〈06話:準決勝〉
迎えた準決勝。
対戦相手は何と、ウルフの村で一番最初に出会った「バンチョウ」さんだった。
「む? ハルさんじゃねえか。こんなところで出会うとはな」
「おろ? バンチョウさん? ほんとに奇遇だね。でも、コロッセオってなるなら」
「ああ、もちろん」
「「手は抜かねえ」」
両者の言いたいことが重なる。
相手がどんな人であろうと容赦はしないし手は抜かない。
それはどんな対局場面でもそうだった。
我武者羅にでも叩き続けた結果、勝ち続けてきた。
コロッセオで負けた人はダリエスぐらいだった。
ハルは無駄だ負けず嫌いだったため、ダリエスの行動パターンを瞬時に理解し、それを応用させた。
そして、勝つか負けるかのポーカーフェイスをしていた。
そしてダリエスとの勝敗率は五分五分。
百五十勝百五十敗だった。
そして、それはバンチョウにも適用される。
「ハルさんがいくら可愛くても手は抜かねえぞ? 泣いてべそかくなよ?」
「あは、ボクが誰だと思ってるんですか。賢者ですよ。負けるわけないでしょう」
「ふん。やってみないとわからんぞ」
「こっちのセリフですよ」
お互い火花を散らし、睨み合う。
「ファイッ!」
開始のゴングと共に両者が消えたような速度で駆け出す。
「ハアッ!」
バンチョウが剣を振りかざす。
「なに……!?」
バンチョウが驚いた理由。
「ふふん、この程度の剣撃じゃ、ボクの腕は切れないぞ?」
素の腕で剣を凌いでいた。
とはいえ、素の腕ではない。
防御魔法【壁】。
一番初歩的な防御魔法だが、レベルアップや魔法の精度が上がるとどんなものでもガードできてしまうほどのものだった。
「ふふん。せいっ!」
「ぐはっ!?」
ハルが繰り出したのはただの腹パン。
かなり手を抜いているらしいが、それでもかなりの威力だ。
「お腹がガラ空きだぞ〜?」
「くっ……。【限界突破】!」
「およ? もう使っちゃうの?」
エクストラスキル【限界突破】。
誰でも使えるが一度きり、一撃必殺の諸刃の術だ。
「ハルさんだろうと容赦はしない! くらえ! 【フレイムソード】!!!」
なんかアホっぽい名前だよね、とハルはいつも思う。
この攻撃はダメージを与えたものを必ず絶命させるという秘術。
ただし、それの欠点は——
「ほいっ」
一足分、隣にジャンプする。
「んなっ!?」
「じゃあ、がんばって」
スカッ。
——その場から基本的に動けないことと、避けることが容易であることだ。
そして、何よりも消耗するものが多いためか、その術を使ったものは疲労困憊で倒れてしまう。
そこへ一撃、極端言えばデコピンでも食らわせて仕舞えば返り討ちにできる。
「てい」
「いたっ」
そして。
「バタンキュー……」
「えへ、キミの能力はすぐ見透せちゃうからね。ボクの勝ち」
「勝者、ハル!」
ワアアアア!! と、大きな歓声が上がった。
そしてハルは決勝へのチケットを手に入れた。
そう、ダリエス以外誰も知らないハルの能力。
【瞬間能力鑑定】
コンマ一秒足らずで相手の全てのデータが見透かせるというチートのような能力だ。
鑑定できるのは主に技や必殺技、弱点、レベルなどを把握できてしまう。
ただし、思考は読めないので、あくまでも使う技を鑑定するものだ。
そして、この技を使えるのはハルのみ。
ダリエスはこの能略を知っているが使えない。
だからこそコンビになり、他の賢者を指揮していた。
「ふぅ……」
ハルは控え室に戻り、大きなフカフカのソファーに寝転がった。
疲れが今来たのか、強烈な眠気に襲われた。
「はるはいつもチートだよね」
「仕方ないよ、だって、はるだもん。彼はチート中のチート、いわば天才だからね」
「ん……?」
外で会話が聞こえる。
「この声は……葵とダリエス……?」
葵。
その人はハルが世界で一番愛していた女の子だ。
夢の中かもしれないのに、なぜかすごく鮮明に映し出されていて。
ラミィよりワントーン低い声で会話をする葵が続ける。
「はるはいつも無茶しても勝ちたいって思い続けるよねー。根性があるのはいいけど死なれたら困るのに。ここは現実なんだから」
——此れは現実だぞ。
それは、この世界に来るときに女神ことアクネートに言われた言葉だった。
しかし、そしたらなぜ、葵とダリエスこと充の声が聞こえるのだ?
