27.素直になるのはどうやるの?
自分の気持ちを見透かされていたのに気づき、システィアーナは羞恥に頰を染めながら俯く。
「シスが間違っている訳ではないよ。いずれ夫婦となる相手とは睦まじくやりたいものだろう?」
「アレが思い違いをしていたのだから、おバカさんのために貴女が羞じる必要はないわ、可愛いシスティアーナ。家柄も利権も関係なく貴女を愛してくれる相手に出会えて、共に添い遂げられるといいわね」
アナファリテは、サレズィオス侯爵家の令嬢で、王家に嫁ぐのに身分的には問題はなかったが、すんなりと婚約者に収まれた訳ではない。
貴族令嬢が学ぶ、一般的な淑女教育や基礎教養だけでは足りず、語学も世界情勢も学び、淑女教育も完璧と言われるまで修め、王子妃教育もかなり厳しくされたが貪欲に学んだ。
フレックの妃となるためである。
王太子でもなく、4人いる王子の中でも一番人当たりもよく人気のあるフレックの妃の位を望む令嬢は多く、また、サレズィオス侯爵家は王子妃の後ろ盾になれるほど力のある家でもなかった。
せっかく想う相手に望まれたのだから、婚姻を認められるべく努力したのである。
物語にあるような嫌がらせや苛めを受けたわけではないが、それとなく他の令嬢達に冷たくされたり相手にされなかったり、嘘と言い切れないような微妙な噂を立てられたり、それなりにツラい思いもしたが、フレックと結婚してからは、幸せそのものだ。
「自分の心に嘘はつかないで。立場上、わたくしよりも難しいでしょうけど、たまには素直になってみるのもいいと思うのよ」
──自分の心に素直になってみる
それは、なかなかに難しい事のように思えた。
長年、侯爵家の跡取り娘として、個人的な意見を飲み込み、家や王家のために感情の一部を殺してきたので、これまでも、素直になるタイミングやどこまでなら表に出していいのかなどのコツが摑めなかったのだ。
汗が乾ききる前に休憩を終え、別のステップパターンの練習に戻るため、セディから立ち上がる。
パートナーを交換するのかフレックが手を出すと、アナファリテはにっこり微笑んで、エルネストをホールに押し出した。
カルルが割り込むより早く、システィアーナの方からフレックの手を取る。
が、その手を外すものがいた。
「悪いが、先約なんだ。可哀想だからエルネストには先を譲ったけれど、年末からの約束なのでね」
さっきまで妹達と立て続けに踊っていたとは思えない爽やかな笑顔で、アレクサンドルがシスティアーナの手を引いた。