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さて、このたびの離縁につきましては。  作者: 朱宮あめ


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 実家へ戻る日、唯一桃李が見送りに来てくれた。

 ずっと手紙でやり取りはしていたものの、桃李と会うのはこのときが初めてだった。

 桃李は鬼のあやかしだ。垂れた目尻が印象的な好青年だった。

 鬼といえばあやかしの中でも特に高貴なあやかしだが、桃李の場合はにこにことして、さらに人の姿に変化していたからか、親しみやすさがあった。

 睡蓮が丁寧な手紙を今までありがとう、と礼を言うと、桃李は困ったように微笑み、お力になれず申し訳ない、と言った。

 その言葉に、どれだけ睡蓮が救われたことか。

 睡蓮は最後、龍桜院家を出るときに桃李にひとつ頼みごとをした。

 それは、手紙のことだった。

 実家に帰ったら、睡蓮はまたひとりになる。憂鬱な日々が待っている。そんな日々を乗り切るために、この手紙を心の支えにしたいと。

 この三年、睡蓮は毎日桃李の手紙の中にある楪の姿を想像し、恋をした。顔も知らない相手だったけれど、どうしようもなく焦がれた。

 孤独な生活を送っていた睡蓮にとって、手紙はなによりの心の支えだったのだ。

 睡蓮の思いを聞いた桃李は、もちろん、と言ってくれた。

 そうして、睡蓮は楪によろしくと桃李へ告げ、龍桜院家を離れた。

 花柳家へ帰ってきてからというもの、睡蓮はことあるごとにその手紙を読み返し、心の支えにしていた。



 ***



 実家に戻ってきた睡蓮に与えられたのは、敷地の隅にある離れだった。

 離れには台所もトイレも風呂もあるため、生活は不自由なくできる。

 もともと離れは部屋がひとつあるだけで、生活できるような場所ではなかったのだが、戻ってくる睡蓮のため、新たに台所や風呂場、トイレが備えつけられた。ただしそれは、愛情などではない。

 睡蓮の生活を離れだけで完結させるためだ。

 出戻りの娘がいることは名家にとって恥以外のなにものでもない。周りに知られるわけにはいかないから、母屋にはできるかぎり顔を出すな、という両親の本音が透けて見えていた。

 母屋のほうからは、いつだって楽しそうな団欒の声が漏れ聞こえてくる。けれどそれは、睡蓮には関係のないことだった。

 桔梗がやってきたのは、睡蓮が実家に戻って一ヶ月ほど経った頃だったか。

 ある朝、突然仮面で素顔を隠したあやかしの青年が、睡蓮のもとにやってきた。青年は睡蓮に、この離れでどうかじぶんを雇ってほしいと頼み込んできた。

 最初、睡蓮は断った。しかし、どうしてもと言われ、睡蓮は断りきれずに桔梗を使用人として雇い入れたのだった。

 仮にも睡蓮は元龍桜院家の人間だ。この地に住む者を邪険にすることはできないという思いも心のどこかにあったのかもしれない。

 でも今は、やはり桔梗を迎え入れるべきではなかったと、睡蓮は思っていた。

 だって――。


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