第38話
7冊目。表紙が花柄のこのノートは、数日分読んだだけでこれまでの姉と違うことがわかった。
小学校の友達と離れ離れになっちゃったけど、新しい友達を
作ろう。でも、進学校だからなのか、どこか雰囲気が小学校
の時と違う。空気が重い。
皆勉強熱心で頭もいい。全員がライバルって感じで、話しかけ
づらいし、話しかけても素っ気ない。馴染める気がしない。
雰囲気が明らかに暗い。今までの日記は、笑みを浮かべながら書いている姿を想像できたが、この日記からは表情が想像できない。明るい性格の姉は、ここから少しずつ変わっていく。
“誰よりも優秀になれ“ってお父さんに言われて、塾に通うこと
になった。学校でも宿題が多いのに、塾でも宿題が出る。
祐毅に会いに行く時間がない。
お父さんから、医者になるために読んでおきなさいって本を
何冊も渡された。内容を覚えたか、抜き打ちでテストするって。
学校と塾だけでも宿題が多いのに、お父さんからも宿題を
出されたら、自由にできる時間なんてない。
まるで勉強するために生きてるみたいで、疲れる。
塾のテストで1位になれなかった。そうしたら、寝る時間を
削ってでも勉強しろって怒られた。これ以上削ったら、
集中力が無くなるし、また皆を心配させる。誰よりも
優秀じゃないと医者になれないの?
あの人がスパルタなのか、勉強は相当大変だったようだ。医者になるために、勉強に集中するタイミングは早い方が良いのだろうが、中学一年生で勉強以外のことをする時間や寝る時間を削ってまで、勉強をしなければならないのだろうか?あの人は医者なのに、姉の体調を気にしたりはしないのか?まるで私のために勉強しなさいと、姉に無理強いをしているように見える。
だが、日記を読み進めると、さらにあの人のことが理解できなくなった。
もう祐毅には会いに行くなって怒られた。そんな暇あるのか
って言うのは理解できるけど、いずれ死ぬ欠陥品にかまうな、
あいつは私達の家族じゃないって何?父親の言うことなの?
祐毅は私の大事な家族。病気を持って産まれたけど、そんなの
欠陥じゃない。祐毅は絶対に死なない。そう約束したから、
私が医者になって助けてみせる。
学校でも塾でも、やっとテストで1位を取れた。お父さんの
笑った顔を初めて見た。頭を撫でられたのも初めて。
優秀だって褒めてくれたのは嬉しいけど、
”私の家族はお前だけだ”って、どういう意味だろう?
病気の僕が家族と認められていないことは、前からわかっていた。けれど、"私の家族はお前だけだ"という言葉は、姉が書いている通り、意味がわからない。理由はこの先に書いてあるのかと文字を追いかけると、数日後の日記の文字だけ、書体が違った。
お父さんは狂ってる。
"優秀なお前なら、優秀な男児を産める"ってどういう意味?
自分の娘に子供を産ませようとする親なんて、普通はいない。
でも、止めてって何度もお願いしたのに、聴いてくれなかった。
何かお父さんを怒らせるようなことした?勉強頑張ったのに、
どうしてこんな、痛くて、怖くて、気持ち悪いことをするの?
