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ケモっ娘ぱわーで癒され日記  作者: 小日向 雨空
〈1章:とにかく癒されたい〉
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〈07話:葵の葛藤〉

 あの時の約束がまだ果たされていない。

 日本でのあの事件があったからだ。

 ゲームをしていたところ、プラグから発火、火災により、日本での死亡。

 その後、誰とも音信不通になり、まず転生してきたのがこの世界だ。

 まず、この世界で確認できたのが〈ダリエス〉で、最初に出会ったのが、ウルフの街で出会った少女、〈ラミィ〉だ。

 ダリエスは元々の知り合いだったので話しかけるには困らなかった。


 ——この世界が現実(リアル)になっていることに。


 まずは最初に疑い、だんだんと慣れてその言葉を信じて。

 そして認めるようにもなった。

 だが、一番心配な点はそこではなかった。

 ——現・彼女の(あおい)の存在だ。

 ラミィを見た時、会話を交えて思ったのが一つだけある。


「ラミィが葵の可能性」だ。


 声の性質、笑顔、甘え方、いくつも葵と共通する部分がある。

 でも、直接本人には聞けないし、万が一違ったら失礼すぎる。

 なのでいまの今まで聞けていない。

 そんな不安を抱えながら、目の前の世界はコロッセオが決勝に向かって行った。


 ◆◆◆◆◆◆


「ハルさん、決勝頑張ってくださいね! 優勝できたら、()()()()()()()()()()()()()()()よ!」

「なん……だと」

 なんでも言うことを一つ聞くと言う定番ながら健康な男子ならいろいろなことを妄想するであろう要求。

 でも、ハルは違った。

 要求なんて今更決まっていた。

 迷うこともない。


 ——ラミィの身分証を見せてもらう


 これだった。

 ラミィが葵か判断するにはこれほどにないちょうどいい材料だった。

 ラミィの身分証を見せて貰えばもしかしたら本名が載っているかもしれないから。

 ハルのだってそうだ。

 指名欄に春、もといハルと二つ名が記載されている。

 葵だったのであれば、別名という名の本名が記載されている——そう睨んだのだ。

 そうこう考えているうちに、決勝戦が始まった。


 もう一つの()()()()もあったりする。


 ◇◆◇◆◇◆


 私は夢を見た。

 はると結婚して家庭を築いた幸せな夢。

 私がはると結婚できたら最高この上ないが、そううまくはいかないのが現実だったりする。

 コロッセオ決勝の日の朝。

 私は朝焼けの光で目が覚める。

「…………」

 私は、ふと考えた。

 このままずっと付き合っていられたら。

 ずっとお互い好きでいられたら。

 いつか結婚とかもできたら。

 どんなに幸せなのだろう。

 でも。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 はるだって男の人だし、もしかしたら他にもはるのことを慕う人がいるかもしれない。

