〈03話:マイホーム〉
ラミィさんに勧められてマシュマロの村という、いかにも甘そうな名前の村に行くことになりました。
(たしか、ウルフの村が最西端にあるからそうすると北側かな……? 北は確か何もなかったはず……)
「ハルさん?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」
「気になることがあればなんでも聞いてくださいね?」
「うん。ありがとう」
にぱー、と軽やかに笑う。
「じゃあ、行こうか」
そう言って村に向かって歩き始める。
ついでにラミィさんとはぐれないように手を繋ぎながら。
「あぅ……」
ラミィさんが照れてる。
かわいい。
道中では魔物に襲われるようなこともなく安全に村に向かうことができた。
ただ、魔物みたいな動物が多々おり、紛らわしかったのは記憶に深い。
そして道中こんな会話もしていた。
「ハルさんって、彼女とかいないんですか?」
「ブッ」
ラミィがそんな質問をするのは珍しいようなそうでもないような。
知り合ってからまだ全然時間が経ってないのにも関わらず、そんな質問をするということは……? と思ったがそんなわけないか。
だが。
「ち、ちちちちちち違うんですよ!? ただ、単純に気になっただけでそんな、ハルさんの彼女になりたいとか、そんなことはいいいいい一ミリも思ってないですよ!?」
聞いてもないのに恋愛について否定し始めた。
わかりやすいなぁ。
そして「地球」にいた時の一人の少女を思い出した。
——田辺葵。
その名前はボクの彼女だった。
今のラミィみたいに感情がかなりわかりやすく、単純で、でもちゃんと優しくて。
そんか彼女は今、どこにいて、何をしているのだろう。
突然ボクが消えて流石に淋しがっているだろう。
でも、ボクはもう地球には戻れない。
家は燃え尽き、死んでしまったから。
そして女神ことアクネートさんに言われた。
——『これはゲームではないぞ』と。
ウルフの街を出て北に二時間歩いたところにマシュマロの村があった。
良くも悪くもシンプルでこの世界では珍しい「空港」がある。
門を潜ったところに小さな村がひっそりと佇んでおり、人の様子はまばらだ。
ここにいる人の多い印象としては、みんな体格が大きいことだ。
男女性関わらず、がっちりとした体つきをしており、自給自足をしているのが目の当たりにできる。
のちに聞いた話だが、この《マシュマロの村》はボクが知らない間に増設された村で、閑散としており、緑も多く、交通には十分のものがあると最近話題になり移住者が増えているとのことだ。
現在は人口が二千人程度と比較的少ないが、村長は五年以内には人口が一万を超える予測らしい。
建物の値段も今が一番低く、買い時とのことだ。
レアなタイミングで紹介してくれたラミィには感謝の賜物だ。
移動手段は今のところは馬車と飛行機、人によっては車での移動となることが多々。
北の国で唯一空港があると話題になり、貴族たちも移り住み始めている。
門をくぐり、少し通りを歩いたところに如何にも「ダンディ」という言葉がお似合いの男性が声をかけてきた。
「よお、ラミィちゃん。今日も商売かい?」
「こんにちは、エドワードさん。今日はこの方にこの村に移住したらいかがだろうと、勧めてきました」
この男性の名はエドワードというらしい。ステータス的には普通の農民、と言ったところか。
趣味は筋トレ、好きなことは寝ることと読書という普通の人っぽさが溢れている。
ただ違うのは魔力が他の人間より少し多いことだ。
ラミィとエドワードは商売仲間として活動しているらしい。
だが今日は内容が違う。
ラミィが家を紹介してくれるのだ。
たぶん。
「ほう、それはそれは。この方はもしかして彼氏かい?」
彼氏、という単語を聞いてラミィは顔を熟れたりんごのように赤くした。
「ち、ちちちちちがいます!!! そりゃ、彼氏になれたら嬉しいですけど、英雄ですよ? 無理ですよ?!」
なんか、めっちゃ早口で喋るぐらい焦ってるラミィさんが新鮮で珍しい。
とくに意味はないが、追撃してる。
どんな反応をするのだろうか。
「もしかして、ボクと付き合いたいの? ラミィ」
それを聞いてエドワードさんは乾いた大きな笑いをする。
逆にラミィはもっと顔を赤くする。
「えと……えと……その……は、はい……」
尻すぼみになって返事をする。
でも否定はしないらしい。
年頃の女の子ってかわいいね。
「と、とりあえずその話はあとで!! エドワードさん、何かいい物件ないですか」
ラミィさん、仕切り直しの速さが尋常じゃねえ。
「ふーん、そうだな。俺は不動産屋じゃねえからなんとも言えねえけど、閑散ところがいいならこの辺の住宅街、交通便をとるなら空港の近くとかじゃないか?」
「なるほど……。ハルさんは、どっちがいいですか?」
「うーん、ボクは結構移動が多いからなあ」
「なら空港の近くがいいでしょうかね。とりあえず不動産屋さんに行きましょう」
「そーしよう」
