15.両者の心の内
茶を出す侍女も、執事や側近もいない、国王と、一騎士見習いのエルネストしかいない、エスタヴィオの個人的な居間に言いようのない緊張感が張り詰める。
エスタヴィオになんと言われるのかをそれとなく察し、かといってそうと言われた訳でもないので、反応してよいものか判断しかねた。
勿論、ただの親戚の世間話で、早合点という事もある。それならば、かなりの自意識過剰で赤っ恥だが、まだ救いようもある。
が、エスタヴィオの中で確定した未来予想図であった場合、反応してしまえば後戻り出来なくなる。
──いや、国王の、貴族階級掌握の政策としてすでに決定事項ならば、エルネストが気づかぬふりをしようが反応しようが、その未来は覆らない。
進退窮まる事態に、すでに詰んでいるのだと諦めるしかない⋯⋯のかもしれなかった。
「一応ね、君は複数の女性に望まれてるんだ」
「は?」
風向きがおかしい?
エルネストは緊張しながらも、疑問符に圧されて身体が傾ぎそうだった。
──複数の女性に望まれてる?
譬えそれが本当だとしても、その中にシスティアーナが入っていなければ意味がない。
眉間に力がこもるのを必死で隠し、それでもなお、思い詰めた表情でエスタヴィオの次の言葉を待った。
一方、その実エスタヴィオも僅かながら緊張していた。
どう切り出せば、エルネストは逆上したり反発したりせずに、大人しく話を聞いて、唯々諾々と従ってくれるのか。
国の頂点国王と、臣下たる公爵家の次男坊。
エスタヴィオが王命として詔勅を発せば、エルネストは従うしかない。
それは解ってはいたが、エルネストの性格からしてむやみに反発したりはしないと承知していても、出来れば笑って快諾して欲しい。
万人が総て納得のいく事案など存在しない。
誰かの意見を通せば、必ずといってもいいほど、反対意見がある。反対はしなくても、逆らわなくても心に凝りを残して影がさす。
満場一致ですべてがハッピーに落としこめる事などあり得ない。
それでも、エルネストを公爵家の次男坊──遠くても複数の傍流から同じ血をひく王族のひとりとして近くに置いてきた彼を不幸にしたい訳でもなかった。
もっと言えば、自分の弟妹達の子──甥よりも可愛がってきた。
騎士科に進学しなくても、稀に近衛騎士からも一本取れる剣術の腕前、危なげなく優雅に操る馬術。
従来の素直で優しい性格と兄を支えるために真面目に学ぶ姿は、エスタヴィオにも好ましく映っていた。
甥や従兄弟の子供達の多くは、愚者とは言わないが俗物であったり、オルギュストのように己の考えに固執して反発したり、貴族としての矜持と義務と権利を履き違えたり、残念な事に素直に可愛い甥とは言えない分、王子の学友として選ばれた優秀で好人物だが遠縁の子でも目をかけてきたし、不幸になって欲しくはなかった。
「君に選択権をあげたいところなのだけれど⋯⋯」
空になったティーカップをあまり音を立てずにソーサーに戻したエスタヴィオは、力強い王の目をして、エルネストを見据えた。