悪魔召喚
薄暗い室内、冷たい石畳の床
部屋の中央に大きめの怪しげな魔法陣
魔法陣の外周には等間隔で13本のロウソクが立てられている
魔法陣の中心にリナは置かれていた
手足を縛られていて身体が動かせない
(警備兵さんの言っていた人さらいなのかな)
目が慣れてきたのであたりを確認するリナ
四方の壁側へ何かがたくさん固まって置かれている
(イルザ様とニコル様はご無事なのでしょうか)
扉が開いて部屋へ犯人が入ってくる
黒いフード付きのローブを着た男
「最後の一人が貴族でもない生意気な小娘なのは残念だ
仕上げはもっと質のいい子供でやりたかったが我慢しよう
だがこれで私の野望が叶えられる」
「あなたは誰ですか?」
リナは男を見据えて聞きます
「この状況で平然として本当に生意気だな、恐くないのか?」
「恐がったり泣いたりしても無意味ですから」
リナの落ち着きようにやや呆れる男
これで最後だからと男は語り出す
子供を4日毎に一人ずつ生贄にする
666人の子供を生贄に捧げることで完成する儀式
リナが666人目なので最後の仕上げということです
これは悪魔を召喚して契約する儀式
男は悪魔の力でこの国を支配しようと考えています
そのあとは他国を攻めることも画策している
「この国は私の研究を認めなかった
それどころか私を危険人物だと罰して追放した
絶対に許さない、これは復讐だ!」
男は人に魔物の身体を移植して強靭な生体兵器を作る研究をする
それを国には秘密にして行っていました
しかしバレてしまい男は処罰され研究所は閉鎖
自業自得の逆恨みです
「ではわたしは生贄として殺されるのですね」
「そういうことだ」
赤子のときに孤児院の前に捨てられていたリナ
だけど孤児院のみんなと家族として暮らしていた
称号を得てからは領主様のところで幸せな日々だった
孤児の自分がずっと幸せ過ぎた
その分の不幸がまとめて降りかかったのだとリナは思う
(イルザ様が生贄にならなかったからこれでいい)
リナはお世話になった人たちに感謝しながら覚悟をする
「それでわたしは刺されたり焼かれたりするのですか?」
「もう少し怖がれよ、逆に心配だ」
死を前にして平然とするリナにガチで呆れる男
「まあいいだろう、お前自身には何もしない
身体に傷や異常があると儀式の精度が落ちるからな
ただ儀式が終わればあの子たちのようにはなるがな」
男は壁側の何かの固まりに目を向ける
暗がりに目が慣れたのとロウソクの灯りでかすかに視認できた
それはたくさんの子供たちの死体だった
身体が損傷している子、焼けただれている子など
無造作に固められ壁側に集められていたのです
さすがにリナも驚く
「やっと表情が変わったな、お前の前の665人の子供たちだ
儀式が終わるとき身体の一部が弾けたり燃え上がったりする
生贄だからな、悪魔が魂を奪うためにやったのだろう」
(酷い、でもわたしにはどうすることもできない、、、)
「では最後の儀式を始める、私の野望の礎となれ小娘」
男は詠唱を始める、魔法陣から黒い靄がゆらめく
リナの身体に変化はない、痛みもない
黒い靄がリナの身体にまとわりつく
すべての詠唱が完了する
「いでよ悪魔、ここに来りて我と契約せよ!」
黒い靄が柱のように噴き出す
リナの身体が消滅する
「おお、最後だから完全消滅したか」
黒い靄が霧散して悪魔が現れる
長い漆黒の髪、闇の瞳に灰色の角
長身で黒い法衣のような衣服
「よくぞ召喚に応じてくれた、さあ契約だ」
『・・・何を言っているんだ貴様は
貴様と契約するわけがなかろう』
喜び浮かれていた男が固まる
「お前は私の契約召喚に応じて現れたのだろう?
このために生贄を捧げ続けたのだぞ
なぜ私と契約しないなどと言うのだ!」
悪魔は部屋を見渡し魔法陣を確認する
少し呆れて小さくため息をつく
『なんだこの魔法陣は、色々と間違っておるではないか
生贄と言っていたが私に生贄は不要だ』
「そ、それでは私のこれまでの苦労は
だがならなぜ最初に来なかった!」
『最初もなにも呼び出しを受けたのは今回が初めてだ
これまでの呼び出しなど私には届いていないから知らぬ』
男は一体何がどうなっているのか混乱する
「そうだ、消えた小娘! あの小娘が消滅してお前が現れた
なら小娘が生贄となって呼び出されたのではないのか?」
『小娘? そいつをこの魔法陣の中心に置いていたのか?』
「そうだ」
悪魔はなるほどといった感じで納得した顔をする
「納得したのか? ならば契約を」
『だから貴様とは契約するわけがないと言っておるだろう』
「なぜだ、この召喚は失敗なのか?
丹念に準備をしてここまで月日を重ねやってきたのに」
『教えてやる、まずこの魔法陣自体生贄を必要としない
私と契約するための条件を満たしている者は一人必要だがな』
生贄が必要ないと言われて愕然とする男
「私と契約しないのは条件を満たしていないからなのか?
ならなぜここに現れた?」
『はあ、貴様にこれ以上説明するのも面倒だし義務もない
だが一つだけ、私は子供を平気で殺す輩は嫌いだ』
「はあ? お前、悪魔だろ?」
『悪魔への風評被害が激しいな人間というものは
もういい、話は終わりだ』
「へ? んぎゃあああっ!!?」
悪魔が右手をかざすと男の身体が燃え上がる
そして身体中の骨がボキバキと折れまくる
『罪なき子らの同等以上の痛みと苦しみをその身で受けよ
強力な自己再生を施してあるから永く苦しむがよい
安心しろ、一年ほどで自己再生は止まるから死ねるぞ
それまで己の罪を省みながら生きろ』
男がのた打ち回らないように結界で囲む
一年間はその中で地獄を味わうことになるだろう
『さて、この子たちを埋葬してやるか
そのあとは探しに行かねばなるまいな』