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「目眩しのつもりか? こんなもの、千里眼を持つわたしにはなんの意味もないぞ!」
地鳴りのような咆哮が、凄まじい勢いでふたりの元へ向かってくる。
桃李が刀を構えた。
視界は不明瞭だが、妖狐が地を蹴る音がものすごい勢いで近づいてくる。
まずい、と思ったときにはもうすぐ目の前で妖狐が大きな口を開け、睡蓮たちに襲いかかっていた。
その刹那。
ピン、と強い光が一瞬、睡蓮たちの周囲を包んだ。
「ギャンッ!」
悲鳴が聞こえた。おそるおそる目を開けると、睡蓮の目の前に小さな小狐がいた。綺麗な毛並みの、ほんの猫ほどの小狐だ。
「えっ?」
思わず可愛い、と呟く睡蓮。
ぺたっと地面に張り付いていた小狐は、むくっと起き上がると、
「貴様、よくも! わたしの力を返せ!!」
と、叫んだ。声が異様に高く、やかましいだけでさっきまでの迫力はまるでない。
「なにがわたしの力、だ。ひとを喰らわなければ妖狐の姿すら維持できないくせに」
「黙れこのやろー!!」
小狐は小さく唸りながら再び楪に飛びかかってくる。楪はそれをハエでも叩き落とすようにぺっと弾くと、冷ややかに言った。
「さて。覚悟はできているよな?」
楪の瞳が淡く発光し――耳をつんざくほどの大きな爆発音が響いた。
「ギャァァア!!」
小狐が悲鳴を上げる。
突然の爆発音と小狐の悲鳴に、睡蓮は反射的に強く目を瞑る。
空から降った落雷が、妖狐を直撃したのだった。
ほどなくして音が止み、周囲に静けさが戻ると、睡蓮はようやく目を開けた。
目の前にあるのは、焼け焦げた地面とぼろ雑巾のようになった小狐だった。小狐は力尽きたのか、地面に伏せたまま荒い息をしていた。
「くそっ……貴様のような人間ごときにわたしが屈するなんて……くそっ、くそっ!」
喚く小狐に楪はゆっくりと歩み寄り、低い声で言う。
「もう一度言う。死にたくなければ、今すぐ睡蓮に魂を返せ」
小狐は楪を見上げ、鼻で笑った。
「断る」
楪はやれやれとため息をついた。
「……そうか。なら力ずくで返してもらう」
楪の瞳が青白く光る。
大地が唸り、なにもなかった地面に旋風が巻き起こる。旋風の中心から水が吹き出し、その水は束となって容赦なく小狐を覆っていった。
「なっ……なんだこれは!」
怯んだ小狐に、楪はゆっくりと近付き、煙管の煙を吹きかけた。
その刹那。
パキッと音がした。




