苺は宝石も出せるようです
「ええ⁉」
何事かと思ってリュークの持つ苺を覗くと、確かに果実の中に輝く宝石のようなものが入っていた。
「水晶の中に淡い赤の輝く内包物……苺水晶、かな」
初めて聞くその名前に、アメリアは驚きを隠せない。
「さすがは、苺ね。何でもできると思っていたけれど、まさか宝石まで出すとは」
「その苺への信頼は何なの。……今までにも、宝石を出したことはある?」
リュークに尋ねられて考えてみるが、過去に出していたのはただの苺。
ループ四回目で日本の記憶を取り戻してからは、苺系のお菓子や飲み物だ。
「たぶん、初めてよ」
「そうか。……これ、貰ってもいい?」
苺から抜き取ったその石は、透明の中に淡い赤のものがきらめいて、とても美しい。
苺水晶という可愛い名前で呼ばれているのも、納得である。
「うん。リュークにあげた苺だもの」
「ありがとう」
リュークはハンカチを取り出すと、苺水晶を包み、ポケットにしまった。
「さて。これからのことを考えると、問題は大きく二つある」
その言葉に、アメリアは背筋を正してリュークを見つめた。
「ひとつは、ルートに対する強制力の有無。もうひとつは、ループの原因だ」
真剣な表情でそう言ったリュークは、うなずくアメリアを見て何故か口元を綻ばせた。
「俺がアメリアを溺愛するのは、もともと好意があるからだ。でもアメリアはルートの強制力を目にしているんだよね」
「一人目の子爵令息の時は、完全にプリスカに恋しているという感じだったわ。でも二人目の騎士団長の令息はそこまででもなかったし、三人目の神官長の令息はあまり乗り気じゃない様子で。四人目の宰相の令息は、嫌がっているところにプリスカが縋りついていたわ」
こうしてみると、最初に比べて段々とプリスカへの好意は薄れていっているようにも見える。
「でも、嫌がっていた人達も結局はプリスカにプロポーズしたのよ」
「何かされたのかな」
「顔を近付けていたけれど、よくはわからないわ」
キスでもしそうな密着具合だったが、アメリアの位置からは近付いているということ以外は確認できなかった。
「とにかく、ループのポイントである国王生誕祭の段階でも、第五王女に好意を見せていない人がいる。その程度の影響力だ。反対にその場で近付かれて何かされると、今のところは確実に落ちる。……気を付けるのは、そこかな」
確かにそう言われればそうだ。
過去の攻略対象達は、ぎりぎりまでプリスカに好意がない場合もあったのだ。
それに段々と好意が薄れているのだとしたら、強制力自体が弱まっている可能性もある。
少しでも希望が見えたことで、何だか気持ちが明るくなってきた。
「それだけだったら、この一年以内にさっさと結婚してしまえばいいが……もう一つが厄介だ。ループする原因やその力の源が第五王女にあるのなら、アメリアと俺が結婚したら再びループするかもしれない」
プリスカはこれが最後と言っていたが、あれが「ループできるのは最後」なのか「このループで最後にする」という意味なのかはわからない。
仮に後者だとすれば、プリスカの心ひとつでまたループする可能性があるわけだ。
「何度ループしても、俺がアメリアを好きなことに変わりはない。だが、今回のように上手く気持ちが伝えられる保証はないからね。原因を突き止めて封じないと、どこまでも繰り返しかねない」
「うん。最後と言ったからには、プリスカはリュークと結婚するつもりだと思う」
「迷惑な話だね」
一応はプリスカも王女だし、聖女になるようだし、確実に美少女と呼ばれる容姿だが、リュークの態度はそっけない。
この世界の中心と言っても過言ではないプリスカよりもアメリアを選んでくれたという事実に、何だか心の奥がほかほかと温かくなる。
「今後は夜会にも積極的に出よう。もちろん、俺がパートナーとして一緒にいる。四妃と第五王女はそういった集いには必ず顔を出すから、様子を窺える。……アメリア一人で無理は駄目だよ」
今まさに四宮に忍び込もうかと考えていたアメリアは、びくりと肩を揺らし、ぎこちなくうなずく。
それを察しているのか、リュークは苦笑するとゆっくりとアメリアの頭を撫でた。
ただそれだけで幸せな気持ちになれるのだから、凄い。
「大丈夫。きっと上手くいくよ。俺には苺姫がついているからね」
「……何それ?」
「アメリアのことだよ」
当然とばかりに言われるが、腑に落ちない。
公衆の面前で苺を出したことはないのだから、アメリアの魔法は知られていないはずだが。
「輝く銀の髪に苺色の瞳の美しいお姫様。この間、俺と一緒に夜会に出ただろう? 病弱でみっともない、と四妃や第五王女が言っていたのを真に受けていた連中は、驚いただろうな。噂の第四王女が眩い美少女だとわかったからね」
リュークに褒められるのは嬉しいが、それにしたって言い過ぎだと思う。
「……何だか、楽しそうね」
「そりゃあ、可愛いアメリアを見せびらかしたくもなるさ」
にこりと微笑まれればそれにつられて鼓動が跳ねる。
「そういうものなの? それに、そんなにお世辞を言わなくても、リュークに褒められたらそれだけで十分嬉しいわ」
「何を言っているの。アメリアは可愛いよ。誰よりも可愛い。俺の大切な苺姫……頑張ろうね」
微笑みと共にアメリアの手をすくい取ったリュークは、流れるように唇を落とす。
「ひゃあ!」
何度も手にキスされているのに一向に慣れずに悲鳴を上げてしまったアメリアを見て、リュークは満足そうに金の瞳を細めた。
「そも婚」書泉オンライン在庫復活!
既に残りわずかです。
詳しくは活動報告をどうぞ。
次話 五宮に戻ったアメリアのもとにやってきたのは……!
第8回ネット小説大賞を受賞作
「婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない」(略称・「そも婚」)
宝島社より紙書籍&電子書籍、好評発売中!
(活動報告にて各種情報、公式ページご紹介中)
 