書体が違うのではなく、恐らく震える手で書いた文字なのだ。その日の日記は点々と文字が薄れ、紙が波打っている。
気が付けば、僕の手も震えていた。ノートの両端を強く握りしめ、歯の奥をグッと噛んでいる。無意識に、怒りがこみ上げていた。
これは虐待。子を守るべき立場の親とは思えない行い。"優秀なお前なら、優秀な男児を産める"なんて、イカれた考えだ。第一、母がいるのに、なぜ姉に子供を産ませるなんて考える?誰が読んでも怒りを覚えるであろう内容は、この1回では終わらなかった。
お父さんが怖い。嫌だって言ってるのに、
”子供ができるまで一緒に頑張ろう”って無理やりさせられる。
お母さんとすればいいって言ったら、
”健康な男児が産めない役立たずだからダメだ”って。
この人は私の大事な家族をいつもバカにする。
こんな人、父親じゃない。
抵抗したら押さえつけられて縛られて、大声出そうとすると
口に服を詰められる。怖くて、嫌なのに、私の体じゃない
みたい。自分が気持ち悪い。汚い。こんな私じゃ、祐毅に
会えない。祐毅まで汚れてしまう気がする。力があれば。
女じゃなかったら。この人の子供じゃなかったら。
やっとわかった。私はただの母体。欲しいのは優秀な跡取り。
勉強を教えたのも、医者にさせるためじゃなくて、賢く健康な
男の子を産ませるため。
”お前は若いから、優秀な男児を産むまで頑張ればいい”って。
あの人はまともじゃない。あの人にとって優秀=頭がいい
だけじゃない。健康であることも要因の一つ。だから祐毅や
祐毅を産んだお母さんを悪く言うんだ。
あいつは姉の体だけでなく、心も傷つけた。僕に会いに来る回数が減ったのは、勉強が忙しいだけではなく、僕を汚してしまうと姉が躊躇ったから。決してそんなことあるはずがないのに、体も心もあいつのせいで弱ってしまったから、何もかもマイナスに考えてしまう。
姉の様子がおかしいと気付いていたのに、僕は何も知らず、何もできなかった。いくら無力だと悔やんでも、この先に記される姉の人生の結末を、もう変えることは出来ない。
どうしよう 生理が来ない
この日の日記はたったこれだけ。きっと気づきたくなかっただろうし、書きたくなかっただろうこの数文字に、姉の絶望が現れていた。そして、毎日几帳面に書かれていた日記が、この後日付が飛び飛びになることによって、日に日に絶望が深くなっていく。
相談できる人なんていない。カウンセラーに話したら、
家族に知られる。お祖父ちゃんもお母さんもショックを
受けるだろうし、祐毅に嫌われる。何より、あの人に
知られるのが一番イヤ。産みたくない。
生理が来たかって聴かれたから、嘘をついた。また一緒に
頑張ろうって優しく言うけど、私はこんなこと望んでない。
でも、もう抵抗する気力がない。辛い。苦しい。
何もかも終わりにしたい
僕達には辛い気持ちを吐き出せず、ずっと一人で抱え込んでいた。一緒に過ごす時間の多かった祖父と母の前で、隠すのはどれほど苦しかったろう。話せば力になってくれたかもしれない。けど、話してどう思われるか、それを想像すると怖くて話せない。きっとこの日記に書くのも、相当悩んだはずだ。
この後、日記は書かれなかった。ノートの空白が、姉の辛さと苦しみを想像させる。だが、ページを捲ると、意外な文章で日記は再開されていた。
今日、夢を見た。初めて祐毅と対面した時の夢。産まれて
暫くは会えなくて、ガラス越しに毎日見てた祐毅に、
ようやく会えたあの日。落とさないように気を付けてって
お母さんが抱っこさせてくれた。腕の中でスヤスヤ眠ってる
祐毅は小さくて、可愛くて、腕がプルプルするまでずっと
抱っこしてた。それで思い出した。私がこの子を守る、
そのために先に産まれてきたんだって、思ったことを。
病気を持って産まれたけど、絶対に見捨てない。いつか
治るって信じて、一緒に闘う。医者になりたいって気持ちが
芽生えたのは、この時かも。だから、祐毅だけは絶対に助ける。
それが、お姉ちゃんの役目。
それは、僕と初めて対面した時の光景を、夢に見たと言う日記。もちろん、僕に記憶はない。姉だって3歳だから、夢に見たものが全て、記憶と一致しているかは定かではない。だが、この夢という名の記憶。読んでいると、少しだけ姉が辛さから逃れられたように感じる。まだ遅くない。誰かに相談して、あの人から逃れることができれば、希望が見えてくるはず。そんな叶わぬ望みを持ちながら、ページを捲った。
次のページから、このノートは日記帳ではなくなった。ノートの横線に綺麗に収まっていた文章とは真逆に、殴り書きのように横線を無視したメモがたくさん書かれている。なぜ日記を止めたのか?このメモの意味は?その答えを見つけるため、一つ一つをじっくりと読んでいく。
最初に書かれていたのは、図のようなもの。✕で消された“私“、少し間を開けて横に書かれた“祐毅“、そして二つとは逆三角形の位置に書かれた“X“。“私“の上部には“脳死“と書かれ、僕の名前に向かって矢印が伸びている。矢印の上には“心臓“、僕の上には“移植=健康“。そして、僕の横には“優秀な跡取り“と言う文字が✕で消されていた。“X“からも僕に向かって矢印が伸びていて、矢印の隣には“手術・利用?“と書かれている。その逆三角形の下には、箇条書きが続いた。
●自殺による親族優先提供✕→祖父・母不在なら強行するか?
