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(003)『あなたもアイドル』



(まず間違いなく、やべー()だろう。俺の中の女難レーダーが、そう言ってる。いや、女難レーダーなんて関係なく、さっきの言動を聞けば判る。けど……)


「えーと……アーネス、だっけ? 泣かないでくれ、俺はもう大丈夫だ」

「ぐひッ……だ、だって! アタシのせいで……あんな絶望の表情だったんでしょ?」

「そこまでの絶望顔だったか……いや、悪かったよ」


(転生召喚とやらが、どこまで因果に関わっているのかわからないけど……命を救われたかもしれないんだ。間違いだったとして、その間違いに感謝するべきか)


 冷静だが、感情は冷たいわけではなく。陽司は前向きに解釈する。


(それに何より……女子の涙を見て、泣かせたままではいけないしな)


「で……俺、君の使い魔として転生したって?」

「う、うん。アタシの潜在能力(チカラ)をすべて解析、解放できる、すんごい魔獣が来るはずだったのに……」


(『世界中の人間の共通認識を壊す』とか、テロリスト的でっかい野望を口にしてたもんな……)


「それが、こんなちっちゃ可愛いワンコ……魔力をうまく注ぎ込めなかったのかな」

「うーむ、俺がわかるわけないんだけど。それよりも……だ」


 何か大きなチカラが使えたとして、肝心なのは、それが正しく使われるのかどうか。


「黒魔女を差別する奴が、逆に差別される世界に作り替える……だっけ?」

「そ、そうよ。世界中の人の意識を書き換えて、黒魔女を差別してた人ほど忌み嫌われるように摂理を作り直すの! うん!」

「そんな規模のデカいこと、本当にできるもん? いや、できたとしても、だ。そんなこと、考えない方がいいと思うよ」

「何よ……同じ人間だから、とか言うつもり? あの人達は、黒魔女(アタシたち)を人間扱いしてないのよ?」


 テンプレなお説教に、アーネスは反発。

 それも当然、こんな理屈で響く程度なら、ここまでの計画は立てないだろう。


「そんな綺麗ごと……この世界の事情を知らないから言えるのよ! うん!」

「勝手に喚び出しておいて、『この世界の事情を知らないから』なんて、よく言えたな!!!」

「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい!」


 思わずツッコんでしまう陽司の怒声に、アーネスはまたビビり散らかし物陰に隠れる。


(いかん、つい蒸し返してしまった。まぁ確かに、軽はずみに意見するもんじゃないな……)


「黒魔女は不幸の象徴……多くの人は目も合わせてくれないわ。関われば災厄が降りかかる、とされてるから、攻撃されることもないけど……」


 アーネスの瞳が一層暗い色になる。


「中には、自暴自棄なイカレた人間もいるわ。アタシを犯して、殺して、世界を道連れに終わってやる……ってね。大抵は小物だから、撃退してやったけど……不意を突かれて殴られたこともあるわ。体中傷だらけよ、うん」


(うーむ……俺が感じてきた苦しみ程度では、寄り添うことはできないかもしれない。けど、この子が幸せになる方法が、復讐(このやりかた)でいいはずない)


 他人を励ますなど柄ではなかったが、陽司の中で自然と『この子の力になりたい』という気持ちが生まれていた。

 それはアーネスの使い魔として生まれたからなのか、それとも――


「俺もイジメられてたから……少しは解るつもりだ。もちろん、君の境遇と同じじゃないけど、当時の俺にとっては何よりも大きい問題だった。死のうとも思ったよ」

「……復讐しようと思わなかったの?」

「思った思った。けど、そこまでの勇気も力もないハンパ者だったな」


 他人(ひと)のために、自分の辛い記憶をたぐる。少しでも近くに感じられるよう、思考を巡らす。


「『死ぬくらいなら何でもできるだろ』って言う奴がいるけど、『同じ苦しみを感じられるわけでもない想像力のない奴が無責任に何言ってんだ』ってね。君は今まさに、そんな風に感じてるかもだけど。ごめんね」

「…………」


 納得こそしていないが、アーネスは話を聞こうとする顔になっていた。


「そんな時、俺はひとりのアイドルに出会った。えーと、なんて言えばいいかな……歌・踊り・喋り、その人のすべてで大勢の人を楽しませる職業で……」

「歌い手や踊り子……みたいな?」

「まぁ、そんな感じ。で、ネットで……あ、いや、えーと……とにかく特別に本人と話す機会があってさ。その時の言葉に救われて、俺は前向きになれたんだ」



『あなたという人は、ひとりしかいないじゃないですか。私もひとりしかいない。だから、あなたもアイドルなんですよ!』



(アイドルの天然な小さなひと言。でも、自分にとって大事なら、それでいい……それがいい。説明するとややこしくなるし、そこは省くけど)


「差別する奴らが、もちろん悪い。けど『同じ目に遭わせる』となると、順番こそそいつらが先でも、同じになってしまう。理不尽なことだけどね」


 うつむき加減にジッと聞いていたアーネス。その肩は、少し震えていた。

 大したことは言えていないと思いつつも、何とかいい方向に向かってくれと願い、さらに言葉を続けようとした、その時。


 ドーン!!!


 突然、壁に大穴が開き、衝撃波が駆け抜ける。


「アイツ……ここも嗅ぎ付けたの!?」

「っててて……な、何が来たって?」


 アーネスは苦虫を噛みつぶす顔をし、なぜか突然スカートをたくし上げ、ナマ脚を露わにした。


「なッ!?」


 陽司の驚きなど構わず、アーネスは太ももに下げられたホルスターのようなケースから黒い本を手に取る。

 そして、そのまま開いた穴から外へと飛び出した。


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