・8話
結果から述べるとボンティール村の水源問題は解決した。望の予想通りウィムジ川は地下水路としていまなお存在し、井戸を増やすことで村の畑を支えられる水量も得ることが出来た。
ただし、かなり深い地層まで掘る必要があったため、望は風車によるドリル採掘(ロータリー工法)や揚水の技術も合わせて提案し、ホープは細かい説明をなんとか回避しながら村人達と道具を作り、井戸を掘ることに成功した。
それまで大規模な魔法を駆使する必要があった治水工事が、ホープや強い魔法を持たない村人たちだけでも行えたことは画期的だったため、雨季を過ぎても返事が来なかった領主から詳しい報告を聞きたいと早馬の知らせが村へ来たほどであった。
それまで「独り言のホープ」と村人から生暖かい目を向けられていたホープであったが、これを機に「村一番の智者」「村を救った発明家」として一目置かれる存在となる。
ホープ本人は智者と褒められる喜びより、双子通話をしている姿を村人全員(母のグレースも含めて)が知っていたことの方が気になってしまい、「か、考え事をまとめるのには独り言が効率が良いんだ~」とかなんとか誤魔化しながら、心で涙するのであった。
風車による揚水技術はその後ボンティール村だけではなく近隣の村々や、デメーンドの街郊外にも大小様々な形で発展していった。ウィンドミルと呼ばれる小麦の精製に、風のかわりに水の力を応用した水車も作られた。
ホープに風車を伝えた望はもう一歩進めた「風力発電」に関する”知識”いつか伝えるつもりであり、そのためにもさらなる”知識”を求めて高校2年から飛び級し、大学へと進む予定であった。兄の役に立ちそうな知識はどんどん吸収する。こちらも陰ながら「令和の才女」「知識欲の権化」と呼ばれているとかなんとか。
望は時間を操る魔法を兄と兄の居る世界のためにフル活用して、1日を40時間勉強したり、論文の精査に徹夜三日も当たり前といった勢いで勉強に励んでは元の時間に戻っている。
そんなコトを繰り返すと一人だけ時間の流れが変わってしまいそうではあるが、望の見た目や健康面にはなんら影響していないようで、知り合った友達や両親との仲も良好であった。
『うー 疲れたぁ。』
「お兄ちゃんおつかれさま~。」
『やっと領主様から頼まれてた大型風車と揚水用の設備、あと小麦精製の設計図が描けたよ。』
「おー頑張ったね、えらいえらい。」
『もっとものぞみが教えてくれた図面をこっちの現場でも使えるように置き換えてるだけだから、いつも通りうーっすらとしか理解してないんだけどね。』
「”知識”そんなもんだよ、ワタシもまだわからない事たくさんあるし。」
『”まだ”って言っちゃう所がのぞみのスゴイところだよな。』
「まーねー♪」
『このまま領主様に風車事業を引き継いもらって、オレは村に戻って農園を大きくするんだ。』
「契約金の話もしたの?」
『もちろん!風車事業の儲けで村の年貢の半分を肩代わり、それでも余る分は開墾事業へまわしてもらうようにお願いして許可証を貰ったよ。戦争で小さくなった村の農園をまた昔のように広げられるんだ。じーちゃんやばーちゃんの頃のようにね。』
「グレースお母さんも喜びそうだね。」
『いつも屋敷の風車小屋で作った小麦でいろんなパンや麺を作ってるよ。極めが細かくてふっくら焼き上がるんだって毎日焼くからちょっとにーちゃん太ったかも…それもこれものぞみが教えた調理レシピってやつのせいだからな!』
「美味しいご飯は人を幸せにするのです。あーワタシもお腹空いてきたな。」
『のぞみも太っt…』
刹那、ホープは戦場でも感じたことがない程の殺気を背に感じた。それは人の、いや生き物が持つ根源的な恐怖。
「何か言った?」
『イイエ、ナニモイッテマセン。双子通話ノ不調カナ?(ガクガクブルブル』
「それは大変ね、じゃ今日の通話はここまでにして、お互いご飯を食べて幸せになろうか、お兄ちゃん。」
『ソウデスネ、ジャ、ママトイッショニゴハンタベルヨ。マタネ、ノゾミサン…。』
「はーい。またね、お兄ちゃん。」
その夜、ホープは滝のような寝汗をかくほどうなされた。