二人の魔王 前編
「魔王、ですと? 魔族を束ねる者・・・」
シュナイダーから怒りの気を感じ取るアネラ
「シュナイダー様、如何なさいましたか?」
「私の故郷は魔族に滅ぼされました
国は他国によって潰されましたがこのとき妻と娘を失った
妻と娘を殺したのは人だ、だが元はと言えば魔族のせいです
魔族との戦争で我が国は疲弊したため侵攻を阻止できなかった
しかも私が不在のときを狙われたのです
魔族の襲撃がなければ私は国を離れることはなかった
その魔族たちを束ね率いる王、それが魔王」
両の拳は強く握り締められて震えています
「その魔王が、この館の当主ですと?
ここは魔族の地だったのか!」
怒りの叫びを上げるシュナイダー
「アネラ殿、貴女の主はその魔王なのですか?
貴女は魔族ではないですよね、どういうことですか
いやそれよりも、その魔王はどこにいる!」
「シュナイダー様・・・」
いつの間にか双剣を手にしていたシュナイダー
魔族によって滅びた故郷、その余波で潰された国
そのために殺された家族、怒りが支配する
怨嗟の声を聴き、アネラはかける言葉が見つからない
「魔王は絶対に殺す!」
猛り狂う亡国の英雄シュナイダー
「落ち着きなさいシュナイダー!」
シュナイダーの前に立ち、まっすぐ目を見るローラ
「ローラ様、ですが魔王は人類の敵でございます」
「ええ、そうかも知れません」
「ローラ様も勇者様と魔王討伐の旅をしていらしたではないですか!」
「そうですわよ」
「ならば、お止めにならないで下さい!」
「冷静におなりなさいシュナイダー
この話、少々おかしな点があるのです」
「え? おかしな点?」
「魔族に故郷を滅ぼされたのはいつなのかしら?
魔族が進軍してきたのはいつのことかしら?」
シュナイダーはローラの真剣な眼差しに少しだけ冷静になる
「私が35歳のときなので39年前でございます」
「アネラ様が仰った魔王はここの地下聖堂に封印されているのですよね」
「はい、ローラ様」
「封印されたのはいつかしら?」
「100年前です」
「あ・・・」
シュナイダーも理解しました
100年前に封印された魔王が39年前に進軍命令など出せません
「では魔王不在で魔族どもが好き勝手に進軍したということは」
「個別の魔族が人を襲うことはあるでしょう
ですが魔王軍、軍隊は魔王の命令なしでは動きませんよ」
「ローラ様の仰るとおりです」
「それでは一体・・・」
怒りは消えて双剣も鞘に納めるシュナイダー
「そもそも名前が違いますわ」
「名前が違う?」
「私と勇者様たちが討伐に向かった魔王の名はトライゾン
地下聖堂に封印されている魔王の名はセラフィム
恐らくセラフィム封印後に即位したのがトライゾンですわよね」
「はい、現在の魔王はトライゾンでございます
セラフィム様が封印されたあと勝手に即位されました
進軍命令を出したのはトライゾンだと思います」
「魔王が二人? 一体どういうことなのでしょう」
「アネラ様、ご説明いただけますか」
「もちろんでございます」
シュナイダーも説明を大人しく冷静に聞きます
100年前、セラフィムが魔王であった時代
魔族の大陸は他の大陸と主だった交流はありませんでした
ただ角を隠して人に紛れて他の大陸へ行くことはありました
セラフィムは他種族へ危害を加えるなと王命を出していました
そのため魔族が人を襲うことはありませんでした
「アネラ、おかわり」
「はい、セラフィム様」
炎のような髪と燃えるような赤い瞳
容姿は中学生ぐらいの少女、それが魔王セラフィム
館の庭でお茶をするセラフィム
アネラは給仕をしています
「セラフィム様、そろそろ公務にお戻り下さい」
「おお来たかトライゾン、お前も一緒に茶を飲め♪」
「トライゾン、貴方の好きなカヌレもありますよ」
「セラフィム様を甘やかすなアネラ」
そう言いながら椅子に座りカヌレを一口食べるトライゾン
セミロングの黒い髪と蒼く輝く瞳
長身でそれなりに鍛えられている身体の青年
セラフィムの側近で魔王軍の参謀も務めている
それがトライゾン
「では私もいただきます」
「まったく仕方がありませんね」
「わはは、お前たちと一緒だと楽しいぞ♪」
アネラとトライゾン、二人は魔王の両腕と呼ばれる側近です
セラフィムは二人を心から信頼しています
セラフィムは公務に飽きたら抜け出してこの館でくつろぎます
それを追って来た二人も結局一緒にくつろぐことになります
これがセラフィムたちの日常でした
トライゾンの裏切りが起こるまでは