●手術成功後、跡取りとして利用→祖父に守ってもらう
この図を見ただけで、姉が何をしたのか察しがつく。精神的・肉体的に辛かったことも理由の一つだろうが、僕に心臓を渡すために、姉は自殺した。祖父と母に宛てた手紙は遺書。そして、僕に読ませたかったのは、この7冊目の日記だ。だが、なぜ僕にだけ遺書ではなく、この日記なのか。きっとこの日記を最後まで読み終えないとわからない。かすむ視界を指でこすりながら、続きに目を走らせる。
縦にX・祖父・母と名前が並び、Xの横には日付、祖父と母の横には◯✕がずらりと書かれている。どうやらチェック表のようで、母の欄だけは全て✕になっていた。そして、チェック表の下に、”母が夜勤の時だけ部屋に来る”、”頻度は2週に1回くらい”と、まとめが書かれていた。その他にも、心臓移植のドナー条件、脳死の判定方法、移植手術後の治療日程と郵便の配達日を並べた表などがメモされている。
メモは、姉が計画に必要な情報を書き記したもののようだ。乱れ書かれたメモは文字が大きく、そちらに目を引かれて気づかなかったが、どうやら日記は止めていなかったらしい。メモの途中に時々、綺麗に横線に収められた文字が並んでいた。
久々に祐毅に会いに行ったら、すごく体調が悪そうだった。
見てるのが辛い。もし神様がいるなら、祐毅を治してあげて
ほしい。自分が一番苦しいはずなのに、私のことを心配して
くれる優しい弟なんです。
笑った方が可愛いなんて言う、褒め上手に育つとは
思わなかった。祐毅はきっといい男になるんだろうね。
お願い、もう少し頑張って。必ず助けるから。
あの人はプライドが高い。娘が優秀なのは親の教育が良いから
親が優秀だからって言われて満足そうにしてた。
そんな言葉に満足するあの人も、そんな言葉をかける周りも
気持ち悪い。
あの人にとって子供は、家族は、自分の優秀さを周りに示す
ための道具。自分の評価を下げる人は家族じゃない。
そんな考えを持ってる人、こっちだって家族と思わない。
あの人の家族なんて、いない。
自殺するのは弱い奴、優秀じゃない、きっとそう考える。
”優秀な自分の娘が自殺”という事実は隠そうとするはず。
私と祐毅の血液型は一緒だから、たぶん移植を思いつく。
“事故で亡くなった娘の心臓で、息子の病気を治した“
こういう美談は好きそう。悲しみの中でも、病気の息子を
救うために苦渋の決断をした、なんてね。けどそれでいい。
もし思いつかなかった時の保険を準備しないと。
僕の様子を記す合間に、あの人のことが時々書かれていた。その内容は、まるであの人の性格を見透かすような、行動を予想するような、冷静な分析。僕のことを書く時とは違って、感情のない文章だった。
その後は、脳の仕組みを理解しようとしたのか、人の頭の断面図が描かれ、難しい言葉がメモされていた。だが、どれも✕や?が書かれ、図の下にはこう記されている。
どうやったら脳死になるか、確実な方法はない。最後は”運”。
無駄死にするかもしれないけど、私は二人の運を信じてる。
