街での出会い
バッグに苺大福を詰め込んだアメリアは、五宮の壁の穴を経由して王宮から街に出ていた。
王宮の外れにある五宮は、もともと寂れていて人気がない。
正面の入口以外には常時警備兵がいるわけでもなく、アメリアの顔は知られておらず、身に纏うのは地味で古いワンピース。
仮に見かけても、ただの使用人だと思われるだろう。
それに過去のループでも何度か抜け出しているので、手慣れたものだった。
ヘルトも同行すると言ってきかなかったが、四妃がうっかりやってきた場合に対応する人がいないと面倒なことになる。
アメリアは風邪で寝込んでいるとでも言えば、病をうつされたくない四妃達は近付かないので安心だ。
不本意の塊と化したヘルトに手を振りつつ、どうにか街までやってきたアメリアは、人込みを見て深呼吸をした。
「今日の目的は、市場調査。それからお菓子を入れる袋もほしいかな」
ヘルト相手ならばハンカチに包んで口に突っ込むこともできるが、販売するとなればそうはいかない。
苺大福の付加価値を上げる意味でも可愛い包装は有効だと思うが、まずは売らなければ袋も買えない。
ヨーロッパ風ファンタジーな乙女ゲームの世界で曲がりなりにも王女だというのに、お金を稼ぐことになろうとは。
「お金、お金。……どこの世界も世知辛いわね。まあ、頑張るしかないわ」
いくつも立ち並ぶ露店には食べ物以外にも服や道具など色々なものが売られている。
見ているだけでも楽しくなるが、今日は遊びに来ているわけではない。
気を引き締めてお菓子を中心に見てみるが、クッキーや飴のような日保ちする洋風のものが多く、当然のように和菓子のようなものは見当たらない。
「これなら、何とかなるかな」
以前のループで街に出た際に野菜を買い取ってくれた店は親切だったし、店先にお菓子もあった気がする。
街の人の味覚を確認する意味でも、あの店に買い取りをお願いしてみることにしよう。
「そこのお嬢さん。ひとつどうだい?」
記憶を頼りに街中を進んでいくと、とある露店の店主に声をかけられる。
ちらりと見て見れば、色とりどりの可愛らしいブローチが並んでいた。
「ごめんなさい。お金がないから」
「それなら今度彼氏と一緒においで。おまけしてあげるよ」
店主に愛想笑いを返しながらその場を離れると、小さく息を吐いた。
アメリアには彼氏どころか婚約者がいるものの、婚約以来贈り物はおろか手紙の返事すらよこさない。
「今までは私のことを嫌いなのかもと思って、仕方がない気がしていたけれど。……普通に酷くない?」
例え嫌々婚約したとしても、気持ちは既に他の女性に向いていたとしても、婚約していることに違いはない。
しかもアメリアは一応王女だというのに、どれだけぞんざいな扱いなのだ。
これまでは超塩対応なリュークに対して寂しいとか悲しいという気持ちしか抱かなかったが、今は好きであると同時に少しばかり文句も言いたい気分だ。
「何だろう。今までのループとは少し思考回路が変化しているのかな」
日本の記憶が戻ったことで変わったのか、あるいは抑圧された何かが解放されたのか。
よくわからないが、今まで通りではプリスカに対抗できないので、いいことだと思おう。
「苺を売ってドレスを作ってリューク様に会うことができたら、手紙の返事くらいよこせって言ってやろう」
それくらいしても、罰は当たるまい。
「よし。ついでにめちゃくちゃ大きな苺を口に押し込んでやるわ」
新たな決意を胸にして歩いていると、目的のお店に到着した。
「……見た目は不思議だけれど、美味しいじゃない。気に入った。五個全部買い取るよ」
「ありがとうございます!」
店主の女性は笑顔で苺大福を受け取ると、早速店頭に並べる。
すると様子を見ていたらしい客がやってきて、あれよあれよという間にすべてが売れてしまった。
思いがけない事態に、アメリアと店主の頬が緩む。
「その可愛い子は新しい店員かい? こっちの人参を十本、包んでくれるかな」
男性客にそう言って人参を手渡されたアメリアが店主を見ると、袋を差し出された。
断るほどのことでもないので人参を袋に入れていると、その間に店主に支払いを済ませた男性はにこりと微笑んだ。
「こんなに可愛い子に手渡されるなんて、何だか嬉しいな。今日一日、いいことがありそうだ。ありがとう」
手を振られて思わずアメリアも振り返すと、何故か周囲から歓声が沸いた。
それと同時に店頭に人が一気に集まり、アメリアに商品を差し出してくる。
「……あの?」
困惑して振り返ると、店主の瞳は謎の輝きを放っている。
「お嬢ちゃん、ちょっと手伝ってくれるかな。もちろん、報酬は支払うよ」
それはつまり、店員として少し働くということだろう。
市場調査にもなるし、報酬という言葉も魅力的だったので、アメリアはすぐにうなずいた。
その後まるで嵐のように客がやってきたので、アメリアはひたすら商品を袋に入れ、手を振り返し続ける。
ようやく落ち着いた頃には、店先の商品はほとんど完売していた。
「いやあ、ありがとう。本当に助かったよ。これからも、うちで買い取るから持っておいで。また手伝ってくれたなら、そのぶんの報酬も支払うよ」
買い取りの約束だけでもありがたいので承諾すると、店主はアメリアの手に何枚かの硬貨を乗せた。
「これはお菓子と手伝いをしてくれたぶん。もしよかったら、少しだけ店番をしていてくれないかな。商品を取りに行ってくるから、すぐに戻るよ。それまでは今は休憩中だと断ってくれればいい」
「わかりました。いいですよ」
スキップでもしそうな店主を見送ると、賑やかな人の流れを眺める。
客に直接売れば意見も聞きやすいし、お店を持つというのもいいのかもしれない。
ぼんやりとそんなことを考えていると、いつの間にか目の前に三人の男性が立っていた。
「店主として登録した者以外が売買をするのはルール違反だ。罰金を支払ってもらおうか」
「私は留守番をしているだけです。お店は今、休憩中です」
アメリアはきちんと説明をしたのに、何故か男性達は薄笑いを浮かべている。
「そう言われても、ルールはルールだ。金がないなら、他の方法でも構わない。お嬢ちゃんなら、もっと稼げる方法がある」
稼ぐという言葉にアメリアが気を取られていると、男性の手が伸びてくる。
すると、どこからか現れた人影が男性のそれを押しのけ、アメリアを庇うように前に立った。
「留守番をしているだけの子に何を言っているんだ。罰するとしたら店主だし、そもそもお前達にその権限があるのか」
灰色の髪の少年はそう言うと、ちらりとアメリアに振り返って微笑む。
その瞳は、綺麗な金色だった。
※今夜もう1話更新予定です。
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昨日連載開始した「苺姫」ですが、転生転移異世界恋愛ランキング8位になりました!
これも皆様のおかげです。ありがとうございます。
感謝を込めて、今夜もう1話更新予定です。
次話 アメリアを庇った金色の瞳の少年は……?
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ありがとうございます。
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