〈01話:ここ、どこ?〉
日本。神奈川県藤沢市にある一家。親が旅行に行く前の会話が繰り広げられている。
「それじゃあ、お母さんたちは行ってくるからね。変な人とかきたら「親いないからわからない」って言うんだよ!」
「わかってるよお母さん。僕もう今年で18だよ?」
「それでも心配だから念押ししてるの! こんな可愛い顔してるんだし」
「えぇ……」
その少年は、女の子みたいな顔つきをしている。
一言で言えば「男の娘」だろう。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
母たちが出かける姿を見て、彼は少しウキウキした顔になる。
(今日は誰にも邪魔されない! たくさん遊ぶぞ!)
駆け上がるように二階の自室に戻り、パソコンにインストールしているゲームを開く。
「今日アップデートで新機能がたくさん追加されたから楽しみだなぁ」
そのゲームは、RVO。いわゆるVR異世界ゲーム。
自分のアバターを作り、農家や魔法使い、戦士や調合師などになって自分を操作するゲームだ。
そのゲームのプレイヤー数は大雑把に数えても一億人以上。
現実世界の七分の一以上がプレイしているほど人気なゲームだ。
その少年はケモ耳とケモ尻尾をつけたケモっ子を操作し、魔法や物理的な能力を育てていた。
既に魔法のステータスは上限値、殴る力、蹴る力と解釈する『ステータス』は全て上限値となり、名前の横の称号は【賢者】となっていた。
賢者はこのゲームのベータ版をプレイしていた人、なおかつ特定のチームを組み、特定のボスを全て倒すことでその称号を得た。
いわば、「完全オープン前のゲームを完全攻略した人達」と読んでも可笑しくは無い。
「今日は、魔王幹部でも倒しに行こうかな」
ウキウキ顔でコントローラーを操作し、ダンジョンを突破後、魔王幹部を討伐。気がついた時には既に夕方になっていた。
「ん……。もう夕方かー。遊びすぎたかな」
すると、コンセントから異常な焦臭さと熱を感じれた。
(このままは燃える!)
そう思ったが時既に遅し。プラグから発火し一体が一瞬で燃え広がった。
(あ、やばい……。これは死ぬ……)
気がついた時には気を失っていた。
100%Now Loading…
「…………」
覚醒し始めると、そこは家ではないどこかだった。
「やあ、目が覚めたかい?」
女性の声。大人びていて、少し声が高くて、落ち着いていて。
おそるおそる目を開けて周りを確認すると人の形をした、ただし人間には絶対につかない「ケモ耳」がついている人を確認できた。
「……ここはどこですか? それにあなたは?」
天井は薄青白く壁など存在しないはずなのにモニターらしきものがいくつか貼られている。
研究室なのだろうか。
そこで雑魚寝の状態で、先ほどまでの私服で佇んでいる自分がいた。
床はダークブルー色のタイルと青白い線が交互に交わっている。
いかにも「近未来」という研究室らしき部屋に来るということは……。
「僕は『女神』だよ。君は地球で火事で死んじゃったからね。可哀想だったからこっちに呼んじゃった。そしてここは僕の部屋みたいなものだよ。地球での死者を無作為に選んで連れ出し、特別な能力を渡して異世界へ転送する仕事」
「なるほど……」
「それと、あっちの世界でもとある職業に就いているんだけどね」
「ふむふむ……」
どうやら、僕は死んでしまってかの有名な異世界転生したことに間違いはなさそうだ。
あっちの世界というのも気になるし。
不思議な点が盛りだくさんだ。
さて、どうしよう。
「「さて、どうしよう」とか考えてるでしょ」
「えっ」
「顔に書いてあるよ。まあ僕の仕事はあと一つだけ。君に何かしらの能力やモノを与えて異世界に引き渡すこと。さて、なにが欲しいか言うてみ」
「僕特に欲しいものはないです」
「ええー?」
「今の自分に満足してるから。体も健康だし視覚的や動格的に問題もない。頭はへっぽこだけど、努力すればなんとでもなる」
いまのありのままを告げると女神は不満そうに口を尖らせる。
「それじゃつまらないぞ」と言わんばかりの顔をしている。
「あ、なら。地球でやっていたゲームの続きがしたいです」
「あのゲーム一番好んでプレイしてたもんね。あとは動物を飼育するゲームとか音楽ゲームとか」
どこで聞いたのか、ボクがプレイしていたゲームの内容も把握されていた。
「はい。あのゲームが一番好きでした。だから、また続きがやりたいです」
「じゃあ、ならさ」
急に女神がもじもじし出した。何か企んでることだけはわかる。怖い。
「そのゲームの世界があるんだけど、僕と一緒に行かない?」
「え?」
「聞こえてなかった?」
「いや、そうじゃなく……」
「じゃあ何か不満でも? あの世界で僕は政治界で一番えらい立場の人なんだよ」
「あ、もしかして『アクネート』さんですか?」
「そうそう。よく覚えてるね」
何百時間もやり込んだのだ。キャラの名前など全て覚えている。
「じゃあ、一緒に行きましょう。早く続きがやりたいです」
「そんな焦らなくても。ケモっ娘のプレイヤーだったね。ケモ耳とケモ尻尾をつけてあげよう」
「わあい」
女神、別名アクネートから光が発せられ、それを僕に被せると、キャラで使っていた青色の髪、青色の耳と尻尾、右が赤色、左が緑色のオッドアイのキャラに変わった。
一番の理想キャラとして作ったものだったが、まさか自分が使うことになるなんて。
「じゃあ、行こうか。あっちの世界では時計とかはないから自由に作っていいよ」
「はい! 楽しむぞー!」
白色の光を発した円形の魔法陣に飛び入る。
その魔法陣の先にはどんな色の世界が待っているのか。
楽しみだ。
最後に、アクネートが脳内に直接伝言を伝えてきた。
——『これは「ゲーム」ではないぞ』