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黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと 〜転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ〜  作者: 茉森 晶
第2章 『冷酷な騎士団と黒い花の指輪』

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(013) 『決戦! ヨウジ(第3形態) VS リファナ(闇堕ち)』

挿絵(By みてみん)

転生後ヨウジがクシャミで変身する人間態です。



「騎士だからといって、準備ができるまで待ってくれると思うな!」


 巨大な剣(オーズヴァイン)を振りかぶり、そのサイズ通りの重みを感じさせるひと太刀を振るうリファナ。

 ヨウジが咄嗟に受け止めようとしたその時、ユイットが間に割って入った。


「ふんんッ!!」


 バチチッ!

 雷の魔力を剣に込め、姉の魔力に反発するような効果で、なんとか巨大剣(オーズヴァイン)の一撃を受け止める。


「弟くん……俺達を庇ってくれるんだ?」

「クッ……今の姉様は正気ではありません。もし、あなた達を死なせてしまったら……姉様は自分を責める。止めなければならないのです……よッ!」


 必死の形相で踏ん張り、巨大剣(オーズヴァイン)を一旦押し返す。

 リファナは少しよろけた後、何ごとかをブツブツと呟き、しばし動きを止める。

 それを見て、ユイットは天使(ワーキュライラ)に向かい叫ぶ。


「ワーキュライラ殿! 姉様の欲望が肥大化……と言いましたね? これが姉様の、本当にやりたいことだとでも言うのですか?」

「そうですね~、『国のために役立ちたい』というのも立派な欲望。それが暴走している感じですね~」

「理屈では解りますが……クッ」

「ユイットさん、あなたではリファナさんを止められないでしょう。このふたりに……任せてみてくださいませんか~?」


 ワーキュライラはそう言って、細っこい目でアーネス&ヨウジを見つめる。

 ユイットは唇を噛みながら、悔しそうに顔を背けた。


「やるしかないか。とはいえ、変身しないことには……」


(自分の中の魔力的なものは、確かに感じてる。それは……自分の熱い気持ちというか、感情のパワーと密接したもの。言語化はしにくいけど……)


 ワンコ(ヨウジ)はワンコなりにキリッと決心したような顔で、アーネスを見上げた。


「アーネス、俺にファンサしてくれ!」

「ファンサ……って何よ」

「アーネスを応援する俺達……オタクを喜ばせる言動、アピールを見せてくれ。言葉でも、仕草でも、何でもいい。俺が喜ぶと思うことを、自分で考えてくれ!」

「そ、そんなこと言われても……」


(一度繋がって……歌って踊ることもさせられて。ヨウジの中の『アイドル』ってものは、なんとなくわかってきた。けど……男の子が喜ぶことなんて、考えてこなかったもん。わかんないわよ……)


 戸惑うアーネス。そんな少女らしい葛藤を待たず、リファナは再び巨大剣をブン回しながら迫る。


「クッ……あなた達! 何をやっているんですか!」


 今度は剣を縦に構え、ユイットは巨大剣(オーズヴァイン)の薙ぎを受け止めた。

 かと思われたが、ユイットの剣が纏う雷魔法の反発、その力を利用し、リファナは巨大剣(オーズヴァイン)を反対方向へ回転させた。


 ズバンッ!


「ぐはッッッ!!」


 あまりの振り速度に反応することもできず、ユイットは反対の横っ腹に一撃を喰らってしまう。

 地に転がるユイットに近づき、リファナはその尻をゲシッと踏みつけた。


「まるで鍛錬が足りん! ユイットよ、まだこの程度か!? 大体お前は、相手の技の組み立てを読む想像力が……」

「も、申し訳ありませーん!」


 結果的にユイットがリファナの気を引いているその時……いまだ迷うアーネスに、ヨウジはあらためて吠えた。


「アーネス、お願いだ! ファンサしてくれ!!」

「う…………も、もうっ!」


 アーネスは決死の表情でワンコ(ヨウジ)を抱き上げ、キツく(まぶた)を閉じ、その頬にキスをした。

 それは、毛むくじゃらに顔を(うず)めただけで、飼い犬を吸ってるだけにしか見えなかった。

 が……恋愛経験のないふたりの中では、結構な一大イベントとなっていた。


「ちょっ……これ、ファンサとしては、やりすぎ!!」


 ワンコ(ヨウジ)の中で熱いエネルギーの塊が弾け、魔力が溢れ出す。

 ビシッと決めるべき変身シーン、不意にアーネスの髪がヨウジの鼻をくすぐった。


「ハッ……クシュン!」


 黒い光の(ベール)が小さな体を包み、一気に膨らむ。

 再び、巨大な黒狼に……と思われた、が。


「……ん? この慣れた感覚は……」


 それもそのはず、ヨウジの体は『大きくなった』とはいっても、人間然とした体に変化していた。

 ワンコ時の首輪含めた服装は変わらず、上裸(じょうら)の姿。

 容姿は転生前とさほど変わらないが、おそらく10歳ほど若返っている。

 そして……その頭には獣人らしくイヌミミが、尻にはシッポがあった。


「なんと……ビックリだ。今後を考えれば、人間態(このフォーム)になれるのはありがたい。が……戦う分には巨獣フォームの方がいいんだけどな」

「…………はう……」


 人間態ヨウジの顔に、文字通り見とれるアーネス。

 すでに言葉で心を救われ、ヨウジの人柄に惹かれてはいたが、今の容姿はアーネスの好みそのものだった。

 そして、それは……アーネスが『やべー女』だという証明であるかもしれないのだった。


「アーネス? 何……ヘンな感じに見える?」

「……ハッ!? べ、別に……おかしくないわよ、うん」


(あれ? この感じ……まさか、やっぱり惚れられた? アーネスを国民的アイドルにする立場として、もちろん一オタクとしても、推しのスキャンダルに関わるなんて……もってのほかだぞ)


