(013) 『決戦! ヨウジ(第3形態) VS リファナ(闇堕ち)』
「騎士だからといって、準備ができるまで待ってくれると思うな!」
巨大な剣を振りかぶり、そのサイズ通りの重みを感じさせるひと太刀を振るうリファナ。
ヨウジが咄嗟に受け止めようとしたその時、ユイットが間に割って入った。
「ふんんッ!!」
バチチッ!
雷の魔力を剣に込め、姉の魔力に反発するような効果で、なんとか巨大剣の一撃を受け止める。
「弟くん……俺達を庇ってくれるんだ?」
「クッ……今の姉様は正気ではありません。もし、あなた達を死なせてしまったら……姉様は自分を責める。止めなければならないのです……よッ!」
必死の形相で踏ん張り、巨大剣を一旦押し返す。
リファナは少しよろけた後、何ごとかをブツブツと呟き、しばし動きを止める。
それを見て、ユイットは天使に向かい叫ぶ。
「ワーキュライラ殿! 姉様の欲望が肥大化……と言いましたね? これが姉様の、本当にやりたいことだとでも言うのですか?」
「そうですね~、『国のために役立ちたい』というのも立派な欲望。それが暴走している感じですね~」
「理屈では解りますが……クッ」
「ユイットさん、あなたではリファナさんを止められないでしょう。このふたりに……任せてみてくださいませんか~?」
ワーキュライラはそう言って、細っこい目でアーネス&ヨウジを見つめる。
ユイットは唇を噛みながら、悔しそうに顔を背けた。
「やるしかないか。とはいえ、変身しないことには……」
(自分の中の魔力的なものは、確かに感じてる。それは……自分の熱い気持ちというか、感情のパワーと密接したもの。言語化はしにくいけど……)
ワンコはワンコなりにキリッと決心したような顔で、アーネスを見上げた。
「アーネス、俺にファンサしてくれ!」
「ファンサ……って何よ」
「アーネスを応援する俺達……オタクを喜ばせる言動、アピールを見せてくれ。言葉でも、仕草でも、何でもいい。俺が喜ぶと思うことを、自分で考えてくれ!」
「そ、そんなこと言われても……」
(一度繋がって……歌って踊ることもさせられて。ヨウジの中の『アイドル』ってものは、なんとなくわかってきた。けど……男の子が喜ぶことなんて、考えてこなかったもん。わかんないわよ……)
戸惑うアーネス。そんな少女らしい葛藤を待たず、リファナは再び巨大剣をブン回しながら迫る。
「クッ……あなた達! 何をやっているんですか!」
今度は剣を縦に構え、ユイットは巨大剣の薙ぎを受け止めた。
かと思われたが、ユイットの剣が纏う雷魔法の反発、その力を利用し、リファナは巨大剣を反対方向へ回転させた。
ズバンッ!
「ぐはッッッ!!」
あまりの振り速度に反応することもできず、ユイットは反対の横っ腹に一撃を喰らってしまう。
地に転がるユイットに近づき、リファナはその尻をゲシッと踏みつけた。
「まるで鍛錬が足りん! ユイットよ、まだこの程度か!? 大体お前は、相手の技の組み立てを読む想像力が……」
「も、申し訳ありませーん!」
結果的にユイットがリファナの気を引いているその時……いまだ迷うアーネスに、ヨウジはあらためて吠えた。
「アーネス、お願いだ! ファンサしてくれ!!」
「う…………も、もうっ!」
アーネスは決死の表情でワンコを抱き上げ、キツく瞼を閉じ、その頬にキスをした。
それは、毛むくじゃらに顔を埋めただけで、飼い犬を吸ってるだけにしか見えなかった。
が……恋愛経験のないふたりの中では、結構な一大イベントとなっていた。
「ちょっ……これ、ファンサとしては、やりすぎ!!」
ワンコの中で熱いエネルギーの塊が弾け、魔力が溢れ出す。
ビシッと決めるべき変身シーン、不意にアーネスの髪がヨウジの鼻をくすぐった。
「ハッ……クシュン!」
黒い光の幕が小さな体を包み、一気に膨らむ。
再び、巨大な黒狼に……と思われた、が。
「……ん? この慣れた感覚は……」
それもそのはず、ヨウジの体は『大きくなった』とはいっても、人間然とした体に変化していた。
ワンコ時の首輪含めた服装は変わらず、上裸の姿。
容姿は転生前とさほど変わらないが、おそらく10歳ほど若返っている。
そして……その頭には獣人らしくイヌミミが、尻にはシッポがあった。
「なんと……ビックリだ。今後を考えれば、人間態になれるのはありがたい。が……戦う分には巨獣フォームの方がいいんだけどな」
「…………はう……」
人間態ヨウジの顔に、文字通り見とれるアーネス。
すでに言葉で心を救われ、ヨウジの人柄に惹かれてはいたが、今の容姿はアーネスの好みそのものだった。
そして、それは……アーネスが『やべー女』だという証明であるかもしれないのだった。
「アーネス? 何……ヘンな感じに見える?」
「……ハッ!? べ、別に……おかしくないわよ、うん」
(あれ? この感じ……まさか、やっぱり惚れられた? アーネスを国民的アイドルにする立場として、もちろん一オタクとしても、推しのスキャンダルに関わるなんて……もってのほかだぞ)
「おい、アーネス、ボーッとしないでくれよ。スタイル抜群な美少女に変身できるといっても、普段のちんちくりんフォームの時から意識を高く持っておいてくれ」
「ち、ちんちくりんフォームって何よ! もーう!」
ズドンッ!!
