私の妻となるのは
「言いがかりです。たまたま最近は体調がいいからと、少し強気になっているようですね」
優雅に微笑む四妃に対して、国王の表情は曇ったままだ。
「食事と服は?」
「まさか、そんな馬鹿なことが。長年、心を砕いて実子のように思っていたのに、あんまりです。いくらプリスカが聖女として認められ、自分がクライン公爵令息に捨てられるからといって……」
目元にハンカチを当てる様は実に悲しげで、傍から見たらアメリアが悪者だとしか思えない。
少しばかり感心していると、四妃を支えるようにプリスカが寄り添った。
「そうです。酷いです、お姉様」
「それなら、母の形見のネックレスを返して」
「え?」
突然のアメリアの言葉が理解できなかったのか、プリスカと四妃が同時に声を上げた。
「社交界デビューの予定だった舞踏会の日。ドレスはないしデビューもさせないと言って、私から奪ったネックレス。お母様が死んで五宮内の物をほとんど持ち出され、唯一残った形見なのよ。早く、返して」
「そ、そんなものは知りません。酷いです、奪うだなんて!」
手を差し出すアメリアを見て、プリスカは今にも泣きだしそうだ。
この母娘は見事なまでに泣き真似が上手だ。
今までもこうして周囲を欺いていたのかと思うと、腹が立つよりも先に馬鹿らしくなってくる。
「……どういうことだ」
泣き出した二人とそれを冷ややかに見るアメリアに、国王も困惑しているようだ。
ここですぐに庇わないところを見ると、完全に四妃の味方というわけではないらしい。
「恐れながら、陛下。発言をお許しいただけますか」
リュークが頭を下げるのを見た国王は、ゆっくりとうなずき返した。
「私は十四歳の時にアメリア殿下に出会い、一目で恋に落ち、婚約しました。それは、私に直訴された陛下もご存知ですね?」
その言葉に泣いていたはずのプリスカの表情が一気に曇ったが、泣き真似をするならするで、きちんとやり遂げてほしい。
「ですがそれから四年間、殿下に一度もお会いすることは叶いませんでした。手紙を送っても返事はなく、贈り物にも反応はなく、面会も断られました。すべて殿下が病弱であるがゆえ、仕方がないのだと耐え忍んでおりましたが……この通りです」
その場の全員の視線が注がれ、驚いたアメリアは思わず姿勢を正した。
「殿下は至って健康。それどころか、私からの手紙も贈り物も一切届いておらず。日々の食事のために畑仕事をしなければいけない状況で、五宮に監禁されていました。……これは、陛下の御指示なのですか」
言葉と態度こそ丁寧ではあるが、リュークの視線は『もし、そうだったら許さない』と訴えている。
「その場合には、私は今すぐに殿下を我が邸にお招きし、結婚しようと思います。とても王宮に置いてはおけません」
もはや喧嘩を売っているような状況にひやひやするが、よく考えると父親に対して結婚宣言しているのだ。
緊張するような恥ずかしいような、どんな気持ちで見守ればいいのかわからない。
「まさか、そんなはずがない。四妃、どういうことだ。おまえの訴えとかなり食い違っているが」
「恐らくは、クライン公爵御令息の思い違いと勘違いかと。確かにアメリアの気晴らしになればと畑も用意しましたが……まさか、そんな風に思われているとは」
再びハンカチを目元に当てる四妃を見る国王とリュークの表情は険しい。
「では、すべてアメリア殿下と私の勘違いである、と?」
「誤解を与えたのは良くありませんでしたが、私はアメリアの後見として努めてきました。今後も同様ですので、ご心配なく。それよりも、プリスカとあなたの婚約の話を進めましょう。そのために、ここにいるのですから」
しおらしく訴える四妃の様子からして、どう見ても悪いのはアメリアとリュークだ。
今まで周囲を欺いてきたのだろうが、王の妃にこうして訴えられれば信じるのも仕方がない。
だが、ここで引いては今までと変わらないし、リュークとプリスカが婚約してしまう。
何か言わなければと動いたアメリアの前に隣から手が現れ、それを遮る。
リュークはにこりと微笑むと、すぐに厳しい表情で国王と四妃に向き直った。
「私がアメリア殿下に贈ったものは、花や食べ物だけではありません。アクセサリーやドレスも贈っています。年齢を重ねてからはサイズがわからないので、上質な生地も贈っています」
贈り物をしていたとは聞いていたが、こうして具体的な話を聞いたのは初めてだ。
思った以上の内容に、申し訳ないやら嬉しいやらで胸がいっぱいになる。
「先日の夜会で第五王女殿下が着ていたドレスは、深紅の生地に特徴のある金糸の刺繍が入っていましたね。私がアメリア殿下のために職人に作らせた特注品にそっくりです。それを何故、あなたが着ていたのですか」
「……ぐ、偶然では?」
プリスカは笑みを返すが、動揺は隠せていない。
ということは、本当にアメリアに贈られた生地でドレスを作ったのだろうか。
何とも図々しい話だが、そもそもアメリアを尊重する気など欠片もないのだから、他人の物という意識も持ち合わせていないのだろう。
思い返してみれば、あの夜会の時にプリスカを見たリュークの様子がおかしかった。
あれはアメリアに贈った生地のドレスをプリスカが着ていたから、ということか。
「今まで殿下に贈った物は、すべて記録しています。見本として生地の一部もあります。照合していただければ、すぐにわかるでしょう」
「お、お姉様に貰ったのです」
記録という言葉に明らかに焦った様子のプリスカがそう叫ぶと、リュークは眉間に皺を寄せた。
「アメリア殿下には何ひとつ届いていないのに、ですか? 私が四年ぶりにお会いした時には、平民と寸分違わぬ質素なワンピース姿でした。そこで調べさせましたが、四妃殿下と第五王女殿下のアクセサリーの一部に、私が贈った物と同じ、または一部を作り替えられた物を多数確認しました。……あれもすべて、貰ったと?」
「……それは」
ドレスだけではなく、アクセサリーも横取りしていたのか。
しかも一部を作り替えたということは、バレないように工作したともとれる。
さすがに上手いかわし方が浮かばないらしく言葉に詰まるプリスカと四妃を見て、リュークはこれ見よがしにため息をついた。
「私は、虚偽の申告で陛下を欺き、姉と外界との交流を絶って監禁し、贈り物を着服するような女性と結婚するつもりはありません。私の妻となるのは、アメリア・グライスハール殿下。ただ一人です」
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