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第4話 精霊の儀式

 16歳になると妖精との契約を行うのがこの世界の習わしだ。


 グレースは妖精召喚のため、妖精陣と呼ばれる複雑な文様が描かれた円の中心に座っていた。


 場所は王都からかなり離れた廃れた神殿で、ローズは付添人として少し離れたところで儀式を見守っている。


 まだ若いのに酒焼けした不潔な感じのする召喚士が、よろよろと妖精陣に近づいた。久しぶりの仕事で貰った料金は昨日の酒代に消えていた。


 召喚士はうろ覚えの呪文を適当に唱えた。


 すると、適当な召喚呪文とは不釣り合いな神々しい光が妖精陣から溢れ出し、いつしか妖精陣全体が燦然と輝き、神殿は眩いばかりの光に満ち溢れた。


 召喚士が呆然としている。ローズは眩し過ぎて目を開けていられなかった。


 グレースは目を瞑って祈るような姿勢でひざまずいていた。


 光の輝きはこれ以上ないくらいまで輝き、突然跡形もなく消えた。


 ずっと目を閉じていたグレースが目を開けると、灰色の目でキョトンとしてグレースを見つめている子猫が宙に浮かんでいた。真っ白い長い毛でモフモフ感たっぷりだ。


 あまりの可愛さにグレースは妖精を抱きかかえた。久しぶりに見せるグレースの能動的な行動だった。


 召喚士とローズの目が、ようやく薄暗い室内に慣れてきた。


「お嬢様、それが妖精ですか?」


 ローズが叫んだ。どう見ても妖精には見えない。というか、本来、妖精は見えないはずだ。


 グレースはゆっくりと首を縦に振って、子猫を腕のなかから離すと、子猫は宙に浮いていた。


 冴えない召喚士が叫んだ。


「モフドラ様!?」


 召喚士は訳あって落ちぶれてしまっているが、学生のころまでは優秀だった。妖精界の最高峰にいる猫の姿をした妖精を彼は思い出したのだった。


 ただ、モフドラ種が人と契約をした記録は召喚士が知る限りはない。本当にモフドラ種だろうか。召喚士は自分の知識をすぐに疑い始めた。


 だが、あの眩いばかりの光が何よりの証拠ではないだろうか。高位の妖精であればあるほど、妖精陣は光輝くが、あそこまで光り輝くのは、モフドラ種だからではないだろうか。


 召喚士はローズに説明した。


「ローズ様、恐らくお嬢様の妖精は『モフドラ』という妖精王をも上回る高位の妖精だと思います。ぜひとも王都の中央神殿に行って、鑑定を受けるようになさってください」


 ローズは胡散臭い召喚士の言葉を信じることができなかった。


(この召喚士は自分の名前を高めたいのだわ。こんな猫みたいなのが高位の妖精な訳ないじゃない)


 妖精はほとんどが可視できない。ローズも結婚するまで妖精に守られていたが、姿は見えなかったし、アニーやテイルの妖精もいるかどうかすら分からない。


 非常にまれにヒト型や獣人型の可視できる妖精がいて、獣人型の方が人型よりは高位だと言われているが、まったくの獣の姿をした妖精は見たことも聞いたこともなかったのだ。


(とりえず儀式は終わった。先を急ごう)


 ローズはグレースを連れて神殿を出た。

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