表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

5

「――睡蓮さま、次はなにをしましょう?」

 ふと至近距離で桔梗と目が合い、睡蓮はハッと我に返った。視界いっぱいに桔梗の仮面が広がって、さらにふわりと優しい香りがして、睡蓮は慌てて桔梗から離れる。

「……あ、すみません。ええと、今日はもう大丈夫ですから、あとはゆっくりしててください。あ、お茶にしましょうか。今いれますね」

「あ、それなら俺が……」

 素早く立ち上がろうとする桔梗を、睡蓮は大丈夫、と、やんわりと手で制止し、足早に台所へ向かった。

 やかんに湯を入れ、火を付ける。棚にあった茶葉が入った瓶を取り出し、急須に入れる。

 流し台に寄りかかり、お湯が湧くのを待っていると、台所に桔梗が入ってきた。

「待っているのも暇なので、やっぱりお手伝いします」

 桔梗は睡蓮に問われる前に控えめにそう言って、微笑んだ。

「お茶菓子出しますね」

「……ありがとうございます」

 どこまでも働き者な使用人に、睡蓮は小さく苦笑する。

 引き出しを開けながら、ふと桔梗が睡蓮に訊ねた。

「……あの、睡蓮さま」

「はい?」

「睡蓮さまは、あの龍桜院家のご当主さまとご結婚されていたと聞きましたが」

「……まぁ」

 一瞬、睡蓮の目が泳ぐ。しかし、桔梗は棚の奥へ目を向けたままだったので、睡蓮の動揺には気付かなかった。

「……そうですけど」

「噂だと、龍桜院のご当主さまは大変気難しい方だと伺いました。睡蓮さまはどうしてそんな方とご結婚されたのですか?」

「それは……」

 まっすぐに訊ねられ、睡蓮は返す言葉につまり、黙り込む。

「……だって、現人神さまの花嫁なんて、女の子の憧れじゃない。断るほうがどうかしてますよ」

 誤魔化すように笑って言う。桔梗は饅頭の入った箱を手に振り返った。

「では、なぜそこまで想う方なのに離縁されたのですか?」

「それは……」

 しまった、と睡蓮は思った。墓穴を掘った。

 なんと返すのが正解なのだろう。分からないが、本当のことを言うことはできない。ぜったいに。

 今度こそ言葉につまった睡蓮を、桔梗は探るような眼差しを向けた。睡蓮は目を伏せ、桔梗からの視線を拒むように遮断する。

 すると、さすがに桔梗のほうから引いてくれた。

「……すみません。出過ぎたことを聞いてしまって」

 桔梗は一度謝ってから、控えめに続けた。

「失礼ながら、実家でこのような扱いを受けているのは、龍桜院との婚姻を破棄したからではないかと」

 睡蓮はゆっくりと目を開けた。

 桔梗の言葉に、睡蓮は困ったように微笑む。

「それは違います。この生活は私にとってはふつうなんですよ。……いいえ、むしろ以前よりずっといいかもしれません」

 睡蓮がそう言うと、桔梗の顔にかすかに戸惑いの色が滲む。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