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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃色果実と闇の主従 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 あ、また飼い犬探してますの張り紙。ここのところ、多いと思わない?

 どんなきっかけかわからないけれど、手元に置いていた子が突然いなくなっちゃうのって、主人としては気が気じゃないわよね。ひょっとして、嫌われていたんじゃないかと思うかもしれないし。

 けれど、それは飼われる側も同じ。もしかしたら主人に気に入られていないんじゃないかと思ったら、何をしでかすかわからない。

 主従関係って大切よねえ。


――いったい、なんの話をしているのかって?


 自分が握れる分の手綱にしておかないと、何が起きちゃうか分からないってことよ。

 ひとつ、私の主従……といえるかわからない話、聞いてみない?



 桃色果実は明るみ果実。無くばお闇がかえり来―ん、と。

 この文句、聞いたことがあるかしら? 私が昔に聞いた、おまじないの合言葉なの。

 当時、私のまわりにはネコを飼っている人が多くて、自分も飼いたいと、親に談判して断られたばかり。

 ファッションペットよ。命を世話するより、みんなと同じであることを願って飼う。

 母さんはそんな娘の軽い内心を、見抜いていたのかもしれないわ。


 ――たとえ生き物でなくても、何かを飼ってみたい。


 断られた不満は、いびつに形を変えて私の中にふくらんでいく。


 そのおり、あの文句を用いるおまじないのことを聞いたの。

 話してくれた子は、学校にこっそりお菓子を持ってきて、他の女子に頻繁に分けてくれる人。なんだかんだ、餌付けの効果は大きくほとんどの女子は彼女のお菓子を口にすれば機嫌がよくなる。

 私ももらえるものはもらうタイプだけど、何度も口にするうちに疑問に思ったの。

 彼女の持ってくるお菓子、子供が分け合うには高級すぎる。

 何度か、彼女の取り出すお菓子箱を目にしたことがあった。いずれも聞いただけで、目が丸くなる有名ブランドのものばかり。


 想像以上にお金持ちのお嬢様なのか。それとも何かしらのコネがあるのか。

 人がいないタイミングを見計らい、率直に疑問をぶつけた私に、彼女はおまじないのおかげかもとのたまって、例の文句を教えてくれたわ。


「とっても赤いイチゴを用意してね。季節の分かれ目となる日の日暮れ直前に、この呪文を唱えたうえで、思い切り手で叩いて潰すのよ。

 もし中が表面と同じ、真っ赤に染まれば成功。『闇』があなたに従うわ。真っ暗闇なら、できちゃうことがいろいろあるもの。お菓子のことも、そのひとつ」


 闇を従える。聞いただけで、なんともイタタなフレーズよ。

 けれど、ペットを断念せざるを得なかった直後の私は、食指を動かされる。

 誰にも知られず得る、優秀なペット。そうしてレベルの低い周囲の賑わいを、内心笑って高みの見物。

 なんとも、気持ちよさそうじゃない?



 このおまじないは、一発勝負じゃうまく行かないこともあるみたい。

 私は当時、直近にある春分の日に備えて、イチゴを選りすぐっていったわ。

 私なりに慎重に選んで、用意されたイチゴたちは合計10個。そうして春分の日の夕暮れを待ち受けたの。


 彼女いわく、イチゴを平手で押しつぶさなきゃいけないみたい。

 うまく行かなければ、イチゴは他のものでそうしたときと同じように、中央まわりに白い果肉をたたえているとのこと。

 私はイチゴをすべて一直線に並べる。汚してもいいよう新聞紙の上に置かれたもののひとつに手を乗せ、くだんの文句を唱えた。


「桃色果実は明るみ果実。無くばお闇がかえり来―ん」。


 赤っぽいのに、桃色とかおかしいなと思いつつ、ぐっと体重をかける。

 しばしの抵抗ののち、手ごたえと一緒にイチゴはぺしゃんこになった。ヘタのあたりに実の形を残して、それより下は細かい破片といくらかのペースト状の皮ばかりが広がっている。

 残った中身を見ると、芯のあたりは白くなっていた。失敗だ。

 私はすぐ2個目に取り掛かり、それも無理と分かると3個目へ。リミットは陽が完全に暮れきるまでしかないらしい。もたもたはしていられなかった。

 またたくまに8つのイチゴが潰される。いずれも望んだ結果をもたらしてくれなかったものばかり。すでにくことしか頭にない私は流れで9つ目に手をかける。


「桃色果実は明るみ果実。無くばお闇がかえり来―ん」。


 力を込めた、次の瞬間。


 私は押しつぶす手のひらに、痛みを覚えた。そして潰れたイチゴからも、わずかに赤い液体が手のひらの下から広がっていく。

 これまでの8つには、見られなかった異状。ぱっと手のひらを見ても、ついているのは果汁ばかり。垂れた赤い汁も、すぐにイチゴが持つ水気ににじんで薄まり出してしまう。

 けれど、割れてのぞくイチゴの内部は、確かに白いところをみじんも残さず、真っ赤っかに染まっていたの。

 指でいくらいじっても、白がのぞいてくることない。赤一色に染まった身体が、どこまでも続いていく。


「うまくいったならね、闇が手に入れたものを届けてくれるよ。

 あらかじめ、器を用意したところにね。けれど、家の中とかはおすすめしないなあ。どこか広い場所に穴掘って、そこへ何か器をうずめた方がいいよ」


 私は自前で用意した陶器を、家近くの公園の茂みの中へすでに埋めている。あの子に言われた通り、闇への目印として器のふちの一部から底にかけてを、赤いペンで扇型に染め上げたうえでね。

