〈02話:天性と転生〉
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ゲーム当初に見覚えのあるローディングの後、カッと閃光が走った。
「……!!」
目を塞ぎ、一瞬のうちに気を失った。
そして、気がついた時には木の元で横たわっていた。
起き上がり、周りを確認する。
青く澄み渡った空。
緑色に生い茂った草木。
視線の先に見える覚えのある街並み。
ブワッと風がなびいて体感できた。
「異世界だ……!! ボクはゲームの世界に転生できた……! やった!」
異世界に移ることができたようだ。
あの女神の話は本当らしい。
「おっと、いけない。興奮しすぎちゃった。ステータスは……」
手を振りかざしてステータス画面をつける。
ステータス画面はつくようで安心した。
「職業【賢者】……アイテム欄はゲームでやってた頃と同じだね」
魔力やヒットポイント、脚力などのステータスは上限値を超えていて、そこはゲームと同じだと思った。
「……この【クリエイター】ってなんだ……?」
ゲームでやっていた頃には見覚えのない【クリエイター】という能力。
その文字をタップしてみると説明文が出てきた。
《クリエイター:自分が思うような道具を開発できる能力。レベルが上がるごとに開発できる大きさや機能性が向上する。使用の仕方は作りたいものを想像することと材料を揃えること》
「ふむふむ……。物は試しだ。横に木があるから切ってみるか」
そう思い所持していた斧で木を狩る。
[所持品:オークの木+150個]
木を切り、オークの木をホールド、選択状態にしたらレシピが大量に出てきた。
「わ、けっこう作れる物多いね。スコップから家、わ、戦闘機なんて作れるんだ……。ただ材料が足りなすぎるね……」
そんな感じで一人ぼやいていると、気になる物を発見。
「……! 綿棒とかも作れるんだ。じゃあ、【クリエイト】!」
そう言って目の前に出てきたのは木製の現実世界でもよく見た形の木製耳かき。
[所持品:木製の耳かき+1個。やすりがけをしないと耳が怪我をする恐れあり]
「やすりも必要なのか……」
やすりの材料がこの辺にないぞ、などと悩みの種が増えた。
この世界、材料や物を作る工程が割と現実世界と似ている。
「とりあえず街に行こう。そしたらヒントがもらえるかもしれない」
そう言ってトゲトゲした耳かきを鞄にしまい、街へ向かう。
街まではそこまで遠くなかった。
〈ウルフの街〉
門はどっしりと石レンガでできていて、とてもではないが堅そうにしか見えない。
「お嬢さん、この街になんか用かい? 見慣れない顔だが」
門番の人が声をかけてくれた。
筋肉質でいて強い騎士というオーラが隠しきれなかった。
「あ、はい! この街に初めてきたんですけど、この街にはどうやって入ればいいんですかね」
「それには通行証か許可証が必要だな。と言っても、通行証は質問を正しく答えるだけだからそんな気難しく考えなくていいぜ」
「わかりました。じゃあお願いします」
質問という肩書きをした面接が必要らしい。
すると、魔石らしき物を出してきた。
「まず。性別は?」
「男です」
「えっ!?」
(やっぱそういう反応だよね……)
「こんなに可愛いのにか!? そいつは失礼したぜ。嘘発見器も反応しないしな。じゃあ次。年齢は?」
「十八歳です」
「ふむ。次、職業は?」
「元勇者でした。今は勇者の道はあんまり考えてないです」
「すげえな……。全部本物らしい。はいよ、許可証だ。それは仮のものだから今日中に上のギルドに行って通行証に変えてもらいな。そしたらそれを提示するだけで通れるようになる」
「はい。ありがとうございます」
嘘はついていない。
ただ真実を言っただけだ。
「さて……。とりあえずいらない道具がたくさんあるから売っちゃいたい。特に魔法瓶系。っとその前にギルドに行かなきゃね」
ギルドはどこだ、と迷っていると、一人の少女が話しかけにきてくれた。
「そこのお嬢さん、何かお困りかな?」
ぱっと見はとても明るそうで元気そうという感じの子。
茶色のボブヘアに上はかなりゆるい服に下はレーススカートという服装。
看板娘なのだろうか。
「あ、はい! あとボクは男です」
「えぇーっ! まあいいや、どこに行きたいの?」