空気が震える轟音と白い輝き。ふたりはその出どころを見やる。
そこには……トドメの雷撃を受けたユイットが、出来たて料理のように湯気を立て転がっていた。
「お、おーい、弟くん? 大丈夫かー?」
「はぁ……はぁ…………も、もっと……もっと叱ってください……ッ」
(うわぁ……ドン引きですよ、ユイット君。アーネスもゴミを見るような顔してるし……。でも、まぁ、少女マンガ的ラブコメ臭を払拭してくれてグッジョブか)
「愚弟の指導で待たせてしまったな。次は……お前達の性根をたたき直してくれる!」
リファナがゆっくりと振り返り、光はないが鋭い眼を向ける。
そんな難敵を前に、すでに魔法陣を描き終えたアーネスは、ヨウジと魔力を同期させた。
「ヨウジ! さっきと同じ! アンタが魔法を使うのよ!」
巨獣フォーム時と同様に、頭の中心の髪が光り逆立つ。
ヨウジの脳内に、理屈でなく魔法の情報が共有知識として浮かんでいた。
(うん……さっきより、わかる。魔法が。さっき、胸の中に入った光の球が関係あるのか? 今なら……何でもやれそうだ)
「地の理霊よ……俺の命力を素とし、ひととき、この手を覆う手甲となれ!」
両手のひらでパンと地面を叩く。と、ふたつの魔法陣が浮かび上がる。
円陣に手を差し入れ、抜き出す。その手には、ロボットがロケットパンチで飛ばしそうな岩石製の手袋が填められていた。
「ほんとはゴム的な対策をしたいところだけど、これでやるしかないな。じゃ……白黒つけますか」
(人間態になっても、身体能力は野生動物のポテンシャルを感じる。巨大剣を奪えれば……)
「愚弟とはいえ、あの者は騎士。あやつと同じように受けられるか?」
ゴウと風切り音を上げ、オーズヴァインの横一閃。
ガンッ!!
それをヨウジは、白刃取りの横バージョンで挟み込み、なんとか受け止めた。
「ほう……甘く見たことを詫びよう。さすがは黒魔女の使い魔といったところか」
「この重量を止められるか不安だったけど……重力制御のイメージを混ぜてみたのがうまくいったみたいだ」
本来は、術式を追加しなければならない複合的な魔法。それをイメージだけで実現させているのは、もちろんアーネスと同期しているから。
やはり、アーネスの転生召喚は失敗しておらず、ヨウジ自身が能力の高い使い魔として生まれたことも確かだった。
「では、戦闘レベルを上げるとしよう。しっかり対応してみせろ」
巨大剣がドリルのように回転。奪い取ろうと考えていたヨウジは、思わぬムーブに体勢を崩される。
「構えよ! 実戦で、敵は待ってくれんぞ!?」
「もしかして、入団させられてる感じ? 勘弁して欲しいな……」
リファナは巨大剣を引き寄せ、再び自身の剣で支えるように頭上に掲げる。
と、剣の腹を手のひらで叩くジェスチャー。何かのデータが伝っていくように、剣から巨大剣へ光が移動していく。
「『雷瞬』!」
頭上に浮くオーズヴァインを剣先で突き上げる。瞬間、巨大な剣が掻き消えた。
「消した? いや……ッ」
結界内に、炭酸飲料の弾けるような音と、轟く風切り音。
よく見れば、巨大剣があちこちに現れては消えるのが確認できる。
「あの図体なりのスピードだったから掴めたのに……高速で動けちゃダメだろ!」
真横から飛来する巨大剣。ヨウジは音を頼りにギリギリで避ける。
リファナは間を開けず剣を返し、別角度から振り下ろす。
躱すのが間に合わなくなったヨウジは、なんとか手甲にかすらせ受け流す。
「ヨウジ! うしろッ!!」
「遅いわ!!」
瞬間移動としか思えないタイミングで、ヨウジの背中から巨大剣が襲いかかる。
「ぐあああああああッ!!」
バチバチと電撃を浴びせた後、巨大剣は『ま、こういうことだ』とばかりにヨウジの肩をトンと押す。
踏ん張ることなどできるわけもなく、ヨウジの膝は地についた。




