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手合わせ

「初めまして、セレーネです!」

来てくれたのはまだまだ幼い女の子だ。


薄紫の髪を二つに結び、ミューズに似ていてとても可愛い顔をしている。


「こんなきれいな人が剣を使うの? 凄い!」

キラキラした目でフローラを見つめている。


「とっても強くて綺麗な私の自慢の友人なの。邪魔せずに見てるのよ」

セレーネは行儀よくミューズの膝に乗った。


「こちらの木剣をお使いください。では遠慮なく打ち込んできていいですよ」

ライカがフローラに木剣を渡して、構えた。


打ち込んで、ということはフローラからということだろうか。


息を吸い木剣を打ち下ろしたが、ライカは体をずらし、その攻撃を避ける。


フローラは打ち下ろした剣を横薙ぎに動かすが、ライカが木剣で受け止め、はじき返した。


「動きがいいです、早い」

フローラは体を低くし、突きを狙う。


風の抵抗も少なく、速度が出る。


ライカは体の軸をずらしてそれを避け、距離を詰める。


フローラは左手で拳をつくり、ライカの顎を狙って繰り出した。


「剣だけじゃないの?!」

セレーネの驚きの声に、フローラは少し視線をそちらに移してしまった。


だが、ライカはその拳を掌で受け止めるだけで追撃はしなかった。


「これは有効な手段ですよセレーネ様。倒す為なら何でもしないといけません」

手を離し、再び距離を取る。


「人相手の戦い方も大丈夫ですね。安心しました」


「どれもあなたには通用しないのに……それって嫌味かしら?」

簡単に躱しておいてそんな台詞を言うとは、馬鹿にしているのだろうか?



「そんなことはありませんが、俺も護衛騎士として負けられませんので」

傍目からみたらわかりづらいかもしれないが、ライカとフローラの実力差はかなりある。


冒険者として、魔獣退治は多かったが、フローラは人相手の実践が少ない。


ライカは寧ろ人相手の戦いを熟知している。


スタイルがだいぶ違うのだ。


フローラはそれでも剣を握りライカに向き直る、諦めるつもりはない。






「楽しそうな事をしているな」

幾度目かの打ち合いの途中、ティタンも帰ってきた。


今日はリオンと共に登城していたそうだ。



フローラとライカは手を止め、ライカは剣もおろし、敬礼をする。


ティタンはそれを視線だけで受け取り、フローラへの挨拶を優先した。


「久しぶりフローラ嬢、連絡は受けてびっくりしたが元気そうで何よりだ」


「ティタン様お久しぶりです。すみません、お邪魔していました」

フローラも頭を下げた。


「構わない。寧ろ手合わせの邪魔をして悪かった」

一緒に来ていたリオンがすっと前に出る。


「こんばんは、フローラ様。兄様達の結婚式の時にお見かけはしていましたが、リオンと申します。とてもいい腕前ですね、凄い」

リオンはフローラの腕前を褒めた。


「しなやかな動きで、勘もいい。これで冒険者とは勿体ない。ぜひ護衛として雇いたいものです」

ティタンも頷く。


「そうだな。昔からとても動きが良くて、ライカからもよく筋がいいという話を聞いていた。剣の腕がとてもたつと。いまだに健在そうで何よりだ」


「……」

ライカが何かを言おうとして口を噤む。


「中断してしまったのは申し訳ないが、夕飯の時間となる。フローラ嬢も汗を流したら、一緒に食事をしよう。夜も遅いからここに泊っていくといい。君なら歓迎だ」

もうそんな時間だったのか、全く気が付かなかった。


「せっかくの申し出ですが、宿もとっておりますので」

あまりの長居に申し訳なく思う。


約束したわけではないので、こんな急に食事や宿泊の用意など迷惑でしかないだろう。


「そうなのか? だがうちのほうでも用意してしまってね、無駄になった宿代はこちらで払うから、ぜひ色々な話を聞かせてほしい。現役冒険者の話とは貴重だし、セレーネも聞きたいよな?」


「はい! わたしも聞きたいです!」

セレーネは元気に手を上げ、フローラを見る。


「というわけでフローラ嬢、遠慮なく泊まっていってくれ。ミューズ案内を頼むよ」

人目もはばからず愛しの妻を抱き寄せ、額に口づけする。


「えぇ。任せておいて」

ミューズが嬉しそうなのを満足そうに眺め、そっと背中を押して案内を促す。


ミューズはフローラの手を取って引っ張っていった。


またしてもフローラの返答に応えられる事は無く、強引に連れていかれた。


ティタンはフローラと一緒に打ち合いをしていたライカを見る。


「大丈夫か?ライカ」

ライカは額の汗を拭い、赤くなった顔を隠すように目元に手を当てる。


「あまり大丈夫ではないですね……」

久しぶりの再会に動揺してしまったし、周囲に全てがばれているのが凄く恥ずかしい。


マオとチェルシーのにやけ顔にひどくイラついてしまう。


「皆が応援している。もう後悔するんじゃないぞ」


「……はい」

マオやチェルシーになら憎まれ口も叩けるものの、主の言葉には素直に頷くしかなかった。







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