そして最後に、二つの日付が書かれ、何重もの丸で囲まれていた。一つ目の日付は、僕の病室に泊った日。そこから矢印が伸びた二つ目の日付は、祖父に手紙が届いた日。その日付の上には”配達指定日”と書かれていた。
その後、ノートは空白になった。何枚捲っても何も書かれておらず、僕に読ませたかった内容はこれで全部なのかと思った時、ノートの最終ページにびっしりと文字が書き込んであった。
祐毅へ
無事に退院して、私の日記を読んでいると信じて書きます。
弱っちぃお姉ちゃんでごめん。約束、守れなくてごめんね。
祐毅を弱いと思ったことは一度もないよ。小さな体で
大きな病気を背負って産まれてきた祐毅は、苦しい状況を
何度も乗り越えて、頑張って生きてきた。自慢の弟だよ。
私の弟に産まれてくれて、本当にありがとう。
祐毅のお姉ちゃんになれて、本当に幸せだった。
辛い時、祐毅の笑顔を思い出すと、不思議と力が湧いてきた。
祐毅がいつも私に元気と勇気をくれたの。だから、私も祐毅を
助けたいと思った。こんなやり方しか思いつかなくてごめん。
退院したら何がしたい?ずっと病院から出られなかったから、
広い世界に出て自由に生きてほしいと、私は思ってる。
やりたいことに熱中したり、好きな人と結婚したり、祐毅が
幸せだと思える人生を送ってほしい。
あの人には気を付けて。一緒にいたら何をされるかわからない。
大人になるまではきっと、お祖父ちゃんが守ってくれるから、
あの人と無関係な人生を歩めるように、色んな力をつけてね。
私の心臓が、祐毅を長生きさせてあげられることを祈ってる。
ずっとそばで見守ってるからね。大好きだよ。
終わりにしたい、そう書いた時にはきっと、自殺を考えていた。でも、僕の夢を見た時に、その死の意味を”僕を救うこと”に変えた。決心した日からあの夜までずっと、辛く苦しい気持ちを周りに隠し、僕を救う計画を一人で立てた。
このページも点々と波打ち、文字が薄くなっていた。その上に落ちる雫で、さらに文字は薄くなる。
「なんで……なんでいつも勝手に決めるんだよ!一人にするなって言ったのは、そっちじゃんかよ…」
僕が力になれないことなんてわかってる。年下だし、子供だし、病気だし、頼りないって思われても仕方ない。でも、話してほしかった。姉は何も悪くないのだから、嫌いになるわけがない。一人で悩まず、苦しい気持ちを吐き出してほしかった。もしかしたら二人でどこか遠くに逃げて、一緒に死んだ方が、あの人への復讐になったかもしれない。
プレイルームに連れて行った時も、今回も、いつも姉は勝手に決めて行動する。一言くらい相談しろよって毎回思うけど、落ち着いて考えれば全部僕のためだった。
「うっ…うぅ…姉ちゃん……姉ちゃぁぁぁん……うあ゛あぁぁ゛ぁ」
会いたい、数分でもいいから。あの日が最後だって知ってたら、もっと伝えたいことがあったのに。
僕の病気が早く治っていたら、姉は虐待されなかったのか?僕があの人に言われたことを祖父に伝えていたら、姉を守ってもらえたのか?僕が産まれていなかったら、姉が医者になろうとあの人に近づかなかったし、あの人が姉を利用しようと考えなかったのではないか?
