表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと 〜転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ〜  作者: 茉森 晶
第3章 『銀鼠寮の住人達』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/36

(021) 『俺はぬいぐるみ……』



     *          *



「ん~…………さすがに疲れてる、か」


 風呂にも入り、寝る準備をして自分の部屋へ帰ってきたヨウジ。

 大変な一日の疲れを落とし、物理的にも体を綺麗に洗い、体臭が薄くなったことで(こと)(ほか)テンションが下がっていた。


(考えてみれば、一日準備して夜ライブ行って……そこから転生召喚、あれだけのてんやわんや。とっくにぶっ倒れててもおかしくない。やっぱ人間を超えた体力で生まれ変わってるってことなんだな)


 ヨウジ本人、まだ魔力に関する知識も少ないため、この程度の認識。

 だが、こちらの世界の常識に照らし合わせても、今日一日、彼が発揮したパフォーマンスはケタ外れのエネルギー消費量だった。

 それだけのポテンシャルがある存在。とはいえ、それはアーネスという主電源が重要であり、アーネスと長い期間離れられないということでもある。

 そこはそれ、あくまで『アーネスの、使い魔』なのだった。


「アイドル文化の定着……黒魔女アーネスの売り込み……何とかなるのかなぁ」


 壮大な野望をぼんやりと巡らせながら、(まぶた)を閉じる。と……ドアをノックする音がヨウジの意識を引き戻す。


「は、はい?」


 ドアが開き、中に入ってきたのは――ネグリジェ風の寝間着に着替えたアーネスだった。


「どうした? 何かあった?」

「…………使い魔に命令なんだけど」


 目を逸らしながら、アーネスは続く言葉を絞り出す。


「命令よ。アタシと一緒に寝なさい、うん」

「え、いや、ダメだって! そういう誤解を生むことがないように、部屋を分けられたんだろ?」


 何の変哲もない教科書通りの返しに、アーネスは頬を膨らませる。


「もーう! なんでアンタは、アタシの言うこと聞かないのよ!」

「そんなこと言われても……それはそっちの設定ミスなんじゃないのか?」


(困った……やっぱまだまだ子供だもんな。しかし、ここは厳しく……)


「ここ数年、ひとりで生きてきたんだろ。ひとりで寝られるよな?」

「周りに他人がいるのよ? 誰か襲ってきた時、護衛するのはアンタの仕事でしょ!」


(うーん……人を信用できないのは当然だろうし、使い魔としての仕事なのも納得はする。初日だし……今日だけ言うこと聞いてやるか?)


「わかった……とりあえず、今日だけだぞ。俺は床で寝るから……」

「……一緒にベッドで寝てよ!」

「ダメに決まってるだろ!」


 『推しとオタクの関係だから』『まだ子供だから』で防御していたはずだったヨウジだが、隙を突かれて不意に女を感じてしまう。


「えーと……そ、そう! ご主人様と使い魔が同じベッドで寝るのはおかしいだろ?」

「じゃあ……これなら問題ないでしょ!」


 あらかじめ作ってあったこよりで、ヨウジの鼻をくすぐる。

 一瞬で、初期状態のワンコフォームに逆戻り。

 瞬きする間にヨウジの眼前にはアーネスの脚があった。


「いや、この姿だろうと使い魔は使い魔……うわっ!?」


 やにわにワンコ(ヨウジ)をぬいぐるみ扱いで抱きしめ、アーネスはベッドに潜り込む。

 後ろからガッチリとホールドされ、ヨウジの背中に少女の胸とおなかが押しつけられる。


(待て待て待て、これは推しとオタクで起こるはずのないイベントだ。自分(こっち)のことを好きにならないから、俺はアイドルを好きになるのであって……!)


 対応不可の事態にヨウジの頭はショート寸前。四肢も固まり、まさしくぬいぐるみ状態になっていた。


(やっぱり、惚れられて積極的になってるのか? 確かに、やべー女ではあるし、警戒してたけど……自分の使い魔なんだぞ? そんなわけなくない?)


 固まったまま、ヨウジが答えの出ない思考をグルグル巡らせていると――

 背中から、スースーとアーネスの安らかな寝息が聞こえてきた。


(う…………詰んだ)


 観念して、とにかく起こさないように動きを止める。と同時に、ヨウジは半分ホッとする。


(寝返り打った時にでも脱出できるだろう…………ん?)


「ふ…………や……ぐすっ……」


 悪夢でも見始めたのか、アーネスは涙ぐむように声を漏らし、体を震わせていた。


(壮絶な生き方をしてても、まだ13歳の女の子なんだよな……)


 日中、自分に素直な気持ちを聞かせてくれたことを思い出す。

 今までの彼女の孤独を、自分を必要としてくれたことを、あらためて受け止め、ヨウジも涙を堪えきれなくなる。


(幸せに……しないとな。今日だけでも、アーネスの人生的にはだいぶいい方向に向かっただろうし。ユーオリア嬢の功績も大きいけど……俺も頑張った、よな)


 段々と落ち着きを取り戻したヨウジは、あらためて、石鹸の香りが自分の鼻に主張してくることに気付く。


(アイドルとしても身だしなみは大事だけど……本人の体臭が感じられた初期状態の方が、人間らしくてイイ匂いだったな……)


 少しずつ眠気を感じながら、ぼんやりそんなことを考えていたヨウジ。

 しばらくして、ハッとする。


(俺……何を考えてる? 変態ド真ん中じゃねーか!?)


 元々、ニオイフェチの自覚などなかった自分が、ナチュラルにそんなことを考えていることに驚く。

 転生してから今まで、その感覚が自然すぎて、まったく気付いていなかったのだ。


(ああ、そうか……俺、嗅覚がイヌ科になってるのか。性能(スペック)も……好みも……)


 気付いてしまうと、綺麗に洗われて石鹸の香りだけになったはずのアーネスの、奥にある体臭も嗅ぎとれることがわかる。

 そして、愛犬が主人の手足をベロベロ舐める理由が、なんとなくわかってくる。


(みんな、ご主人様の味や臭いが好きなんだろうな。で、俺も……飼い犬みたいなもの……ってこと?)


「ん…………うぅん……」


 不意に色っぽい寝息を立て、アーネスは手を離すどころか、ワンコ(ヨウジ)をギュウと抱きしめ直す。

 ヨウジは、どんどん余計なことを考えそうになる脳内に、ただ一文を埋め尽くす。


(俺はぬいぐるみ……俺はぬいぐるみ……俺はぬいぐるみ……俺はぬいぐるみ……)


 ヨウジのてんやわんやな長い一日は、ベッドに入っても、まだしばらく終わらないのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