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1-2 玉座の間の未鑑定品

「え、王女様が何故こんなところに?」


 アクトの問いに、彼女は答えた。


「シーリアに頼み込みました。これを見つけたのは私とシーリアなのです。」


 そう言って指さしたのは二つ目の武器であった。


「二人で……あ、ストップ」


 口を開こうとしたシーリアを静止して、アクトが続けた。


「ここでは誰かに見られる可能性もある。ドアを閉めてこちらに来てくれ」


 そう言うと彼は、先程までいた隠し部屋へと二人を案内した。



「こんな部屋があるの」


 シーリアが棚を見ながら言った。棚には様々な、未鑑定品を包んでいた殻が液体に漬けられて保管されている。


「これはアレ?貴方のために?」


「それは、まぁ……ね」


 部屋への入り口を隠しながら、アクトは言葉を濁した。


「王女様に話す事じゃあるまい。後だ後。ともかくまずはさっきの未鑑定品の話をしよう。あれは、何処で見つかったんだ」


「貴方の推測通りよ。お城。我らがナクール城、玉座の間よ」


「……ほほう」


 アクトはそれがどういう意味かを理解した。


「それは、その、分かって言ってるんだよな?それがどういう意味か?」


「理解しているからこそ、確証を得るために、貴方に見解を伺いに来たのです」


「見解、ねぇ」


 アクトはふぅ、と溜息を吐いた。


「あの城に、ナクール王国の中枢に、魔物が居る。それの証明となり得るだろうという事に他ならない。僕に出せるのはそういう見解だけど。それが君達の求めている回答という事でOK?」


「……はい」


「そして……それは何処で見つかったと言った?玉座の間?」


「ええ」


「……つまりそれは、玉座の間に普段いる誰かが魔物になっているという事だな」


「……そうなります、よね」


 エレアが顔を背けながら言った。


「"誰か"が問題だ。エレア王女、最近で良いので思い出して欲しい。ブライ国王がトイレに向かう事はあったかね」


「……は ?」


 エレアは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「と、とい?」


「トイレ。重要なのだ。是非教えて欲しい」


「えーえー、えーと……??????」


 重要とは言うが、何故その情報が重要なのか全くわからない。シーリアの方を見るが、彼女もきょとんとしていた。


「あー、そうですね……。多分……あれ?」


 と、エレアはふと思った。行っている姿を見ない。最近はずっと玉座に座っているか執務室で仕事をしている。そこから離れるのは、食事の時と就寝の時くらいのように思える。合間合間でトイレに向かうのが世の常。だがそういう姿を見た覚えが無かった。


「…………」


「ないかぁ」


 一時の沈黙から、アクトが心の中を読んだように言った。


「ええ、その、まぁ。……でもそれがどうしたのですか?」


「魔物はトイレにいかない」


 アクトは藪から棒に言った。


「魔物は老廃物を魔力の形で吐き出す。我々が呼吸する時に酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すのと同じように。それ以外で老廃物を排出する事は無い。どんな栄養素でも、魔力まで分解する。そういう体質になっている。

 だからトイレにいく必要が無い。だからトイレにいかない。

 通常の動物はそうではない。老廃物を体内から取り出す必要がある。つまりトイレにいく。

 そこが具体的に見える魔物と人間との差なんだ」


「…………なる、ほど」


 シーリアもエレアも、「魔物が未鑑定品を産む」という事は分かっていても、それがどのようなメカニズムによるものであるかは知らなかった。実際、ここまで詳しいのは、この国においてはアクトぐらいものであった。ナクール王国では魔物の研究は盛んでは無いためである。


「……え、それは、つまり?」


「そう。つまり国王が魔物になっている可能性が高いという事だね。国王なら玉座の間にずっといるし、あそこに未鑑定品が発生したことに矛盾がない」


「なるほどねぇ。……え?まずくね?」


「まずい。大変にまずい。しかも未鑑定品というのは、魔物一匹でも生成される事はあるが、二匹以上いた方が生成されやすい。ここまでしっかりと実体化するには一匹では難しかろう」


「へぇ」


 シーリアが知らない知識に触れた事で感心しながら言った。


 アクトの発言については、魔物の使役と未鑑定品の関係から伺える。


 テイマーという職業がある。テイマーはそのスキルで魔物を洗脳、自らのペットとして使役するのだが、ペット=魔物を飼っているからといって未鑑定品が無限に収集出来るという事は無い。ごく稀に生み出す事はあるが、結局、一匹の魔物が生み出す老廃魔力は微々たる物なのである。


「ま、待ってください。それはつまり、他にも魔物がいるという事ですか?」


「その可能性が高い。そうなると、このナクール王国が魔物に乗っ取られかけている、そういう可能性を捨てる事が出来なくなるわけだが……どうしたものかな」


 アクトは頭を抱えた。魔物がこのような作戦を取って来た事は無い。そもそも魔物が人間の領土に侵攻する事自体が殆ど無い。大抵はダンジョンーー魔力が満ちた場所ーーに巣食っているだけである。


 魔界デモラードという、魔物が統治する場所があり、そこと隣接する国々はよく魔物に侵攻を受けているが、ナクール王国はそこからは離れている。


「何が目的だ?何でそんな事をしている?」


 アクトは隠し部屋のテーブルに頬杖を付いて考え出した。


「そんな事を考える必要は無い」


 全く聞き覚えの無い声が割り込んできた。


「誰だ!?」


 アクトは急いで声の方を向くと、隠し通路の出入り口に兵士が何人も居た。そしてその先頭には、整った顔立ちで長い金髪の男が一人。


「大臣?何故ここに?」


 エレアが不思議そうに、焦りながら言った。


 それがデュマ・サレーン大臣であり、国王の指示を以って国政を担う、実質的な国政の長である事をアクトは知っていた。


「王女様。我々の監視網を甘く見られては困ります。勝手に城を抜け出す等もっての外です。たとえそこの騎士団長に唆されたとしても、です」


 デュマは咎めるような目でシーリアを見た。


「騎士団長様、困りますな。王女様の誘拐など」


「誘拐!?なんでそんな話になるのよ!!」


「こーんな怪しげな場所に王女様を連れて来ておいて、誘拐じゃないとか良く言えるな。捕まえろ」


 デュマの横の兵士達が、シーリアに槍を向ける。


「あんたらこんな優男の言う事を信じるつもり!?」


「申し訳ありません。命令ですので」


 ここにいるのは兵士、騎士では無かった。


 兵士、つまり軍は王の指示の元でナクール王国を防衛する立場にいる一方、騎士は騎士団長の指示の元で民のために活動する役目を追っていた。指揮命令系統やそもそもの役割が若干異なるのである。


 そしてここにいるのは、シーリアも知っている兵士であったが、その何れもが自らの意思よりも指示を優先する、命令に忠実な者達ばかりであった。


「大人しくしない場合は殺しても構わん。何せ王女様の誘拐犯だからな」


「……はい」


 デュマの言葉に、兵士達は躊躇いを見せながらも頷き、シーリアとアクトの首元に穂先を突きつけた。


「……大人しくするしかないか」


「むーぐぐぐぐぐぁぁぁぁっ!!」


 アクトはやむ無く受け入れたが、シーリアはというと、不満気に地団駄を踏んで怒りを露わにしていた。



 そんなシーリア達を押さえ込もうとする大臣と兵士達を尻目に、アクトはこっそりと、棚に置いてあった薬を幾つか懐に隠し持った。それはエレアも気づかない程素早い動きであった。

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