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平安☆セブン!!  作者: 若松だんご
二、謎解きは蔵人とともに
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(二)

 「宴の松原にね、散策に出かけたいと思うのだがね」


 「はあ……」


 だから?


 「供もなく出かけるのは危険だと、止められてね」


 「はあ……」


 それで?


 「だからって、我が家の雑色を内裏に連れてくるわけにはゆかぬだろう?」


 「はあ……」


 つまりは?


 「成海、頼むよ」


 「……ハア」


 「どうした? 今日は一段と気のない返事だな」


 「……ハア」


 いや、もうどうでもいいです。男色でなければ。

 男色か? オレのケツ穴の危機か?って焦った分、疲労がドドーンと全身を襲う。猫背でついて歩いてくのが精一杯。

 宴の松原? なんだっていいわ。


 「でもどうして、宴の松原なんです? それも夜に」


 一応は訊いておく。理由を知ったところでオレに拒否権はないんだけど。


 「鬼が出る……というのでね。確かめに行きたいんだよ」


 「鬼……ですか」


 「他の公達たちとね、鬼が出るなら見てみたい、誰が一番勇ある者か確かめようじゃないかって話になってね。夜に、鬼見がてら、宴の松原に己の名を書いた札を置いてこようじゃないかってことになったんだ」


 うっわ。くだらね。

 公達、ようは良いところのボンボンってヒマなのかね。 

 「怖いでおじゃるの~」とか言って札を置いてきたとして。それを誰が確かめに行くんだよ。どうせ下っ端雑色あたりにでも「確かめてくるでおじゃる」とか言って使いに行かせるんだぜ? 一番勇あるのは、その確かめに行った雑色じゃね?ぐらいは思う。坊っちゃんたちはお供をゾロゾロ連れてくけど、雑色は一人で行くわけだし。

 ってことで、一番の勇ある者は、その雑色!! はい、決定!!


 「なんだ。乗り気じゃなさそうだな」

 

 「当たり前ですよ」


 そんな出来レース。


 「怯えたりとかしないのか。つまらんな」


 「いやだって、鬼……でしょ? 姿かたちのあるものなら別に。オレ、見たことないですし」


 幽霊の正体見たり枯れ尾花ってね。鬼だー!! お化けだー!!ってビビってたら実はそこで揺れてた柳の枝でしたー!!とかもあるわけで。明かりが少ないから、夜の闇でちょっと何かが動いただけで「お化け!!」って思っちゃうわけで。だから、特段怖いとは思わない。

 むしろ、さっき自分に襲いかかった巨大な誤解のほうが恐ろしい。オレのケツ穴、貞操の危機かと思ったもん。あー、怖かった。


 「というか、そんな恐ろしいものがいるなら、オレじゃなくて、もっと屈強な者を連れて行ったらどうですか?」


 オレなんて、大して役に立たないだろうし。あ、明かり持ちぐらいには使えるか? アナタの足元照らします?

 腰を曲げまげ、旦那様の足元照らしながら歩いて、狼藉に遭う時、いの一番に提灯共々いの一番に斬られるヤツだ。……ってオレ、斬られるの? 鬼に?


 「護衛なら抜かりなく手配してあるよ。武士団の棟梁から一人、腕の立つ者を借り受けた」


 もうすでに貸借契約成立させてたのか。

 ただの肝試しに駆り出される武士。武士団棟梁も頭中将から直々にお願いされたら断れなかったんだろうなあ。ちょっとかわいそう。同情する。


 「って、そっちがいるならオレなんて必要ないんじゃないですか?」


 護衛という意味では、武士がいれば問題ないし。明かり持ちだって、兼任してやってくれるだろうし。


 「いや、それでは困る」


 なんで?


 「怯えてくれる者がおらねば、面白くないではないか」


 「オレは、ビビリ要員ですか」


 うわぁ、鬼だぁ。キャー怖い。助けてぇ。あーれー。……これでいいっすかぁ?

 そんなどうでもいい役のために時間外労働を強いられるなんて。

 それよか、オレ、帰っていいですか? 昨日、夜遅くまで物語書いてたから、今、スッゲー眠いんですけど。


 って、ヤベ。


 「……ファ~~~~ア」


 あくび出た。眠いって考えるだけであくびが出た。

 まあ、そういうもんだよな、眠気ってさ。


 「鬼と聞いて怖がるでもなく。余裕だな、成海」


 いえ。ぜんっぜんそういうのじゃないです。マジで眠いだけです。


 「やはりお主を連れて行ったほうがよさそうだ」


 いえ。ご遠慮いたします。オレはとっても寝床が恋しいです。寝床かオレを呼んでいる。


*     *     *     *


 なんてオレの意見は完全無視され、迎えた夜。

 いざ宴の松原!!なオレたちの前に現れたのは、雅顕が手配したという武者一人。

 ビラビラと、踏んでください裾引きずり、弓撃つのに邪魔そうな袖、走れねえだろなガポガポ(かのくつ)ではなく、袖の短い褐衣、走りやすそうな括袴(くくりばかま)脛巾(はばき)。持ってる弓も飾りじゃなくて、マジで撃てるヤツ。

 つまり、ナントカの少将とかみたいな飾り野郎ではなく、ガチで戦えるヤツ。腰にある太刀だって、飾りっ気ナシの実用性満点の代物。

 

 「源 忠高(みなもとのただたか)と申す」


 武者が名乗った。


 ――――――――――。

 ――――――――。

 ――――――。

 ――――。

 えと。それだけ?


 目の前の武者。名乗るだけ名乗ったら、グッと一文字に引き結ばれた口。

 名乗った!! 以上!!

 来た、見た、勝ったもビックリな短さ。

 いや、まあ、ここでさ「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。それがし、生まれも育ちも武蔵国。遠く武蔵の帝釈天で産湯を使い、姓は源、名は忠高、人呼んで、滝口の寅さんと申します」なんて口上されても困るんだけどさ。(内容は適当)

 せめて「此度の護衛は任されよ」とか、それぐらい言ってもいいんじゃね?

 質実剛健。簡古素朴。

 パッと見、二十代後半、ギリ三十手前に見えるのに、中身はいかつい歴戦の武士そのもの。男は言葉で語らず、(胡簶(やなぐい)背負った)背中で語るものを地で行く感じ。

 武士らしいっちゃあ武士らしいんだけどな。

 

 「彼は、武士団の棟梁が一目置くほどの技量の持ち主だよ。鬼が出たとしても必ず討ち取ってくれるだろう」


 え? 必ず、討たなきゃいけないの?

 それはそれで責任重大だなあ。

 雅顕の言い方に、大丈夫かなって思ってその武士、忠高を見るけど、顔色一つ変えることなくそこに立っていた。

 うーん。

 「おまかせあれ」とか「拙者なら、鬼など大したことござらぬよ」とか大口叩かれても嫌だけど、ここまで表情変わらないってのもなあ。顔色一つというか、何も変わらない。何も動じない。

 お面でもつけてるんじゃね?って疑いたくなるぐらい微動だにしない。


 うん。これは、護衛としては安心かもしれないけど、夜の宴の松原っていう肝試し先には不向きかもな。肝試し、怖がるヤツがいてこそ始めて面白くなるもんだし――って。

 これ、もしかしてもしかしなくても、オレがビビらなきゃいけない案件? やだなあ。

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