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さて、このたびの離縁につきましては。  作者: 朱宮あめ


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 それから睡蓮は、日に日に弱っていくようだった。とはいっても見た目は変わらないし、睡蓮は基本この離れでひとりで過ごしているから、だれも彼女の変化に気付かない。いや、仮に家の人間と顔を合わせていても気付かれないだろう。

 睡蓮の調子がおかしいと分かるのは、妖気が分かる桔梗だからだ。

 生き物は個人差はあれど、必ず妖気というものを放っている。

 ふつうは目に見えないが、妖力を持つあやかしはその気配を感じることができる。

 また、ひとでも稀に妖気を感じることができる者もいる。ごく少数の者に限られるが。

 睡蓮の妖気は、桔梗がここへ来てからというもの、日に日に弱くなっていた。特にそれを感じるのは、睡蓮が街から戻ってきたときだ。

 彼女はなにも言わないが、おそらく睡蓮は、街であやかしと会っている。

 ――いったいだれと?

 睡蓮が会っているであろうあやかしの妖気は、桔梗にはまったく感じられない。それはすなわち、睡蓮が会っているのがみずからの妖気を消せるほどの力を持つあやかしだということだ。

 そしてそのあやかしは、十中八九彼女に害を及ぼさんとする邪悪な者だろう。

 桔梗はしばし黙考し、とある人物に連絡をとった。



 ***



 布団に倒れ込み、睡蓮は大きく息を吐いた。

 今日、睡蓮はとある人物と会ってきた。

 その人物は、睡蓮の願いを叶えるただひとりの人物であり、災厄の張本人でもある西の最強権力者――白蓮路(かおる)だ。

 薫はあるとき突然、睡蓮の前に現れ言った。

『龍桜院楪はじきに死ぬだろう』

 ひとの死を予知する力があるという薫は、楪がじき死ぬ運命にあると言った。

 ショックを受けた睡蓮に、薫は囁いた。

 楪が助かる方法が、ひとつだけあると。

 それは、死ぬはずの楪の代わりに、睡蓮が命を差し出し、身代わりになるというもの。

 睡蓮は、そんなことで楪が助かるならばと、薫に魂を差し出す契約をしたのだ。

 これまで睡蓮は、数度にわたって薫と会ってきた。会うたび、分割した魂を差し出した。

 しかし、その魂も残りひとつ。

「次が最後……」

 次に魂を薫に差し出したとき、睡蓮の魂は消失する。

 後悔はしていない。ひとつ気がかりがあるとすれば、それは桔梗のことだった。

 睡蓮はよろよろと起き上がり、棚を開けた。

 中には、楪から届いた三年分の手紙の束が入っている。それから、書く相手を失い、用済みとなったまっさらな便箋も。


 睡蓮は力を振り絞り、机に向かった。

 最後に一枚、手紙を書くために。

 せめて桔梗へ、これまでの感謝を伝えなければ。

 震える手で筆をとる。

 睡蓮はじき、消える。そうしたらもう桔梗とは会えなくなる。

 薫と契約を交わしたのは睡蓮自身。

 楪を守るために命を差し出すと決めたのも睡蓮自身。

 今、あのときに戻ったとしても、睡蓮はきっと同じ選択をするだろう。

 頭ではちゃんと覚悟を決めているはずなのに。

 そこに後悔などないはずなのに。

 手紙を書く手が震え、嗚咽が漏れた。

 桔梗ともっといたい。桔梗に助けてとすがりつきたい。

 そんなことを思ってしまうじぶんがいる。

 桔梗と出会わなければ、きっとこんな思いは知らなかった。

 睡蓮の心は、初めての感覚に動揺していた。


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