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苺売りとして第二の人生を

 アメリアとヘルトは王宮を抜け出すと、そのまま街へと出ていた。

 地味な色のワンピースに加えて、大きめのスカーフを頭にかぶって銀髪も目立たないようにしている。

 ヘルトも地味な服なので、傍目には年の離れた兄妹か親子に見えるだろう。


「とりあえず街には出たけれど、どうやってリュークに会えばいいのかしら」


「以前に姫様がクライン公爵邸に招かれた際に、使用人に邸の位置とおおよその道順は聞いてあります。距離はありますが、歩けますね?」

「うん。ありがとう」


 人に聞いて行こうと思っていたので、ヘルトの提案には感謝しかない。

 日頃から畑仕事などで体を鍛えられているし、多少の距離ならば歩くのも苦痛ではない。

 街の人込みを通り抜けながら、アメリアは小さく息をついた。



 ……リュークとの婚約は、なくなってしまうのだろうか。


 聖女は国王の妃、またはそれに準じる家に嫁ぐ。

 ヘルトからも聞いていた内容なので、プリスカが嘘を言っているわけではないのだろう。


 孤児を妃にするくらいなのだから、聖女であるということはかなりの優先事項なのも間違いない。

 王家に準じた家となればリュークの名が挙がるのもわかるが、既にアメリアと婚約している。


 アメリアは、これでも一応は王女だ。

 王家と公爵家で結ばれた婚約でも、聖女との婚姻のためなら解消されてしまうのだろうか。


 もしそうならばリューク個人の意思とは関係なく話が進められる可能性が高いし、アメリアにできることはないかもしれない。

 はぐれないようにと掴んでいたヘルトのシャツを、ぎゅっと握りしめる。


 大丈夫、リュークを信じよう。

 アメリアには、苺だってある。

 苺があれば何でもできるのだから、きっと大丈夫だ。


 石畳を見つめながら思考に耽っていると、突然ヘルトが立ち止まる。

 想定外の動きのおかげで、ヘルトの背中に思い切り顔をぶつける羽目になった。


「何? どうしたの?」

 痛む鼻を押さえつつヘルトの背後から覗くと、そこには金色の瞳の美少年の姿があった。



「リューク?」

「――アメリア!」

 目が合う否や駆け寄ってきたリュークに、あっという間に腕の中に収められる。


「良かった。王宮を抜け出したと連絡が来たから、街に出たけれど。会えなかったら、どうしようかと」


 ぎゅっと抱きしめられて嬉しいような、恥ずかしいような。

 だが、それよりも気になることがある。


「……リューク、泣いているの?」

 気のせいか声が震えているし、何かがぽたぽたと肩に落ちているのだが。


「泣いていない」

 手で何かを拭うような動作の後に、ようやく腕を緩められる。

 そこには少し潤んだ金色の瞳があった。


「あのね、プリスカが」

「わかっている。とにかく、馬車へ」


 リュークに手を引かれて人込みを抜けると、路地に停まっていた馬車に乗る。

 ヘルトはさっさと御者台に乗ってしまったので、馬車の中はリュークと二人きりだった。



「今日、王家から連絡が来た。『プリスカ・グライスハール第五王女が聖女と認められたので、慣例に従ってクライン公爵令息との婚姻を提案する』とね」


 正面に座ったリュークの言葉に、アメリアは目を瞠る。

 やはり、本当だった。


 溺愛の末に殺されるわけではなさそうだが、どちらにしてもリュークとプリスカが結ばれることに違いはないのか。

 瞳が潤みそうになるのを堪え、唇を噛みしめる。


「私……引いた方がいいのかな」

 ぽつりとこぼれた一言に、リュークの表情がさっと青くなった。


「何を言うんだ。俺はアメリアが好きだし、守ると言っただろう⁉」

「でも、聖女が王女である以上は、嫁ぐのは王家に準じた家。リュークが適任なのは本当だわ」


 四年間監禁状態だったとはいえ、一応は王女なので公爵家のことくらいはわかる。

 現在適齢で未婚の嫡男はリュークだけだし、仮に他にいたとしても王家に準じる家というからには筆頭公爵家であるクライン家が優先されるのは明らかだ。


「リュークのことは好きだし、気持ちを疑っているわけじゃないの。でも、ここでプリスカとの縁談を断れば、家に迷惑がかかるわ。殺されるよりはマシだし……」

 そこまで言うと、ひと呼吸置く。



「でも、そばで祝福するのはつらいから。……やっぱり、苺売りとして第二の人生を」

「……アメリア」


「大丈夫。苺系の液体を器に入れるのも、だいぶ上達したのよ。甘味だけじゃ飽きるだろうから、塩味も研究して」

「――アメリア!」


 名前を呼ぶが早いか、立ち上がったリュークにぎゅっと抱きしめられる。

 何も言えなくなったアメリアの頭を何度か撫でると腕を緩め、隣に腰を下ろした。


「アメリアの第二の人生は、俺の妻として歩むんだ。苺売りは、もう卒業」

「でも」

 そうなれば嬉しいが、現実は簡単にはいかないのだ。


「確かに、正面切って『アメリアのことが好きで、第五王女には微塵の興味もないどころか嫌悪している』とは言いにくいな。一応は王女で聖女なら」

「え」


「大体、アメリアを監禁する母親に、母親の形見を奪う娘だよ。どこが聖なる女性なのか、疑問しかないね」

「いや。そこまで言わなくても」


 断るにしても、余計なことを言えばかえって面倒なことになりそうだ。

 困惑するアメリアを見て苦笑すると、リュークはそっと手を重ねる。

 驚いて見上げれば、金の瞳が優しく細められた。





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次話 リュークの想いに、アメリアが提案したことは……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] リュークの言葉に共感しかありませんでした! プリスカは、五妃の形見のスイカ石を自分が出したと嘘をついてるとか? リュークが持ってるイチゴ石がアメリアが出したと国王に伝えれば状況も変わるん…
[一言] アメリアがリュークに渡した苺水晶がアメリアの祈晶石でアメリアが聖女と認定されれば婚約継続結婚に至れるかな。
[一言] お達しは来ましたか…。 さてリュークはどう出ますかねぇ〜
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