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見ると、小狐が氷漬けになっている。楪の吐息が引き金となり、小狐を覆っていた水の粒子が凝結したのだ。
氷漬けにされぴくりともしない小狐に、睡蓮はだんだん不安を募らせた。
もしかして、楪はこの小狐を殺してしまうつもりなのだろうかと。
「あ、あの楪さま……彼はどうなってしまうのですか? もしかして……」
「大丈夫、あなたの魂と不必要な力を奪ったら、術は解きますよ」
睡蓮の言いたいことを察した楪は、優しく微笑んだ。小狐へ手を翳し、手のひらをくるりと翻し、見えない糸でも引くように手を自身の胸へと引き寄せた。
小狐の胸辺りから、すうっとなにか白いものが揺らめきながら現れた。
目を凝らして見ると、それは花だった。
薄紅色をしたきれいな椿だ。現れた椿は、まるで花自身に意思でもあるかのように、まっすぐ睡蓮のもとへとやってきた。
睡蓮は椿をそっと両手で包む。花はそのまま胸へと吸い込まれていった。花が消えた瞬間、睡蓮はじぶんの身体がふわりと軽くなるのを感じた。
「なんだか……身体が軽くなったような」
睡蓮の言葉に、楪がほっとしたように笑う。
「よかった。無事、ちゃんと魂が戻ったようですね」
「……あの、楪さま」
睡蓮は氷漬けにされた小狐から楪へ目を向け、目で訴える。
「……俺の花嫁を騙し、魂を喰らおうとした罪は重い。本来なら再び溶岩に閉じ込めたいところなのだが……」
睡蓮の顔を見て、楪は苦笑する。
「……それは望んでいないようですね」
「私……どうしても嫌いになれないんです。彼は、私が孤独だったとき、たったひとりそばにいてくれました。もちろんそれは、私を欺くための演技だったのかもしれません。でも……楽しかったから」
複雑な顔をする楪の向こうで、氷漬けにされたままの小狐の瞳がきらりと光る。
また術を使うのかと楪は身構えた。……が、そうではなかった。小狐は涙を流していた。
楪はわずかに目をみはる。
「……あなたは、すごいな。千年を生きる妖狐の心まで奪ってしまうなんて」
楪はやれやれと肩を竦めて、小狐の身動きを封じていた氷に息を吹きかけた。たちまち、氷は銀青色の煙と化して溶けていく。
術を解かれた小狐はその場にごろりと崩れ落ちた。
「力は奪いました。もう悪さはできないでしょう。彼女に感謝するんだな」
楪は後半、小狐に向けて言った。
睡蓮が小狐に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
小狐は肩で息をしながら「あぁ」と漏らす。
「……お前は正真正銘の馬鹿だな。わたしはお前を殺そうとしたんだぞ。それなのに……助けるなんて」
小狐はときおり苦しげに息を吐きながら言った。
「ふふ……ですね。でも私、まだ死んでませんし」
控えめに微笑んだ睡蓮から小狐は目を逸らし、ぽつりと言った。
「……変な娘だ」
小狐はそう吐き捨てると後方に飛び上がり、ふたりから距離を取った。
「とにかく、魂は返したからな!」
「……はい」
「さっさと失せろ」
楪が冷ややかに言う。
「フン。言われなくとも」




