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3

 最初睡蓮は、実家に戻ってからは離れでひとりひっそりと暮らすつもりだった。

 実家とはいえ、今さら出戻ってきた睡蓮に居場所はなかったからだ。

 睡蓮がこの花柳家へやってきた経緯も、その理由のひとつだった。

 もともと孤児だった睡蓮は、五歳のとき花柳家に養子として迎え入れられた。子宝に恵まれなかった両親によって。

 花柳家に来た頃、両親は睡蓮を実の子のように可愛がった。

 しかし、睡蓮が花柳家の娘になってまもなく、両親の間に子供ができた。それが、妹の杏子(あんず)だった。

 杏子が生まれると、それまで睡蓮に向いていた両親の愛と関心はあっさりと妹に向いた。

 そのうち睡蓮にあやかしを感じ得る特殊な力があることが発覚して、それ以来、家族はさらに睡蓮を敬遠した。

 ――私は用済みなの? 私はもう、いらない子?

 妹だけを可愛がる両親を見るたび、睡蓮はいつも心の中でそう問いかけた。

 直近で家族が笑顔を向けてくれたのは、睡蓮が現人神の花嫁に選ばれたときだ。だが、中身が契約結婚であることを正直に打ち明けると、やはりあっさり興味を失くした。

 そのため睡蓮は身ひとつで嫁ぐこととなった。見送りも、お祝いもなかった。

 龍桜院との婚姻期間中、睡蓮には楪が用意した屋敷が与えられた。

 その間、睡蓮は離れて暮らす夫、楪に毎月手紙を送り続けた。

 本人から手紙の返事が来たことはなかったが、代わりに彼の側近を名乗る桃李(とうり)という人物から楪の近況報告の手紙が返ってきた。

 中には楪の普段の仕事の様子や、彼の好物などが書かれていた。

 差出人である桃李からの配慮だった。顔も知らない相手と結婚した睡蓮を哀れに思っていたのだろう。少しでも楪を理解できるよう、手紙にはかなり細かく、丁寧に楪の性格がしたためられていた。

 おかげで睡蓮は楪を愛することができた。

 顔も知らない相手だったが、桃李の送ってくる手紙の中に楪の血や肉が、体温がちゃんと書かれていたから。

 いつか、顔を見せてくれる日が来ることを信じて、睡蓮は龍桜院の屋敷で生きていた。

 しかし婚姻から三年が経った頃、睡蓮は楪に離縁を申し込んだ。

 突然の離縁の話だったが、楪はすんなり睡蓮との婚姻関係を解消した。

 睡蓮はそれが、ちょっとだけ寂しかった。じぶんから言い出したこととはいえ、もう少し渋ってくれるかと思ったのだ。

 しかし、そんなことはなかった。楪は睡蓮を、完全に契約相手としかみていなかったらしい。

 お前の代わりはいくらでもいる。

 そう突き付けられた気分だった。

 睡蓮は、ここでも結局必要とされなかった。

 結局、楪と顔を合わせることのないまま、睡蓮は実家へ戻ることとなった。


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