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平安☆セブン!!  作者: 若松だんご
二、謎解きは蔵人とともに
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(三)

 宴の松原。

 大内裏の中に存在する場所。

 大内裏を図にした時、帝や女御が暮らし、政を執り行う内裏と線対称になる位置にあるので、内裏を建て直す時などの代替地……とも言われてるけど、実際は不明。だって、内裏が延焼した時なんか、宴の松原ではなく、もっと別のところに「里内裏」を用意するから。

 じゃあ、その名の通り、松原でも眺めながら盃を酌み交わす、そういう宴的なことに使う場所なのか? いいえ、まったくそんなことはございませんのことよ。いづれの御時にか公達あまた侍らひ酒を酌み交わして……なんて記録は一切ナシ。

 宴の松原の利用方法? そんなの肝試し一択に決まってるじゃん。

 宴の松原には、狐狸妖怪、鬼があまた侍う。ここで宴会ヒャッハー☆するのは人ではなく、そういうアヤカシの類。

 夜ここで、美しい公達(鬼)に誘われ松林に入った女が喰い殺されたとか、ここで情を交わした女に扇を渡すと、翌日そこで扇を持った狐が死んでいたとか。そういういわくつきの場所。

 いや、そんな不気味な所で、誘われたからって「イヤン、アハン♡」すんなよってツッコみたい。ツッコませてくれ。

 そういういわくつきの場所だから、内裏のすぐそば、大内裏の中心部分にあってもどこが不気味で、誰も寄りたがらない。

 実際、こうして雅顕に連れてこられると、……うん。なんとなくだけど不気味。風に揺れる松の音なのか。闇夜に真っ黒な塊となった松の揺れるさまは、霊感ナシなオレでも背中が重くゾクゾクしてくる。


 「松林の奥にある武徳殿のね、柱を少し切り取ってくるというのがお題だよ」

 

 「はあ、柱ですか」


 最奥まで行ってきた証拠に柱を削ぎ削ぎ。


 「でも、いいんですか? そんなことして」


 そんな遊びみたいなもので建物を傷つけても。武徳殿って言ったら、遠く唐の都の宮城を真似て作らせた大事な建物。唐を真似ることで、こちらの威厳、文化水準を高めたい、それだけの理由の建物。具体的な利用方法はないけど、使ってなくても、ホコリを被ってても、そんな遊びに使っていいのか?


 「大丈夫だよ。この試しは帝がご提案なさったものだからね」


 あ、そうなのか。

 大内裏の持ち主、帝が許可してるのか。家主(?)がいいって言ってるのなら、問題ないか。ってか、肝試し行って来いって、どれだけ退屈してんだ、あの帝。

 そんなこと公達に推奨しているヒマがあるなら、あの和歌の意味をとっとと披露してくれ。

 草木も眠る丑三つ時じゃないけど、それなりに暗く静かな子の刻半。

 内裏の西側、陰明門、その先の宜秋門を出て真っ直ぐ進む。

 一番前を行くのは護衛に貸し出された武士、源忠高。続くは明かり持ちのオレ。最後は雅顕。

 普段は太刀佩きを許されてないオレだけど、今日だけは特別。鬼を退治するとか、お化けをやっつけるなんてことは、オレの腕では無理だけど、それでも一応、護身用にと刀を持つ。鬼は出なくても、うろつく野犬とかの可能性はある。

 大内裏に野犬? 帝のおはすところに野犬?

 いやいや、この京の都、たとえ大内裏であっても、夜の危険は半端ないんだって。野犬で済んだら御の字。下手したら狼藉、野盗なんてのもいたりする。(どうしているのかは不明だけど)


 「――さて」


 目的地、宴の松原に到着したオレたち。

 

 「やはり、あまり気持ちのいい場所じゃないね」


 雅顕がそっと袖で顔を隠した。

 風にざわつく松林。暗闇の中でも、その黒い塊がザザッと動くのは見えるわけで。「何かが出る」と言われたら、「ほいっ」とそこに現れてもおかしくなさそうな雰囲気で。

 正直、回れ右して直帰したい。寝床が恋しい。眠いし。

 

 「参るか」


 行くんかい。

 雅顕の言葉に軽く落胆。

 「あな恐ろしや」とか言って逃げ出してくれればよかったのに。あ、でもその場合、「麻呂は恐ろしいでおじゃるが、行かねばならぬ。ソナタ、麻呂の代わりに武徳殿まで行って参れでおじゃる」ってオレだけで行かされそうだし。その点、一緒に行こうとしていることは評価できる――のか?


 左手にある建物、真言院を過ぎると、もうそこは鬱蒼と茂る松林のなか。歩いてるんだから、足を動かしてるんだから前へ、武徳殿へと近づいているんだろう。その程度の認識しか出来ない闇の中。

 怖いとは言わない。

 そりゃあ、この松林の中から、誰かが「ンバアッ!!」とか飛び出してきたらさ、まあ、少しぐらいは驚くかもしれねえけど?

 こんな時間にこんな場所にいるのなんて、オレたちぐらいだし?

 そりゃあ、これが肝試しだって言うのなら、脅かし役がいてもおかしくねえけどさ。それこそ、ピチャッと首筋に当てられるコンニャクとか。ヒュ~ドロドロドロみたいな、おどろおどろしい音楽とか。お化けに扮した誰かとかさ。

 でもまさか、そんなのここにいるわけ――。


 「成海」


 「ひゃいっ!?」


 声が裏返った。……ってなんだよ、雅顕かよ。急に声かけるなよ。

 跳ね上がった胸に手を当て、強引に落ち着ける。

 これはビビったんじゃねえからな? 不意に声を掛けられてビックリしただけだからな?


 「お主は、人の魂というものを見たことがあるか?」


 へ?


 「いえ、見たことないですけど」


 突然、何言い出すんだ?


 「人の魂というもは、青白く燃え上がり、この世を彷徨うものなのだという」


 「はあ……」


 なんだ、なんだ?

 怪談話でもして、オレをビビらせようって魂胆か?


 「この世に未練がある者の魂は、夜な夜な彷徨い出るのだというが――」


 ――チャキ。


 なんだ? 鉄のこすれるような音。


 「あれは、誰の魂が彷徨っているのであろうな」


 「へっ?」


 スッと、雅顕が持っていた扇で指した先を見る。

 先頭を行く武士が、刀の柄に手を掛け、腰を落として身構える。

 暗い松林の先、木々の間から見えるそれ。


 「ひ、ひと……だ、ま?」


 フワフワ、ユラユラ、ヒュ~ドロドロドロ。

 青や赤、緑のボンヤリした光が上下左右に蠢く。

 そのまま浮かび上がっていくかと思えば、地面に落ちていったり。強く光ったかと思ったら、ボンヤリと薄れていったり。


 「ま、マジ……かよ」


 全身粟立ちサブイボ大発生。眉毛も尻毛も、全毛が立った、総毛立つ状態。

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