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桔梗がその手紙を見つけたのは、ちょうど睡蓮が街へ出かけているときだった。
手紙は引き出しの奥に丁寧に仕舞われていた。
この手紙は、ことあるごとに睡蓮が読んでいるものだ。ふと睡蓮を見ると、彼女はだいたいいつもこの手紙を大切そうに見つめている。
差出人と中身が気になって、以前、睡蓮の背後からこっそり手紙の内容を見たことがある。
睡蓮の様子から手紙の相手はだいたい検討が着いていたが、果たして手紙の相手は桔梗の予想通りの人物だった。
『睡蓮さま、お手紙ありがとうございます。楪さまの代わりに、今回も桃李が代筆致します――』
桃李というのは、龍桜院楪の側近だ。
『以前、睡蓮さまが送ってくださった五三焼き、楪さまは喜んで召し上がっておられました。好物がひとつ増えたようです。また、最近は――』
手紙の中には、側近から見た龍桜院楪の様子が丁寧に書かれていた。楪の近況や、睡蓮が差し入れた手料理を食べたときの楪の様子、楪の好物や苦手なものなど。
楪と睡蓮は契約結婚。睡蓮が契約結婚をどう捉えていたかは分からないが、楪側に愛情はないと分かっていたはずだ。
……けれど。
手紙を読む睡蓮の眼差しは、どこまでもまっすぐに、楪を思っていた。少なくとも睡蓮にとって楪は、とても特別で大切な存在だったのだろう。
離縁したあとですら、こうして手紙を大切にしまい、何度も読み返しているのだ。婚姻中は、きっともっと彼を……。
――でも、それならばなぜ、婚姻関係を解消したのだろう?
玄関のほうから、物音が聞こえた。
桔梗は急いで手紙をもとに戻し、玄関へ向かう。
「おかえりなさい、睡蓮さま」
玄関へ睡蓮を出迎えに行くと、睡蓮は桔梗を見て、「ただいま」と柔らかに微笑んだ。しかし、睡蓮の顔色は真っ青だった。
「睡蓮さま、どうしましたか?」
「ううん。ちょっと久しぶりに街へ出て疲れただけなので」
「ですが、顔色が」
「大丈夫大丈夫。私、今日はちょっと休みますね。すみません」
睡蓮は桔梗に背を向けると、逃げるように自室に入ってしまった。