そう言って不動産屋に行く。
その間もしっかり手を繋いでいたのだが、ラミィさんの手を握る力が強くなった気がするのは気のせいだろうか。
♡
不動産屋曰く、空港はこの世界では二番目に大きく、しょっちゅう航空機や輸送機がくるらしい。
世界有数の富豪なら空港やターミナルの中に家を作ってもらうらしい。
大体一部屋金貨百枚程度。
一軒家程度の大きさだと金貨千枚必要になるとか。
でも、対して空港に重要性は感じないが、全く必要じゃないと言われれば嘘になる。
なので、空港に近すぎず遠すぎずの空き地に家を建てることにした。
「一軒家で大きめの家がいいです。金額は気にしなくていいです」
そう伝えたところ、金貨二百枚程度で5LDKK程度の大きさの家が建てられると言われ、建てることにした。
「完成はだいたい一週間後。それまでは宿に言って宿代タダにしてもらうよ」
「おぉー。ありがとうございます」
不動屋さんの至れり尽くせりに感動した。
笑顔にぱー、尻尾ふりふり。
「「かわいい……」」
不動産屋とラミィからもかわいいと頂戴しました。
会計が済むと、ラミィが言った。
「ハルさん、この後どうしますか? 私は特に予定もないので暇なんですけど、魔法の特訓をしたいです」
「んー、そうだね。じゃあ一回王都に行こうか。そろそろフェスが始まる時期だし」
王都のフェス。別名コロッセオ。
それは魔法や武器を使って相手と一対一で戦う、いわゆる格闘競技だった。
リーグ戦で戦い、優勝者には王からの願い事を聞いてもらえる、というものだった。
そのせいか参加者は述べ数百〜数千人と大規模だった。
そしてコロッセオの特徴として相手を倒せれば魔法、武術、飛び道具など、どんなものを使用してもいいと言うのが強かった。
ただ、昔にどんなものを使用してもいいと書かれたものを悪ふざけし、死者を出すものもいた。
そのものは一度勧告が出され、それでも改善しない場合は永久的なログインが不可能になる、いわゆる「垢BAN」状態になる。
過去に永久ログイン不可状態になったプレイヤーは幾度となくいた。
その人たちの特徴はとにかくプレイ姿が荒いことと口や態度が悪いこと。
稀にしか怒らない王都の国王も怒るほどタチの悪いプレイをしていたものもいた。
そのものに対し、国王『ダリエス』は被害者への損害賠償と制作会社への通報、制作会社はダリエスを介しそのプレイヤーへ警察に被害届を出す、などありとあらゆる武力を駆使し、害悪プレイヤーを潰していった。
その「キレるとガチ怖」な国王は国民、いや、全世界の人間、亜人間から絶大な支持を得ていた。
それでも彼は喜ばず、真剣にプレイヤーへ接していた。
その真面目さが評価され、制作会社から「全ての設定変更」と「特殊な読み書きを可能」などのいわば「フルコントロール権」を彼や当時の賢者たちに授けた。
そんな人間性でも完璧な国王兼賢者仲間の元へ一旦帰ろうとしていた。
「とりあえず王都に行くには飛行機が早いかな。 ラミィ、準備したら行くよ」
「は、はい!」
準備に待機していたこと五分。
メッセージボックスなどを見ていると。
「できました!」
「はやっ」
「着替えと魔法杖ぐらいしか持ち物ないですし」
「なるほど?」
そんな感じで駄弁りながら空港に向かう。
ちなみにメッセージの九割が女性からのアプローチという名の特攻だった。
ボクは何もしてないのに謎に「好きです!」だの「付き合ってください!」だの「何色のパンツ履いてるんですか?」だのメッセージがいつもくる。
……いや最後のは間違いなくセクハラでしょ。
……ボクが好きな女性、か。
今はそれはいいとして。
王都行きのチケットを発行して待機場で飛行機を待つ。
「飛行機ってやっぱ高いですね……。一人金貨十枚は洒落にならないです」
「移動費は全部僕が出してあげるから心配しなくていいよ」
「そ、それってまるで、で、デート……」
フェス兼デートとして捉えてるラミィ。
デートの意味はかねてなかったのだが可愛いからそう言うことにしておこう。
時間は十二時。
飛行機がタキシングしてこちらにやってくる。
「あっ! ハルさん! 来ましたよ!」
人生初の飛行機だというラミィさん。
めちゃめちゃにはしゃいでいる姿がかわいいね。
「早く乗りましょう!」
「そんなに慌てなくても逃げたりしないよ」
早く乗りたくてしょうがないラミィさんが少し子供っぽく、それと同時に懐かしさを「また」感じた。
……葵は、ボクがここにいるっていう連絡手段を手に入れたらどんな反応をするのだろうか。
喜ぶのかな、こっちに来るのかな、それとも怒るのかな。
わからない。
だけど、一刻も早く、葵に会いたい。
世界で一番愛しき彼女に。
……でも、不思議とラミィはNPCのはずなのに葵みたいな懐かしさを感じる。
嗚呼、早く逢いたい。
ラミィを窓席に乗せ、フルパワーでエンジンが動き始め、離陸すると、ラミィは盛大に歓声をあげた。
とりあえず今は、王都にもどり、かつての賢者仲間であるダリエスに会いに行くとしよう。