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睡蓮が訊ねると、そのあやかしは両手の刀を下ろし、優雅な所作で会釈した。
「ご無沙汰しております、睡蓮さま」
「桃李さん……嘘、本当に? 本当に、桃李さん?」
凛としたその立ち姿は、まるで別人だ。
「あやかしの姿で会うのは初めてでしたね。驚かせてしまい、申し訳ありません」
睡蓮はぶんぶんと首を振る。
「会えて嬉しいです……!」
心がパッと、太陽に包まれたような安心感を覚えた。
「桃李、助かった」
楪が桃李に声をかける。
「お怪我はございませんでしたか、楪さま」
「あぁ」
桃李は楪へ素早く駆け寄ると、その場に跪いた。
「さて」と、楪が妖狐へ冷淡な眼差しを向ける。
「妖狐。今までは大目に見ていたが、今回ばかりは許しはしない」
楪が凄む。しかし妖狐は楪の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「フン。わたしはただ、この娘との契約を遂行しただけだ。お前に文句を言われる筋合いはない」
「一方にしか利益がない取引を契約とは言わない」
「今さら喚いたところで無駄だ。娘の魂のうち、八つはもうわたしの中にある。残りひとつをもらったら、その娘は消える」
「……どんな卑怯な手を使って彼女を騙したのかは知らないが、この契約は破棄させてもらう。お前が奪った彼女の魂、今ここで大人しく返せばこの話は不問にしてやるが?」
「それはできないな」
桔梗の眉間に皺が寄る。
「おまえ、いったいなにが目的なんだ? なぜ彼女を狙う」
「決まってるだろ。復讐だ」
「復讐だと?」
妖狐の体が、激しい紫色の炎に包まれていく。
「お前に封印されたときから、わたしはずっとお前の一族を陥れることだけを考えてきたというのに!」
大きな咆哮が空に抜ける。
「お前が悪事ばかり働くから封印しただけだ。逆恨みされても困る。それより妖狐、お前、どうやって俺の封印を解いた?」
「フッ……解いたんじゃない。勝手に解けたのだ」
「勝手に解けただと?」
「あぁ。岩が割れたんだよ。お前の力が弱ったのか、それとも俺の力が強くなったのかは知らんがな。おかげでわたしはもう完全に自由だ」
そう言って、妖狐はにやりと口角を上げ、怪しげに笑った。
「お前に復讐をと思っていたとき、結婚したと聞いてな。わたしが身動き取れずにいたあいだに、お前だけ幸せになりやがって……。だから花嫁を見つけ出し、三ヶ月後にお前が死ぬと吹き込んでやった。そうして、囁いた。お前を生かすには、じぶんの魂を差し出すしかないと。そうしたらその娘はあっさり魂を差し出したよ。可哀想に。お前の大切な花嫁は、お前のせいで死ぬんだ。お前自身が愛しい花嫁を殺すんだよ」
妖狐の声は、楪の胸に深く、低く、重く落ちた。楪がなにも言い返せず黙り込んでいると、
「違います」
と、凛とした睡蓮の声が響いた。楪と桃李が振り向く。




