俺を信じて
プリスカのループに巻き込まれ、同じ時を繰り返していること。
プリスカが攻略対象と定めた男性ごとにルートが存在しており、今のところ最後には確実にプロポーズしていること。
今回の標的である攻略対象がリューク・クライン公爵令息であること。
そして、このループが最後らしいということ。
それらをかいつまんで説明すると、リュークは腕を組んで考え込んでいる。
「……疑うわけではないけれど。何故、第五王女にそんなことができるんだ?」
寧ろ疑わないことに驚くが、話を真剣に聞いてくれているのが嬉しくて、アメリアの口元が綻ぶ。
「以前のループでプリスカは聖女と呼ばれていたこともあったから、そのせいかもしれないわ。ただ、はっきりとした原因はわからないの」
「アメリアだけが気付いて一緒にループしているのは、母親である五妃が聖女だったからなのかもしれないな。原因が第五王女の聖女の力だとすれば、それに近しいアメリアだけ影響を受けるのも納得できる」
聖女の力……つまり、母の力の影響となると、何だろう。
西瓜を出していた母のようにアメリアも苺を出すので、多少は血筋もあるとして。
「そういえば、お母様の形見のネックレスをプリスカに取られたわ。その場面からループが始まるんだけど、ぼうっとして動けなくて。結局、毎回取られちゃうのよね」
取り返せるものなら取り返したいが、今はリュークを守ることと殺されないことが優先なので仕方がない。
「婚約から四年に、ループ四回目までの合計七年。俺は四年間アメリアに会えなかったけれど、アメリアはその倍近くの年月、耐えていたんだな」
「まあ、そうね」
もちろん寂しかったが、後半は諦めと悟りも混じり始めていたので、耐え忍んでいたというのは少し違う気もする。
「アメリアは七年間無反応だった俺が好きだと言っても信じられないから、いずれ第五王女にプロポーズすると思っているの?」
「そうじゃないわ。ただ、今回のプリスカの標的はリュークなの。その場合はリュークが私を溺愛して、そして……す、捨てるらしいから」
さすがに殺すと言うのは憚られる。
リュークが心からアメリアを大切にしてくれているなら失礼だし、ルート通りならばかえって殺されるきっかけになるかもしれない。
「だとしても、街でお金を稼ぐ必要はないよね」
「え? それは、その」
いけない。
何だか話の雲行きが怪しくなってきた。
アメリアの心の声が表情にも表れたのか、リュークはじっと見つめた後ににこりと微笑んだ。
「まだ隠していることがあるみたいだね」
そう言うなり手を伸ばしてアメリアを抱き寄せると、耳元に顔を寄せる。
「教えて、アメリア」
吐息が耳をくすぐり、思わず身震いすると同時に、そっと耳に唇を落とされた。
「――リュークに! 殺されるっていうから!」
恥ずかしさと混乱からそう叫ぶと、リュークの動きがぴたりと止まった。
「……俺がアメリアを? あり得ない。どうして」
「私を溺愛してから殺すらしいから、プリスカと親しくなったら邪魔になるのかもしれないわ」
溺愛から殺害という情緒の乱高下は、正直アメリアにも理由が理解できない。
「だから溺愛されなければいいと思ったけれど、リュークは構ってくるし。私も嬉しいし。引きこもると今まで通りの行動だからルートから外れそうにもないし。もう、いざとなったら苺を売って平民として暮らすのもありかなと思って。資金を……」
曇った表情でアメリアの話を聞いていたリュークだが、段々と眉間に皺を寄せたかと思えば、あっという間に瞳を潤ませている。
「ど、どうしたの?」
「食事もろくに出されず、五宮に監禁され、合計七年も婚約者が無反応だったのに。溺愛された後に殺されるから、平民になって暮らす……? そんなの、駄目だ。アメリアばかりがつらい目に遭うなんて」
「え、いや。泣かないで」
慌ててハンカチを取り出そうとするが、その前にリュークにぎゅっと抱きしめられる。
「――俺が、守る。聖女の力か何だか知らないが、負けない。アメリアを幸せにする。だから……俺を信じて。一緒に戦おう」
「……うん」
アメリアがうなずくと、リュークの手が優しく頭を撫で、もう一度強く抱きしめられる。
たとえプリスカがリュークルートに入った故の溺愛だとしても、アメリアがリュークを好きなことに変わりはない。
リュークもアメリアを想ってくれるというのならば……逃げるのではなくて、共に立ち向かう道があってもいいのかもしれない。
「うん。私も頑張る。苺があれば、何でもできるもの」
腕の中で顔を上げると、目の前にあった金の瞳がゆっくりと細められた。
「苺か。……アメリア、苺をひとつくれる?」
「うん」
返答と共にリュークの腕が緩み、アメリアは手のひらを体の正面に差し出す。
リュークと会えて、心が通じ、共に戦い、隣にいたいという気持ちの結晶。
心を込めて出したその苺は、きらきらと光を反射して輝いていた。
「綺麗な苺だね。もったいなくて、食べられないな」
「そこは、食べてよ。そういえば以前にも、もったいなくて食べていないとか言っていたけれど……あれは食べたの?」
「本当は飾っておきたかったが、腐るといけないから食べたよ」
笑みを返されるが、言っていることがおかしい。
「そんなギリギリを攻めないでよ、お腹を壊すから!」
リュークに美味しく食べてほしくて出しているのに、腹痛をお見舞いすることになったら本末転倒である。
「もう、これも食べて。今すぐ食べて。心配だから!」
「はいはい」
苺を受け取ったリュークはひと齧りするが、何故かそこで止まって苺をじっと見つめている。
「中に何か入っている。石……いや、宝石だね」
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既に残りわずかです。
詳しくは活動報告をどうぞ。
次話 苺から出てきた謎の宝石。そして二人で今後の対策を考える!
第8回ネット小説大賞を受賞作
「婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない」(略称・「そも婚」)
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