疑問は深まるばかりだった。
◆◆◆
「…………」
気がつくと、そこは先ほどのコロッセオで使っていたソファだった。
完全に爆睡していたらしいが、夢の内容が気になって仕方がない。
ラミィに「あなたは葵ですか?」なんて聞いて違うとあっさり言われたら悲しすぎるし。
「……ラミィとデートして記憶から飛ばそう」
現実逃避しよう、そうしよう。
そう決意し、控え室から出る。
そしてラミィにDMを飛ばす。
『今どのへん?』
既読が一秒でつき、返事が返ってくる。
『チケット売り場の近くの飲み物販売店付近ですよ〜』
今ハルがいるのは北口。
ラミィの言っている販売店は東口だ。
かなりドームが大きいからかなりの移動距離だ。
「【瞬間移動】」
瞬間移動を使うことにした。
このワープは知っている場所と場所を結ぶもので、使える者はレベル五百以上と中級者向けの魔法だ。
「へいっ」
謎の声をだしワープから着地する。
「あ、ハルさん。さりげなく瞬間移動使ってくるあたりすごいですね」
ハルの声に気がついたラミィが声をかける。
「さりげなくっていうかこれが普通っていうか……」
瞬間移動に関しては遅刻寸前なときに大変役に立つ。
主に遅刻寸前だとか場所わかってるけど移動がめんどくさい時とか。
要は雑用魔法だったりする。
ただし、行ったことのない場所、もしくは片道百キロ以上離れている場所には行けないのが掟。
「とりあえず行こうか。お店閉まっちゃう」
「そんなに急がなくてもいいのに……」
ラミィの手を引っ張り、コロッセオを出る。
まず向かったのはアクセサリーショップ。
お揃い、もといペアルックのアクセサリーが欲しかったので色々吟味して探す。
「ふーむ……なにがいいかなぁ……」
「私はハルさんと同じであればなんだって嬉しいですよ?」
「『夕飯何でもいいよ?』みたいな解答だね、頑張って探そう」
そして結局買ったのはお揃いのイヤリング。
ピアスは開ける金額が高いためまた今度ということに。
「えへへ〜ハルさんとデート〜」
ラミィがご機嫌だ。
「よしよし、ボクはいつだってデートしますよ〜」
「そう言えば、明日決勝戦ですけど、誰と当たるとか予想はつくんですか?」
「まあ、多分ダリエスかなとは思うけど。主催とOPの二人がぶち当たるとか面白いよね」
「たしかに。でも私はハルさんを応援してます!」
胸の前で拳を作り、意気込むラミィさん。
何を意気込んでいるのかはわからない。
だけどとりあえずむっちゃかわいい。
「決勝……かぁ」
「? なにかあったんですか?」
「いや、昔のことを少し思い出しただけだよ。大丈夫」
「ならいいんですけど」
昔、ゲーム時代のコロッセオの決勝で出会った少女のこと。
泣きべそかいて彷徨ってしまいには泣き疲れて寝てしまった。
◆◆◆◆◆◆
ハルはコロッセオの決勝をしていた。
「【地割れ】」
「くっ……。ハルにはこれをお見舞いだね。【神剣】」
両者一歩も引かずにわんさか上級魔法や最上級魔法を打ちまくる。
「これでおしまいだ!【極大魔法:神の怒り】」
ドコォォォォという音と共にダリエスを吹き飛ばした。
「くっ……があああああ!」
「今回の優勝者は、ハル!」
大きな歓声と共にトロフィーが手渡される。
トロフィーには刻印がされていて大きく「ハル」と書かれていた。
「ダリエス、今回もボクの勝ち。えへへっ」
ニコニコ顔で国王に勝ったことを自慢する。
「くっ……。つ、次は負けないぞ!」
「うん! いつでも待ってる!」
お互いに握手を交え、周りから歓声がまたもらえる。
「葵ー! 勝ったよー! 褒めて褒めてー!」
「みてたよー。さすがはるだね」
「えへへへ」
小学生の妹のように甘えるハルとそれを褒めながら頭を撫でる葵。
まるで妹と姉のよう……。