 その慕う人ではるがその人のことを好きになってしまったら。

 私とはお別れしてしまうのだろうか。

 もし、他の英雄さんで女性の人がはるに想いを寄せているなら。

 はるはどんなことを言うのだろうか。

 何を考えるのだろうか。

 そろそろ付き合って4ヶ月。

 いや、()()()()()()()()()()()()()()、5年。

 こうやってずっと一緒に寝てはいるものの、何も進展がないと言うのは私からしたら葛藤(かっとう)ものだった。

 はるも男の人だし、たまにはオオカミになってくれてもいいのに。

 未だキスもそれ以上のことも何もできてない関係に少し苛立ちを覚えてしまう。

 でも、言ったら言ったで嫌われたらどうしようと言う感情が芽生える。

 きっとはるは嫌ったりはそうそうにしないと思うけど、万が一の可能性が(いな)めないから怖い。

「ん……? ラミィどうしたの?」

 はるが目を覚ました。

 まず最初に心配してくれる優しさを感じた。

 きっと私の顔がとてつもなくおどろおどろしいものだったのだろう。

「大丈夫です……。ちょっと考え事をしてただけで」

「そう? 不安なことは言ってくれていいからね」

 優しい言葉をかけてくれる。

 それだけで嬉しくなる。

 だけど同時に不安でもある。

「ラミィ、しんどいなら無理して笑わなくていいから。付き合ってる身だし、なんでも言っていいよ」

 無理して笑顔を作っていることはバレバレだったようだ。

 素直に吐いたら楽だろうか。

「聞いて引いたり幻滅(げんめつ)したりしないですか?」

 そんな逃げの台詞を言っていた。

 はるの前ではあくまで他人ぶる。

 私は、仮面を被った人(ピエロ)だ。

 不安しかない今の私には、許して欲しい。

「もちろん。ボクが今なんで付き合ってるか、少し考えたらわかるよ」

「そうですか……? なんだろう」

「答えは、大好きだから。好きに上限はないし、それ以外に理由はないよ」

「っ」

『大好きだから』の強烈なセリフによって私の心にすとんと落ちたものがあった。

 あぁ、はるも、私も、お互いのことが大好きなんだな、と。

「私が考えてたこととして——」

 私は口を開いて今まで考えたことを話す。

「だから、少し怖いと言うか、なんというか……。ハルさんがそんなことをしないってわかってるのに」

 一回口を開いてしまったら、なかなか止まらない。

 自分でも、かなり考え込んでしまっているなとは思ったものの、しょうがない。

 ヘタレな自分はすぐに考えて、考えて、そのままで放置してしまう。

 最近、自分は我儘になっているが、まだまだ序の口だったみたいだ。

 まだ、思っていたことがたくさんあるみたいだ。

「……なので、やっぱり不安が拭えなくて。自分が自分を信用しなくてどうするよって話なんですけどね。ごめんなさい。こんなめんどくさい人で」

「ふーむ……」

 はるは話を割いたりせずに一語一句真面目に聴いてくれた。

 真剣に考えながら。

「ボクの回答。まず『ずっと付き合っていられるか』じゃない。『ずっと付き合えるように努力する』こと。世の中の人間も亜人も魔人も好き好んで別れたりしてる人は数少ない、というかほぼいないから。お互いずっと好きでいたいなら、それ相応の努力も必要だからね。努力の末に結婚できたりすることが多いし、結婚できても喧嘩だってするし、愛し合うことだってあるし。それはその時にならないとわからないよ」

 私の長かった悩みが簡潔に、詳しい回答がまとめられた。

 やっぱり、天才なんだなと思う。

「次、たとえボクのことを(した)ってくれて告白してくれたとしても、ボクはラミィ以外とは付き合わないよ。というか、ボクは自分で言うのもアレだけど一応英雄なので慕ってくれる人の方が多いと思う。その分告白もたくさんもらったけど、全部断ってきた。理由はなんとなくわかる?」

「ハルさんが相手のことを好きになれなかった、とか?」

「半分正解。もう半分は『権力や金目的』で告白してくる人が多かった。英雄として(まつ)られてる人と付き合えばもちろんそれなりに人目を集めるし中には「私、英雄と付き合えてるからお前ら私に(したが)え」みたいな人が出てくると思うから、そう言う人とは付き合えない。しかも告白の目的の九割九分九(りん)がそうだった。では、残りの一厘はだれか? それは、ラミィ、君だよ」

 ラミィ、と呼ばれて胸が跳ねた。

 突然私の名前が出てきたから驚いたのだ。

「ラミィは地位も金も権力も必要としなかった。ただ純粋にひとりの男の人として見てくれた。ボクはそこに惹かれた。粋な想いを()せてくれたことにボクは感謝してるんだよ?」

「…………」

 そんなこと、思ってもいなかった。

 たしかに、はると付き合えば金も権力も何もかもが手に入れられる。

 だけど、そんな不本意なことはしたくなかった。

 そんなことをしたら恥や負けだと思っていたから。

 人として。

 そして、そんなことは当然知っていた。

 同じゲームを共同体でやっていたのだから。

 でも、はるの周りははるの権力を握り潰したい人しかいなかったらしいことに驚いた。

 なんだか、自分の考えてることが規模が小さすぎてしょうもないことだと思えてきた。

「ほんで最後のなんだけど、その、キスできてないのはごめん……ボクの度胸が全然ないもので……。誰かと付き合うこと自体がレアだから……」

「…………」

 少し、驚いた。

 はるのことだから、十人以上の人と付き合ったことあるのかななんて勝手に思ってたらしい。

 なので。

「——」

「!?」

 少し、強行突破をする。

「ハルさんのはじめてのキスは私が奪っちゃいました。そして、私の初めてのキスもハルさんに奪われちゃったので、これでおあいこですね」

 無理矢理、キスをした。

 はるの驚いた顔が少し面白くて、顔が真っ赤になっているのがはっきりとわかる。

 はるは男の人なのに、いい匂いがして、唇は(つや)やかで柔らかくて、ほんとに女の子みたいで羨ましいけど、こう言う時はちゃんと男らしい一面も持っているちゃんとした男性なのだ。

「え、いま、え、キスした?」

「はい。ハルさんの唇って柔らかいんですね。羨ましいです」

「えぇ……」

 変なところに戸惑っているはるも可愛い。

「私、決めました。はるにとって最高の彼女になると。後悔なんてさせないので覚悟しておいてくださいね」

 はるは一瞬驚いた顔をしたが、口角を上げ、ニヤッと笑った。

「それはこっちのセリフだもん。一生離さないからね!」

「はい!」

 私の悩んでることは、案外しょうもないことだったのかもしれない。

 もっと自信をつけて生きていこうと思った。

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