「えと、まずギルドに行きたいのと、次は魔法瓶を売れるところに。ここにきたの初めてで」
「なるほど! 私、魔法道具扱ってる店だから着いてきなよ! ついでに私もギルドに用あったし、一緒に行こうか」
「はい!」
そんな感じで元気で金髪ながら小柄の女の子と一緒にギルドに向かうことに。
「私、『ラミネス』! ラミィとか呼んで! あなたは?」
「ボクは『ハル』です」
「そっかそっか、可愛い名前だね。あなたはどこからきたの? 職業は?」
ラミィによるマシンガントーク炸裂。コミュ力お化けというものか。
そのコミュ力くれないかな。
「ぼ、ボクはずっと遠いところから来ました。職業は元勇者です」
「遠いところというと〈ハスク〉とかの方かな、あっちは私たちにはよほど行ける場所じゃないからねー」
「はい、そんな感じです。ちょっと世界旅をしてて。たまたま立ち寄ってみたんです」
「いいねえ。元勇者ってことはステータスは強いのかな。レベルいくつぐらい?」
ラミィさん、質問が止まらない。
「えと、レベルは千です。ステータスはそれぞれ上限値超えてます」
「本当に強いね。そんなステータスの人世界に数人しかいないよ?」
「あはは……」
ほんとはその数人の中の一人だが、気がつくまで黙っておく。
(……なんか、『ラミネス』と言う名に既視感が……)
過去にラミネスというと誰か賢者にいた気がしたが、気のせいかもしれない。
曖昧な記憶だった。
「こんなにかわいくてケモ耳とかもふわふわしてるのに有名になるは……ず……?」
「ん?」
ラミィさん、何か異変に気がつく。
流石に気がつくか?
「もしかして、あの『ハル』さん? 魔王を討伐して人類を超えた最強の人の『戌乃瀬 はる』さん!?」
「あ、お気づきですか」
「この見た目とそのステータスは思い当たる人が一人しかいないです!!」
正体がバレてしまった。
「わ、すごい! 本物だぁ! 私の憧れだったんです!!」
「あ、ちょ、ラミィさん、声が大きい……!」
「あ、ごめんなさい……」
「はる」という単語を聞いて「なんだなんだ」とか「え、まじ?」と言った声が聞こえてくる。
「と、とりあえず捕まってて! 【雷速】!」
「わああああぁぁぁぁ……」
雷速という単語と共にドン、という音が地に響き、ハルとラミィの姿は消えた。
☆
逃げた先には立派な建物が待ち構えていた。
「こ、ここまで来れば平気かな……」
「ご、ごめんなさい……とりみだしちゃって」
「いやいや、しょうがないよ。最初に憧れって言われた時はボクもびっくりしたけどね。にしてもこの建物は大きいね」
とりあえず真っ直ぐに2キロほど逃げたらその建物を中心に街が広がっているように見える。
「あぁ、ここがギルドです。許可証を通行証に変えましょう」
逃げている間に許可証を変えないといけないことを話しておいた。
「はーい」
そう言って建物内に入る。
周りには沢山の勇者たちがいた。
レベル五からレベル七百五十程度まで。
ステータスを確認し、広いギルドなんだなと理解した。
「ハルさーん! こっちこっち!」
手招きされてついて行った先はショッピングモールなどにいそうな女性だった。
「通行証の発行ですね、許可証をお願いします」
そう言って許可証を手渡す。
「えーと……はるさん。元伝説の勇者……はい。ありがとうございます。こちらが通行証です」
何事もなく通行証が手に入った。
振り返っても何事もないようにザワザワとしている。
賑やかで楽しい街なのだろうと誰でもわかる。
「楽しい街だね」
「そうですね。私はこの街に来てよかったです」
「じゃあ、次はラミィのお店で魔法瓶を買い取ってもらおうかな」
「はい! 案内しますね」
そう言って手を引っ張ってきた。
これが青春漫画だと今青春を謳歌している真っ只中だろうなと感じた。
☆
ラミィの店はギルドからさほど遠くなかった。
店の中にはポーションや魔法草をそれをすり潰す石器などいかにも「魔法取扱店」というオーラが出ていた。
「それで、買い取りはどちらに?」
「ああ、ちょっと待っててね」
ステータスから大量のポーションを取り出す。
体力回復のポーションから魔力回復、体力アップなど、どれも市場ではかなりの金額がするものだ。
それでいて、どのポーションも最高品質なので、八百レベル以下の人が回復ポーションを飲んでも一瞬で全回復してしまう代物だ。
