・10話
森川望は現在、国家安全保障会議(NSC)で働いている。
働いているというか、彼女自身が国家機密扱いなのである。
兄を通して異世界の存在を知った望は一つの目標をたてた。
「いつか二つの世界を繋ぐ。そしてお兄ちゃんと会う。」
それは決定事項の強い意志。
望には”言葉”さんに授かった時間を操る魔法があり、最大限に時間を活用することで蓄えた膨大な知識を駆使して地球とエクスペータを繋げるための道を模索していたのだった。
とりあえずNSCで働くためには防衛省か外務省出身者になるのが手っ取り早いと考えて、ググルーンで各省のホームページを調べた後、外務省の一般人事採用試験に応募して難なく採用されたのである。
望本人曰く「防衛省でも良かったんだけどその年は一般職に採用枠が無かったんだよね。後からその事を話したら、向こうに伝わったらしくて「今からでもこっち来てくれって!」ってめちゃくちゃスカウト飛んできて、(外務省の)上の人とバチバチの取り合いになったって聞いた。」とのこと。
とにかくこうして外務省に勤務した望はその後ぐんぐんと出世し、めでたくNSCへと駒を進めた。そして双子の兄が住む異世界の情報が、一部の日本政府要人達へ秘密裏に伝えられることになる。
それから20年、日本はとある国との国交樹立を果たした。
その国は地球上のどこにもないく、次元すら異なる世界の小国であったが、お互いを尊重し発展することを目的とした条約を取り交わすことになった。その国の名はデシール王国といい、風車で有名な農業主体の国であった。
科学的な格差はあれど、日本はデシール王国の発展のため知識や技術、工業品の輸出を約束し、デシール王国からは農作物の輸出や地球では見られない”魔法現象”を使った研究と、それらを駆使する人々の交流が主になっている。
異なる世界の異なる秩序、新たな問題なども予想されたが、長い時間をかけて一つずつ問題を解決していった国家安全保障会議(NSC)と、その議長であり日本初の女性の首相となった森田望、そして彼女が育てたブレーン達の頑張りであった。
日本の科学技術とデシール王国の魔法技術の複合物である異世界間トンネル『ゲート』。
その完成までの道のりは長く険しいものだったがいざ出来上がったゲートはとてもシンプルなものであった。
初の異世界間開通式の日は日本時間の11月11日。
それが森田望首相の誕生日と同じ日なのは公私混同ではないかと?国会で問われたこともあるが「公私混同ですがなにか?」とやり返した時のドヤ顔は、今でもネットミームとして森田望首相の人気の一端を担っていた。
後日改めて盛大な開通式を行う予定だが、今回の初開通式は人体へのストレステストも兼ねてのぶっつけ本番である。物質転送に関しては成功しているものの、人が行き来出来るような恒常空間の構築に科学と魔法の両方からアプローチしているため、さらなる改良はこの扉が開いた後になる。
「エネルギー出力安定しています。開放まで5、4、3、2、1、首相、お願いします。」
係員によるカウントダウンの元、ゆっくりと開放レバーを引く森田首相。
と、同時に扉の周辺が淡く発光しはじめた。
「予測された魔法現象発動、エネルギー出力引き続き安定。『ゲート』開きます。」
世界初の異世界間トンネル『ゲート』がゆっくりと開いていく、森田望は操作パネルから離れ『ゲート』の前に立った。発光現象が起きている『ゲート』の内部は同じように淡い光に満たされていて、『ゲート』の向こう側に立つ人影がこちらに向かって歩いてくる姿を浮き立たせていた。
「おかえり、お兄ちゃん。」
森田望は臆することなくゲート内部へと足を踏み入れながら人影に話かける。
『ただいま、のぞみ。』
ホープこと森田希もまた王国に設置されたゲート内部へと足を踏み入れながら答える。
50年近く、声だけは毎日やり取りしていた一卵性双生児の兄妹が、二つの世界の真ん中で初めて顔を合わせたのであった。
「『 うわー 同じ顔!(笑 」』