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俺の隣で、笑っていて

「なるほど。それらならあり得るし、ループの起点がネックレスを取られた時というのも、辻褄が合うね」


「でも、何故ループするのかしら」

 祈晶石(きしょうせき)に魔力があっても、それがループに作用する原因がわからない。


 単純にプリスカが魔力を利用しただけなのかもしれない。

 だが、ヘルトの言うように五妃がアメリアのために遺したものと考えると、アメリアの意思を無視してループするのも何だか不自然だ。


「……もしかして、お母様が亡くなった後に『昔に戻りたい』って泣いていたから?」

「可能性は高いね。聖女が娘を案じて込めた魔力だ。アメリアの意思が反映されてもおかしくない」


「今までずっと、プリスカのループに巻き込まれていると思っていたけれど。巻き込まれているのはプリスカの方、ってこと?」

 まさかの結論に目を瞬かせると、リュークがそっと手を握った。


「アメリアにそんなつもりはなくても、『昔に戻りたい』という気持ちがあって。第五王女もまた、やり直すことを願って。それに祈晶石が反応したんだろう。そうすると、アメリアがいない間に勝手にループされる可能性は低い。これはありがたいね」


 確かにそうだ。

 何をどうしようとも、ループされてはすべてが帳消しになる。

 警戒すべきは祈晶石とプリスカとわかっただけでも、対策を考えやすい。



「それに、第五王女は聖女ではない可能性がある」

「どういうこと?」


「まだ確定ではないが、恐らくはネックレスの祈晶石の力でそう誤解されている……いや、させているんだろう。聖女ではないという証明ができれば、アメリアとの婚約に口を出す口実はなくなる。それが駄目なら、もうひとつの方法だな」


 そう言われてみれば、ループしても聖女と呼ばれていない時もあった。

 単純にそういうルートなのだろうと何の疑問も持っていなかったが、そもそもプリスカが聖女ではない可能性もあるのか。


 だが、どうやって証明するのか見当もつかないし、更なる方法とは一体何だろう。

 気になってリュークの言葉を待っていると、困ったように眉を下げながらアメリアの手をぽんぽんと撫でた。


「確定した情報じゃないし、できればまだ世に出したくないから。上手くいかなかった時に使うよ」

「わかったわ。リュークが言うのなら、信じる」


 アメリアには何の手立ても浮かばないし、リュークのすることならば信じられる。

 だからそう告げたのだが、みるみるうちにリュークの金の瞳が潤み始めた。


「……ありがとう」

「何で、泣くの?」


「泣いていない」

 リュークはハンカチで涙を拭うと顔を上げ、まっすぐにアメリアを見つめる。



「このままクライン公爵邸に行くよ。着替えたら、一緒に王宮に向かおう」

「王宮?」


「呼び出されているんだ。父には既に説得に説得を重ね、俺に一任すると言ってくれたから。直接対決だね」


 本来ならば公爵の指示に従うべきだろうに、掛け合ってくれたのか。

 そして、アメリアのために戦ってくれる。

 その言葉だけでも、胸がいっぱいで熱くなってきた。


「私にできることは、何かしら」

「俺の隣で、笑っていて」


「そんな」

 すべてをリュークに任せて笑っているだけだなんて、無責任ではないか。


「それじゃあ、とびきり美味しい苺をちょうだい。……俺のために、心を込めて」

「うん!」


 張り切って手のひらに苺を出すと、リュークはそれをつまんでひと齧りする。

 またもったいないとかいうのかと思いきや、意外とすぐに食べたので驚く。

 すると、リュークは残った苺の中から何かを取り出した。


「あれ。また宝石?」

 リュークがつまんでいるのは、透明の中に淡い赤いものがきらめく石だ。


「そうか。この苺水晶(ストロベリークォーツ)を売ってリュークを養うのが、もうひとつの方法……」

「だから、売らなくていいの。俺がアメリアを養うから」


「でも、リュークは苺を出せないじゃない」

「苺で生計を立てようとしないで」

 呆れたようにそう言うと、リュークは苺水晶をポケットに入れる。



「そうだ。苺、美味しかった?」

 とびきり美味しい苺というリクエストに応えようと頑張ったつもりだが、宝石に甘みを奪われていないか心配である。


「とても甘くて美味しいよ。……アメリア」

「うん?」


 返事をする間もなく、アメリアの口に苺が押し込まれる。

 反射的にそれを咀嚼すると、口の中に甘さが広がり、香りが鼻に抜けた。


「ね、甘いだろう?」

 リュークは楽しそうに笑っているが、これはもしかして、いわゆる間接キスというものではないだろうか。


 しかも、リューク手ずから食べさせてくれたのだから「あーん」まで制覇している。

 それに気付いたアメリアの顔は、苺に負けずとも劣らぬ赤みを帯びていく。


 嬉しいのだが、恥ずかしい。

 でもリュークは善意で苺をわけてくれただけかもしれない。

 だとしたら、間接キスだのあーんだのでひとり興奮しているアメリアが不純なだけだ。


 落ち着こう、まずは落ち着こう。

 小さく深呼吸を始めたアメリアを見て、リュークは何故か面白そうに笑っている。



「……何?」

「大好きだよ、アメリア」


 そう言うなり手を伸ばして頭を撫でたリュークは、アメリアの額に唇を落とす。

 ひとが間接キスに落ち着いて対応しようとしているのに、キスしてくるとは何事だ。


 ――嬉しいではないか。


 怒ることもできず、さりとて歓喜の声を上げるわけにもいかず。

 アメリアはただ、頬を染めながらふるふると震えている。


「君を、誰にも渡さないから」

 リュークはぽつりとこぼすと、もう一度アメリアの額に口づけた。



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ありがとうございます。

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「虐げられた苺姫は聖女のループに苺で抗う」

「苺姫」
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西根羽南のHP「苺姫」紹介ページ

秋田書店 西根羽南 有沢遼

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりストロベリークォーツを売る方向に…(笑)
[一言] アメリアから見るとリュークは養う必要のある甲斐性なし? まあアメリアが特別母性豊かということにしておこう
[一言] アメリアは気づいてないけどリュークは苺水晶の正体に気付いたようですね。
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