「とりあえずこんなものかな。まだ倉庫に沢山あるけど置く場所がない……」
苦笑いしながら置ける場所に所狭しとポーションを置く。
机にはもう置けるスペースがなく、ぎっちりと置かれている。
ちなみにラミィさんは驚きすぎてフリーズ中。
「もっと沢山あるけどこんなものかな。どのぐらいの値段になりそう?」
「……ハッ。ここここここんないいものはこんなちっぽけな店で売るよりギルドで売った方がいいですよ! もったいないですし私が払える額じゃないです!!!」
なぜかそう勢いよく話すラミィさんにはるは困惑してた。
「そ、そう……? 僕はここがいいと思ったんだけどな……」
「ああぁぁ、そんな捨てられた子犬みたいな顔されたらできないこともやりたくなっちゃう!! わかりました! ギルドと相談してきます!」
「ほんと? やったぁ」
ちょっと待ってて!! と叫んでギルドに戻って行ったラミィさん。慌てていたようだけど転んだりしてないだろうか。
数分して、ラミィさんが息を切らして帰ってきた。
「ただいま!!ゼー、 ギルドの人もいるからゼー、その人とゼー、話してくださいゼー」
「大丈夫? 膝枕する?」
「あなたのせいですよ……」
そんな感じで、ギルドの人と話すこととなった。
ギルドの人ももちろん驚いた目をしている。
「こんなに大量かつ最高品質の数のポーション……見たことがない……。これは驚かされたね。ハルくん。さっきぶりじゃないか」
「門番の人! こんにちわー」
笑顔で挨拶をすると「可愛すぎるっ」と独り言を呟いていた。
ちなみにラミィさんはちゃんと膝枕されてます。
「ああ、こんにちわ。それでね、鑑定士を連れてきたんだ。せっかくならちゃんと見てもらいたくてね。買い取りはこちらで行う。売上はそちらでやってもらって構わない」
「どんな結果になるかな」
そんな感じで、鑑定が始まった。
目の前の鑑定士はかなりの年老いた老女だ。
心なしかラミィに似ている気がする。
「じゃあ、鑑定お願いします。値段とかはあんまり気にしてないので」
「はいよ」
そう言って、沈黙の時間になる。
すると、ラミィがこそこそ話しで話しかけにくる。
「(あのお婆ちゃん、私の祖母なのよ)」
「(えっ!? それはしらなかった)」
「(まぁ、初めて言うし。よかったら仲良くしてね)」
「(ぜひっ!)」
しばらくお婆さんが吟味して、口を開いた。
「これはこれは……。大層な物だね。こんなもの、どこで?」
「えぇっと……。少し前まで勇者やってて、その仲間にこのポーションをつくれる子がいたんですよ」
「なんと! ぜひその子に会ってみたい物だね」
「今はちょっと消息がわからないので連れてこれませんけど……」
「いいんだよ。その情報を得られただけでも収穫だから。バンチョウさん、いくらになりそうだい?」
「そうですね……一概には計算しないとなんとも……ですが、目算だけだと金貨十万枚ほどかと」
「き、金貨十万枚!?」
「おぉ……」
金貨は、この世界で一番上の通貨、いわば一万円札みたいな物だ。
それが十万枚だと十億円程度の額だ。
「あぁ、それと、これはどのくらいですかね。一つしか持ってないんですけど、僕には合わないみたいで」
そう言ってハーブグリーン色のポーションを取り出す。
このポーションは自分の能力全てのスロットルを全開にする、いわば極限状態にするような物だ。
もとから極限状態なので、効果がないのと同じだ。
「なんと!? 世界に三つしかないと言われてる幻のポーションだと!? これは私が欲しい。いくらで売ってくれるかね」
「その子に聞いてみないとわからないですね。結構頑張って作ってたので」
「じゃあ、その子に出会えたら教えてくれ。これはたくさん作りたい」
「わかりました」
そう言って幻のポーションをしまう。
使い道がないので金庫に預ける。
「あ、そうだ。やすりってこの辺にありますか?」
急に思い出した話題を振る。
「やすりなら一枚持ってるし使わないからあげることもできるが」
「ならください、ちょっと試したいものがあるので」
「ほう。ならどうぞ」
「ありがとうございます」
そう言って「#240」と書かれたやすりをもらう。
そして先ほどの耳かきを選択し、やすりがけをタップ。