 もし、きっちりと真っ赤なイチゴと出会っているのなら、夜明けにその成果は現れるだろう、と彼女は言い添えていたわ。


 実際、その通りになった。

 早めに眠った私は、家族がまだ布団で横になっている夜明けの時間帯に、こっそり家を抜け出す。

 公園の一角の、茂みの裏側。遊び好きな子供か公園管理の手入れする人以外、そう目にとめることがない、土の中へうずまったカレーやシチューを盛るときの楕円皿。

 そこへ突き刺さるように入っていたのは、チョコレートの箱だったわけ。これもまた、私の知っている有名店のもの。


 うれしいという感情より、怖いという気持ちがずっと勝ったわ。

 箱にはわずかな傷やへこみなどはない。誰かに譲ってもらったか、あるいは盗んだりしてきてここへ横たわらせたような、そんな感じがした。


 ――彼女の仕業じゃないのか。


 いつも学校でお菓子を分ける要領で、ここに箱を置いたんじゃないか、とね。

 お皿の位置は目立たないけれど、十分気をつければ見つけられないこともない。話を知っている彼女の仕込みだ。


 思い込んだら一直線な私は、その日の彼女が持ってきたお菓子が、お皿に入っていたものと同じブランドと判断。またひと気のない時間を狙って、詰め寄っていったのよ。

 でも、彼女は悪びれた様子は一切見せず、かえって喜ぶ表情を浮かべる始末。「闇が従ってくれた証拠だよ」と。

 ただ、あれほど欲しがっていた私が、いざお菓子を受け取らなかったことを知ると、ちょっと難しい顔をしたわ。


「お皿のものを受け取らないにしても、どこかへ持っていかないと、エスカレートしちゃうよ。聞いたことない? ネコっておみやげを持ってくるのよ。

 闇も同じ。おみやげを放っておくと、お気に召さなかったのかと、思っちゃうわよ?」


 ――しれっとよくいうわ。どうせ自分が全部仕込んでいるくせに!


 一度気に食わなく思った相手は、とことん憎ったらしくなる、厄介な性分な私。

 自分から頼み込んだにもかかわらず、絶対にあの器のものに手を出してやるものかと思ったわ。

 学校の帰り際、さりげなく埋めたお皿の近くを通りかかる。

 チョコの入った箱は残っていなかったわ。



 それからも引き続き、私はお皿に入るものを確かめこそすれ、手に取ることはしない。

 はじめのうちは、あの子の分けるのと同じ銘柄のチョコばかり。それが何度目かになって、ハトの死骸になったときには、ぞっとしたっけ。

 血こそ吐いているようだけど、目立った外傷はない。手やひもなどでくびったような跡さえも。

 驚きこそしたけれど、グロ耐性高めな私の気分を害するには至らない。むしろ、伝えてきた言葉になぞらえた行動をする彼女に、ますます腹が立ってきた。

 1か月ほど経った、あの時まではね。



 その朝、現場を確かめにいった私は、息を呑んだ。

 遠目にも分かる。あのお皿を埋めた茂みから、人の腕がはみ出して横たわっている。体はすっかり隠されて見えない。かといって、これまで以上にする犯罪の臭いに、近寄っていく度胸はなかった。

 私はそうっとその場を逃げ出し、何食わぬ顔で朝を過ごして登校したけれど、朝のホームルームで話題が出る。

 私がお皿を埋めている公園で、人の死体が見つかったと。みんながざわつくなか、私はつい口に手をやってしまう。やはりあれは、想像した通りなんだと。


 ふと顔をあげ、教室を見やる私。ざわつく空気の中でただひとつ、私をまっすぐ見据える視線がある。

 あのおまじないを教えてくれた子だ。不動をたもつ彼女の目は、どこまでも冷たく私を刺していたわ。


 ――だからいったのに。あなたのせいで、死人が出たのよ。あなたが闇をしっかり従えないから。


 雄弁すぎる眼差しから、つい私はぷいと顔をそむけてしまう。

 もしこれも彼女の仕業なら、あの目にどこか愉悦の色が浮かんでいたはず。私の反応を面白がるそぶりがあったはず。

 それがまったくなかった。ただただ厳しく、冷たく、目だけで私を蔑んでいたわ。


 現実的な証拠のないこと。私の闇の仕業か分からなくとも、自分のせいと思い込む私は、許しを乞うように、彼女に闇との縁切り方法を尋ねたの。

 それに対して、彼女ははじめに教えてくれた時とは別人のようにそっけなく「お皿をすっかり埋めてしまえばいい」としか話してくれなかったの。

 言うとおりにした私のもとに、あのような「おみやげ」がまた姿をあらわすことはなくなった。ただ一方的に縁を切った闇が、いまもどこかにいるんじゃないかと、ときどき不安になるのよね。

 


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