「おい、アーネス、ボーッとしないでくれよ。スタイル抜群な美少女に変身できるといっても、普段のちんちくりんフォームの時から意識を高く持っておいてくれ」

「ち、ちんちくりんフォームって何よ! もーう!」


 ズドンッ!!


 空気が震える轟音と白い輝き。ふたりはその出どころを見やる。

 そこには……トドメの雷撃を受けたユイットが、出来たて料理のように湯気を立て転がっていた。


「お、おーい、弟くん? 大丈夫かー?」

「はぁ……はぁ…………も、もっと……もっと叱ってください……ッ」


(うわぁ……ドン引きですよ、ユイット君。アーネスもゴミを見るような顔してるし……。でも、まぁ、少女マンガ的ラブコメ臭を払拭してくれてグッジョブか)


「愚弟の指導で待たせてしまったな。次は……お前達の性根をたたき直してくれる!」


 リファナがゆっくりと振り返り、光はないが鋭い眼を向ける。

 そんな難敵を前に、すでに魔法陣を描き終えたアーネスは、ヨウジと魔力を同期(リンク)させた。


「ヨウジ! さっきと同じ! アンタが魔法を使うのよ!」


 巨獣フォーム時と同様に、頭の中心の髪が光り逆立つ。

 ヨウジの脳内に、理屈でなく魔法の情報が共有知識として浮かんでいた。


(うん……さっきより、わかる。魔法が。さっき、胸の中に入った光の球が関係あるのか? 今なら……何でもやれそうだ)


「地の理霊(りれい)よ……俺の命力を素とし、ひととき、この手を覆う手甲となれ!」


 両手のひらでパンと地面を叩く。と、ふたつの魔法陣が浮かび上がる。

 円陣に手を差し入れ、抜き出す。その手には、ロボットがロケットパンチで飛ばしそうな岩石製の手袋が()められていた。


「ほんとはゴム的な対策をしたいところだけど、これでやるしかないな。じゃ……白黒つけますか」


(人間態になっても、身体能力は野生動物のポテンシャルを感じる。巨大剣(オーズヴァイン)を奪えれば……)


「愚弟とはいえ、あの者は騎士。あやつと同じように受けられるか?」


 ゴウと風切り音を上げ、オーズヴァインの横一閃。


 ガンッ!!


 それをヨウジは、白刃取りの横バージョンで挟み込み、なんとか受け止めた。


「ほう……甘く見たことを詫びよう。さすがは黒魔女の使い魔といったところか」

「この重量を止められるか不安だったけど……重力制御のイメージを混ぜてみたのがうまくいったみたいだ」


 本来は、術式を追加しなければならない複合的な魔法。それをイメージだけで実現させているのは、もちろんアーネスと同期(リンク)しているから。

 やはり、アーネスの転生召喚は失敗しておらず、ヨウジ自身が能力の高い使い魔として生まれたことも確かだった。


「では、戦闘レベルを上げるとしよう。しっかり対応してみせろ」


 巨大剣(オーズヴァイン)がドリルのように回転。奪い取ろうと考えていたヨウジは、思わぬムーブに体勢を崩される。


「構えよ! 実戦で、敵は待ってくれんぞ!?」

「もしかして、入団させられてる感じ? 勘弁して欲しいな……」


 リファナは巨大剣(オーズヴァイン)を引き寄せ、再び自身の剣で支えるように頭上に掲げる。

 と、剣の腹を手のひらで叩くジェスチャー。何かのデータが伝っていくように、剣から巨大剣へ光が移動していく。


「『雷瞬(フラッシュウォーク)』!」


 頭上に浮くオーズヴァインを剣先で突き上げる。瞬間、巨大な剣が掻き消えた。


「消した? いや……ッ」


 結界内に、炭酸飲料の弾けるような音と、轟く風切り音。

 よく見れば、巨大剣(オーズヴァイン)があちこちに現れては消えるのが確認できる。


「あの図体なりのスピードだったから掴めたのに……高速で動けちゃダメだろ!」


 真横から飛来する巨大剣。ヨウジは音を頼りにギリギリで避ける。

 リファナは間を開けず剣を返し、別角度から振り下ろす。

 (かわ)すのが間に合わなくなったヨウジは、なんとか手甲にかすらせ受け流す。


「ヨウジ! うしろッ!!」

「遅いわ!!」


 瞬間移動としか思えないタイミングで、ヨウジの背中から巨大剣(オーズヴァイン)が襲いかかる。


「ぐあああああああッ!!」


 バチバチと電撃を浴びせた後、巨大剣(オーズヴァイン)は『ま、こういうことだ』とばかりにヨウジの肩をトンと押す。

 踏ん張ることなどできるわけもなく、ヨウジの膝は地についた。


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