[安全で綺麗な木の耳かき+1]
「よし、できた!」
「何を作ったの?」
ラミィがにゅっと顔をだして聞き込んできた。
耳かきを作った経緯を説明した。
「なるほど……」
「あ、せっかくなら僕の耳かきを試してみる? 癒すことは勉強してたから安心して」
「そうしたいけど他の人もおばあちゃんもいるし人気のないところがいいです」
おっしゃる通りです。
なので、場所を移すことにした。
ラミィが毎日行くという人気が少なく、噴水もあるまったりとした公園だ。
休みになると子供連れやお年寄りが増えるがのどかで良いところだ。
「わ、わたしは何をすればいいですかね……」
緊張気味のラミィさん。
かわいい。
「横になってくれればいいよ。痛かったりしたら言ってね」
「は、はい」
そう言って耳かきで耳かきを始める。
尻尾を顔に当ててリラックスしてもらう。
まずは耳の溝のところから。
耳の周辺の垢をとってあげて軽くツボを押す。
「ほわあああああああああ」
なんかおばあちゃんボイス……。
などと思っていたが、心地がよさそうなのでよかった。
次は耳の中。
この世界には耳を掃除する習性がないのか、耳垢がたくさん出てきた。
ついでに耳たぶを揉んでマッサージしてあげる。
耳たぶが温かくなってきた。
血行が良くなってる証拠だ。
「はんたい〜。ごろ〜ん」
反対向きに寝転ばせて、先ほどと同じことをする。
ちなみに先ほどから意識がない。
「すぅ……すぅ……」
「ふふ、かわいい」
顔を覗き込むと、ラミィが寝ているのがわかる。
人の寝顔を見ることにはなれているが、ラミィだと可愛さがいっそう増える気がする。
頭を軽く撫でてあげると、ラミィがふにゃりと笑いながら寝ている。
♡
時刻は夕方。
およそ午後五時を回ったところか。
「ん……」
目を覚ます。
ラミィを撫でてそのまま自分も釣られて寝てしまったようだ。
「ラミィ、夕方だよ。かえろ」
「ん……。ん?」
「ん?」
何か異変に気がついたラミィはハッと目を見開くとガバッと起きた。
そして頭同士をぶつけた。
ガンッといい音を奏でた。
ヒリヒリするおでこを抑えながらラミィは言う。
「ち、ちちちちち違うんです! これは、なんというかその……」
「僕も一緒になって寝ちゃってたし、おあいこだと思うんだけど」
「う……」
ラミィにマッサージや耳かきしたことを説明する。
「そういえば、耳がすっきりしたような」
「そう? ならよかった。寝顔可愛かったよ」
「ううううぅぅぅぅぅ…………」
真っ赤になって丸まってしまった。
この子をいじめたら可愛い反応が得れると勉強になりました。
人+人+時間=友情、もしくはそれ以上の価値
街に帰ったら、たくさんの人に囲まれました。
「ハルさんだろ? 俺、昔からファンなんだ。よかったら、うちのギルドに入ってくれないか?」
「いや、私こそ昔からよ」
「いやいや、俺こそ」
「な、なんだ?」
悪い人たちじゃなさそうだが、とても多くて疲れる。
しかも大半がギルドの勧誘。
この世界のギルドに入れる数は一つのみ。
はるは今昔からあるギルドに入っていて、それを抜けるつもりはない。
「ハルさんって、やっぱり人気者なんですね」
「まぁ、英雄譚として祀られてるぐらいだからね。今のところ入るつもりはないよ」
軽く微笑むと、ラミィさんが顔を赤くした。
周りからは「かわいい……」などの言葉を頂戴する。
「でも、やっぱり、油断はできない……」
ボソッと何か聞こえたが、はっきりは聞こえない。
「ん?」
「あ、なんでもないです」
気になる。
気になるけど詳しくは聞けない。
「あ、ひとつ気になるんですけど、冒険者やらないならどこかに家を持つって言うのはどうですか? この辺だと〈マシュマロの村〉っていうちっちゃくて小ぢんまりした村があるんですけど、どうですか?」
「ふむ……」
マシュマロの村なんていかにも美味しそうな名前だった。
どんな感じなんだろう。
家がマシュマロでできてたりするのかな。
「気になるからとりあえず行ってみようか」
「はい!」
そんな感じで、村探しが始まった。
目指すは〈マシュマロの村〉。
どんな人たちがいるのだろうか。
能力解説
〈クラフト:そのまま。読んで字の如く。物を作る〉
〈雷速:瞬間的な加速と速度を誇る脚力の一種。逃げるには最適〉