第8話 火事の真相
十人の一団が山荘に近づいて来ていることをシルバが魔法で検知していた。
『一人はローズだな。あとはローズと同年代ぐらいの女が一人、残りは全員男だ。身なりや歩き方からして、恐らく傭兵だな』
「ローズ先生御一行なのかしら」
『多分な。傭兵たちはローズの指示に従っている』
魔法での検知は映像のみで、声までは聞こえないそうだ。
「ひょっとして、もう一人の女性は叔母様かしら」
私の予想は当たっていた。エカテリーナがローズと一緒に山荘を訪ねて来たのだ。
「叔母様、ローズ先生、ご無沙汰しております。どうされたのでしょうか?」
私は山荘を出て二人に挨拶した。シルバが右肩にいるので恐れることは何もない。
二人は山荘が綺麗なことに驚いているようだ。エカテリーナの方はシルバに対しても驚いていた。ローズから何も聞いていないのだろうか。
「グレース、元気そうね。少し話をしたいのだけど、中に入っていいかしら?」
エカテリーナからそう尋ねられ、問答無用で山荘に入るのだろうと覚悟して構えていた私は、肩すかしを食らった感じだった。
「どうぞ、ただ、殿方の入室はご遠慮頂けますでしょうか。若い娘の一人暮らしですので」
シルバとの楽しい空間に、出来れば誰にも入ってもらいたくはなかった。
「もちろんです、お嬢様。お前たち、ここで待機していなさい」
ローズの指示を聞いて、傭兵たちはそれぞれが適当なところに腰を下ろした。
エカテリーナとローズが山荘内に入って来た。私はダイニングテーブルに座るように勧めて、ハーブティーをいれた。二人は紅茶の味に驚いている。
「思ったよりいい暮らしをしているみたいね」
エカテリーナが部屋のなかを見回してつぶやくように言った。
そう言われて、私はこの充実した生活を自慢したくなった。
「叔母様たち、お食事はされましたか?」
「そうね、山を登って来たので、少し小腹が空いているかしら」
エカテリーナは遠慮なしに空腹宣言をしたが、ローズは黙っている。どうかしたのだろうか。
「ローズ先生は如何しますか?」
「何か頂けるようでしたら、お願いいたします」
なんだ、やはり先生も空腹なのか。私が極貧で、なけなしの食べ物を出すとでも思ったのだろうか。鍛えているので、太ってはいないはずだが、この健康的な艶艶肌を見てもらえば、食生活が充実していることがわかるはずなのだが。
「肉まんという食べ物ですが、お口に合うかどうか」
私はそう言って、後で食べようと思っていた肉まんを自分の分も含めて、一つずつテーブルに置いた。
「出来立てで、少し熱いのでお気をつけ下さい。こんな感じで手でちぎって食べると食べやすいです」
私の食べ方を真似て、二人が一口二口肉まんを摘んで口に運んでいる。
「お、美味しい!」
ローズが素直な感想を口に出した。エカテリーナは肉まんと私の顔を交互に見つめて驚いている。
「これをお前が?」
「ええ、叔母様、お陰様で充実した生活を送らせて頂いてます」
二人はあっという間に肉まんを平らげ、ハーブティーも二杯目を口にしている。すっかりくつろいでいるが、いったい何をしに来たのか。
私がじっとエカテリーナを見ていたら、エカテリーナは目的を思い出したようだ。
「グレース、あなたに謝罪しに来ました。火事の原因はあなたの魔法ではなく、放火でした」