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ほどなくして珈琲とチョコレートが運ばれてくると、睡蓮はまずチョコレートに大きな瞳をぱちぱちと瞬かせた。
「これが食べ物? まるで宝石のようです!」
睡蓮の目の前には、濃い赤色をした、宝石のような小石。チョコレート、というそうだ。
「珈琲によく合う甘いお菓子なんですよ」
桔梗は言いながら、一緒に運ばれてきたティーカップを睡蓮の目の前へと滑らせる。その瞬間、ふわりと香ばしい香りが鼻に抜けた。
「こーひぃも、すごく良い香りがします」
「でしょう? きっと、飲んだらもっと驚きますよ。ささ、どうぞ、飲んでみてください」
睡蓮が頷き、すすっと珈琲をすする。
「…………」
そして、なんとも言えない顔をした。そんな睡蓮を見て、桔梗は肩を揺らして小さく笑った。
「苦いでしょう?」
まるで用意しておいたような口ぶりだった。睡蓮は頷く。
「……えと、香りは、とても好きなんですけど……」
睡蓮は口の中の苦味を誤魔化そうと、必死に瞬きを繰り返した。
「睡蓮さま、こちらを飲んでみてください」
なんとも言えない顔のままの睡蓮に、桔梗はじぶんの珈琲を差し出した。
「え……なにか違うのですか?」
身構えつつティーカップを受け取った睡蓮は、中身を見て驚いた。
「えっ! 色がぜんぜん違います!」
桔梗の珈琲は、優しい薄茶色をしていた。
「味も違いますよ」
「…………」
たしかに、見た目は少し優しい色になっているが。舌に残るあの味がまだ忘れられない。
「もう一度だけでいいですから、騙されたと思って飲んでみてください。きっとびっくりしますよ」
桔梗に言われ、睡蓮はおそるおそる珈琲に口をつけた。
「!」
とろりとした優しい甘さが口に広がり、睡蓮は弾かれたように顔を上げ、桔梗を見た。
「甘いです!」
「でしょう?」
「桔梗さん。どうして同じ珈琲なのに、こんなに色と味が変わるのですか?」
弾んだ返事を返す睡蓮に、桔梗は言う。
「砂糖とミルクを入れたんですよ」
「砂糖とミルク……なるほど……私、こんな不思議な飲み物は初めてです」
「気に入りましたか?」
「はい!」
無邪気に笑う睡蓮を、桔梗は眩しいものを見るように仮面の下の目を細めた。




