・3話
ホープは小さな頃から両親にも友達にも秘密にしていることがある。
実は生まれる前にこのエクスペータと呼ばれる世界へとやってきた異世界転生者なのである。…なんてことを周りに話しても生暖かい目で見られるか、気まずくなって疎遠になってしまうかもしれないだろうと思い黙っているのだった。
森田希は母親、仁恵の胎内で”言葉”を聞いた。
[キミの生命力がずば抜けて大きいため、仁恵くんの生命力では双子を無事に出産するどころか、三人の命も危うい状態だ。もしキミが了解してくれるのであれば子供を授かりたいほかの夫婦の元への転生の儀を行いたい。どうだろうか?]
人生最大の決断としてはあまりにも早く(生まれてないし)不条理な状況ではあったが、了承もなにも「うん」と言わなければ母と妹まで死んでしまう。
希はへその緒で繋がる、今は眠っている妹の手をギュッと握ったあと、”言葉”と一緒に仁恵の胎内から消えていなくなったのだった。
そして希はこのエクスペータ世界の片隅にある小さな農村、ボレンティールの村に生を受けた。
父の名はサム、母の名はグレース、夫婦の最愛の息子のホープして転生したのであった。
異世界転生者と言っても地球の日本に居た頃、仁恵の胎内にいたは5週間程度でしかなく、森田家は胎教から必死で英才教育をするような夫婦でもなかったため、覚えているのは毎日話しかけられた「希と望」という名前と、転生を勧めた”言葉”だけだった。
[ここエクスペータは地球よりまだ若い、大らかな世界なのでキミの生命力でも問題なく育つことが出来るだろう。それと、エクスペータで生まれる子には一つだけ加護を授ける習わしがある。それは魔法という形でいずれキミが大きくなる頃に使えるようになるが、今回はキミの双子の妹くんにもその加護を授けるつもりだ。無理を聞いてくれたキミと森田家への償いとさせて欲しい。]
「・・・・・・・・・・?」かーちゃんとのぞみは無事?
[ああ、母子ともに良好だよ。]
「・・・!」ホント!
[しばらくはキミを失ったコトで気落ちするかもしれないがね。]
「・・・。」えぇ…。
[すまない、悲しませるつもりはなかった。]
「・・・、・・・・・・・・」いいよ、無事ならそれで。
[そうか、それでは行こうか。]
それがホープが生まれる前から覚えている全てであった。