバートとリュシエルの力を超えるには、皆の絆が必要です。
私を…私を信じてください!」
ソフィアが言う。「リシア、ヴァンデル砦はギルバートの古の拠点。
カルマの祭壇があるとされる場所よ。私たちの共有した力なら、突破できる。」
エリオットが頷き、「リシア、君の絆は僕たちを一つにした。アルヴィンを救い、エリュシオンの未来を守ろう。」
ルーカスがため息をつき、「面倒だが…リシアの覚悟には逆らえねえ。行くぜ。」
リシアはシルフィードを握り、七つの紋様が輝く。
「シルヴァーナの戦乙女、リシア・シルヴァーナ! アルヴィン様を取り戻し、エリュシオンの未来を守ります! 皆さん、共に戦いましょう!」
大広間は、春の陽光に照らされながら、絆の熱で満たされた。
リシアの心に、アルヴィンの声が響く。
リシア、俺の戦乙女…お前の絆を、信じている。