どれだけ後悔しても、涙を流しても、もう姉には会えない。
「祐毅?どうした!?大丈夫か?」
祖父の声が聞こえる。僕の泣き声が大きかったのか、部屋に入ってきた。目の前に膝をついて、優しく抱き締めてくれた。よしよしと落ち着いた声を掛けられ、背中をゆっくりと撫でられると、僅かだが気持ちに余裕が生まれる。
この日記には、大事な部分が書かれていない。それを、祖父なら知っていると思った。
「祖父ちゃん……姉ちゃんは、ぐすっ…どうやって、死んだの?」
背中を撫でる手が止まる。辛いことを思い出させているのはわかってる。でも、僕は知らなければならない。自分の身を犠牲にして僕を守ってくれた、姉の最期を。この日記には書かれていない、計画の結末を。
「儂が聴いた話では、病院の敷地内で、頭から血を流して倒れていたらしい。窓から落ちたのではないかと…」
姉は頭から飛び降りた。脳死になるかわからない、心臓も止まるかもしれない。脳死と心停止、どちらかの状態になるまで、ずっと痛かったかもしれない。生きている時にたくさん苦しんだのに、どうして死ぬ時まで、痛い思いをしなければならないのか。
「僕の心臓は…姉ちゃんのなんだね…」
「っ!どうしてそれを…」
祖父は驚いて、僕を離した。肩に手を置き、たぶん僕の顔を見ながら言葉を待っている。ぼんやりしていて、目が合っているかはわからない。
「全部!全部、これに書いてた……姉ちゃんは…飛び降りたんだ!」
ノートを両手で持ち、祖父の胸に押し付ける。スッと手から抜けるのを感じると同時に、目から涙が一気に溢れ出た。天を見上げ、声を上げ、とにかく泣いた。体中の水分が全て涙として出て行ったのではないかと思うくらい、襟元が濡れ、喉がカラカラになった頃、祖父はポツリと言葉を発する。
「祐毅には見せない方がいいと思ってたんじゃが…」
声がした方に顔を向けると、祖父が何かを僕の前に差し出していた。両手で顔を拭い、視界がクリアになると、緑色のカード状のものが見えた。祖父の手から受け取って、カードを見てみると、中央にハートマークがあり、その中に天使のようなキャラクターが描かれている。そして、そのハートの上部には“臓器提供意思表示カード“と書かれていた。
「裏を見てみなさい」
カードを裏返すと、白地にたくさんの文字が書かれていた。カードの最初には、3つの選択肢。そのうちの“1“に丸がついていた。さらに目線を下ろしていくと、ある1点で目が止まる。それは、括弧で囲われた“特記欄“。その文字の隣に、手書きで“心臓は祐毅に。それ以外の全てを、待っている子供達に“と書いてあった。
たぶん、これが保険。あの人が移植を思いつかなかった時、自らの意思を利用して僕に心臓を移植するように仕向けた。加えて、それが自殺という事実を隠す手段でもあると、まるであの人には得しかないかのように誘導した。
「なんで…なんでここまでするんだよ……」
僕の事なんて考えなくてよかったのに。あの人の考えなんて理解しなくてよかったのに。ただ自分を、もっと大事にしてほしかった。僕に死ぬなと言ったように、僕だって姉に死んでほしくなかった。
涙は、そう簡単に枯れないらしい。また視力が悪くなり、頬を水が流れていく。だが、今回は声が出なかった。知らず知らずのうちに、上下の歯が強く重なっていた。そんな僕の体は、再び祖父の腕に包まれる。
「この秘密も、祐毅の事も、儂が守る。紬祈の頼みじゃからな。もうあいつのことは忘れて、幸せに暮らすんじゃ。今日から儂が父親代わりになる」
祖父の腕の力は痛いくらい強かった。でも、話す声は弱々しく震えていた。大人だって、大事な家族が死んだら悲しい。誰かのせいで死に追い込まれたのなら、そいつが憎い。祖父を慰めたい気持ちとあの人への憎しみが混ざり合った僕は、祖父の背に両手を回すと、片手で背中を撫で、片手で強く拳を握った。