「「「「「尊い……」」」」」
周りからはてぇてぇと言われ、ハルと葵はかなりの頻度で注目されていた。
「ねー、葵と充と***と***で打ち上げ行かない? 他の人はみんな研究に走るってさー」
「お、いいね。久々にファミレスとかいくか。サイゼでいい?」
「えー? 私はお肉食べたい」
「俺、味噌汁飲みたい」
「ハンバーグ……」
やんややんやと自分の食べたいものを述べていく賢者たち。
「間をとって和食屋とか?」
「「「「採用」」」」
秒で行き先が決まった。
みんな日本国民なのだなと思った。
癖の強いメンバーだった。
打ち上げに行く準備をウキウキでしていたら一人の少女を発見。
その少女は泣いていた。
迷わずに葵が駆けていく。
「どうしたの? 何かあったの?」
「おねーさんたち、誰ですか?」
「ボクたちは怪しい人じゃないよ。多分君のお母さんも知ってる英雄だよ」
「そうなんですか?」
「そうそう。賢者って言えば伝わるよ。それで、どうしたの? こんなところで泣いていたけど」
「賢者さん……。私は、失恋をしてしまったのです」
「そうなのか……。とりあえず、お名前は? なんて呼ばれたい?」
「『ミウ』でお願いします」
彼女の名は『ミウ』といい、エルフと人間の亜人間らしい。
要約するとこうだ。
片思いしていた男の子『ユウ』くんに振られてしまい、今ここで一人泣きじゃくっていたのだ。
ユウくんの特徴として、少し恥ずかしくなるとぶっきらぼうになるといういかにも男の子の反応をしがちだという。
そしてミウちゃんがユウくんに告白をしたが『嬉しくねーよ』と言ってしまい、おそらく心に傷を与えてしまったのだろう。
それを察したボクたちは告げる。
「ミウちゃん、たぶん、私的にはユウくんはミウちゃんのことが嫌いとかじゃないと思うよ?」
葵が答える。
続いてハルも答える。
「そうだね。年頃の男の子って少し気難しいから。口先では嬉しくないなんて言っても内心では嬉しいと思ってるよ。ニヤニヤしてるかもね」
「そうなんですか……?」
「うん。多分もうすぐくるんじゃないかな」
「(気配感知つかった?)」
「(うん)」
あっさりと理由をバラすと、本当にユウくんらしき声が聞こえてきた。
「おーい、ミウ〜〜〜っ」
「えっ!? ユウくん!? どうしてここが?」
「ミウを探しにきたんだよ。いつまで経っても帰ってこないからさ」
ユウくんとやらは坊主頭で一本だけ歯が抜けてるいかにも「野球少年」をかたどる姿だった。
「これって……」
「たぶん……そうだろうね」
ユウくんはもどかしそうに呟いた。
「さっきの言葉は撤回する。結婚してやるよ」
「ほんと……!?」
「ああ。ただし、おれらがオトナになってからだぞ!」
「うん!」
ものすごい勢いで解決していった話にポカンとした口をする二人。
「おねえさんのいうことそのままでした! ありがとうございます!」
「解決できてよかったね。お幸せに」
「はい!」
その笑顔が何よりもの褒美になった。
その時、葵の顔が少し曇ったような気がした。
「葵? どうかした?」
「あ、ううん。少し考え事を」
「そっか。何かあれば言ってね」
「うん。じゃあ、今言っちゃおうかな」
「およ。なんだろ」
葵は少し顔を赤らめてその言葉を口にする。
「私たちも成人年齢に達したら——結婚しよっか」
「——っ」
結婚したいと彼女に言われ嫌な人はあまりいないはずだ。
はるもそれは例外ではなく。
「も、もう。葵ったら。そんなこと言っちゃって」
そんなこと言いながら尻尾ふりふり。耳はぴょこぴょこ。
「本音は?」
「大変嬉しいです……」
「よかった。じゃあ、約束だからね」
「うん!」
約束を結び、打ち上げに参加する。
——あの約束は、まだ果たされていない。