表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さて、このたびの離縁につきましては。  作者: 朱宮あめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

エピローグ

 楪は睡蓮をじっと見下ろし、告げる。

「今さらこんなこと、都合が良過ぎると分かっています。でも……あなたを失いそうになってあらためて、自覚しました。俺は、あなたが好きです。これからもずっと、あなたのそばにいたい」

 楪の背後にいた桃李が、楪になにか紙のようなものを差し出す。

 睡蓮はその紙を見て目をみはった。それは、睡蓮が楪へ送った離縁の紙だった。

「これ……」

「実は、これは最近まで俺も知らなかったことなんですが……。この紙はずっと桃李が保管していたみたいなんです」

「えっ? じゃあ、私たちって……」

「はい。つまり俺たちは、まだ正式には離縁していないんですよ」

「そ、そうだったのですね……」

「睡蓮さま。……離縁の話を、破棄させてほしい。……もう一度、俺と生きてもらえませんか」

「……え……」

「今度は契約じゃない、本物の……愛の結婚をしてほしいんです」

「…………」

 睡蓮はぽっかりと目を開けたまま、固まった。静かに涙が伝い落ちていく。

 夢だろうか、と睡蓮は思う。

 ずっとひとりぼっちだと思っていた。

 両親は妹ばかりを愛して、睡蓮など相手にしなかった。

 居場所のない花柳家を、早く出たかった。けれど、睡蓮にはなにもない。ひとりで生きていく勇気も、力も、財力も。

 楪からの婚姻の話は、またとない話だった。

 たとえ契約結婚だろうとも、顔すら知らないひとでも、睡蓮は初めて必要とされたような気がして嬉しかった。

 睡蓮は楪に、好意というよりは憧れのような感情を抱いていた。

 龍桜院の屋敷では、楪へしたためる文の内容を考えることが楽しくて、返事が返ってくることが待ち遠しくて、三年なんてあっという間だった。

 まだ、ぜんぜん足りない。もっとそばにいたい。

 ――それが、叶うかもしれない……?

 黙り込んだままの睡蓮に、楪がそっと声をかける。

「睡蓮さま?」

 睡蓮がハッとして顔を上げる。

「……す、すみません。感動してしまって……」

「感動……ですか?」

「だって、夢のようで……」

 睡蓮の頬を伝っていく雫を、楪が指の腹で優しく拭う。

「夢になどしないでください」

 優しく微笑む楪を、睡蓮はまっすぐ見つめた。

 睡蓮の小さな手には、なにもない。

 神の力を持つ楪に見合うような、たいそうな人間でも。

 けれど、それでも楪は、睡蓮が必要だと言う。

 それならば。

 睡蓮は全身全霊をかけてその愛を受け止め、そして返したい。

「私も、楪さまとずっと一緒にいたいです」

 その瞬間、楪は離縁の紙を破り捨て、睡蓮を強く抱き寄せた。

「睡蓮。愛してる」

 睡蓮は楪の腕の中で、幸せを噛み締めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