表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/260

7.頼れるか頼れないか



 アレクサンドルの肘に手を置き、ぎこちない歩き方で絨毯の廊下を進むシスティアーナ。


 会場壇上裏に到着した時は、すでに公爵家の読み上げ登場が始まっていた。

 家名と爵位を文官が読み上げ、紹介を受けた夫人はパートナーと共に会釈すると中二階の踊り場からゆっくりとホールへ降りていく。

 先に入場していた人々が拍手で迎える。


 

「ふふ。ティア、緊張しているの? らしくないね、いつもの凛とした『薄紅の姫君』はどこへ行ったんだい?」


 触れそうなほど身を寄せて耳元で囁かれると、益々緊張感が高まり、頰に熱が昇る。


 元々、薄紅の姫君と呼ばれるシスティアーナは、オルギュストに好かれる努力を諦め可愛らしい格好や仕草をやめ、高位貴族の娘として背筋を伸ばしてまわりの誰にも見下されたり嘗められないように気を張っていただけで、本当に凛とした人間になれていた訳じゃない。本当の自分は、自分の意見を述べる事も躊躇う小さき者なのに。そういい訳したかったが、その声すら出せなかった。


 力が入らなくなる身体を叱咤して力む僅かな震えは、アレクサンドルに伝わっているかもしれない。


「大丈夫。わたしが⋯⋯僕がいるよ。転びそうになっても支えてあげるし、言葉に詰まっても話題を振って繋げてあげられるから、一人で頑張ろうとしないで。

 ⋯⋯君は、変わってないね」


 この期に及んでまだ、過去の話を持ち出してくるのか。

 今期の社交シーズンは、オルギュストに婚約破棄をされて以来、帰りたくなる事ばかりだ。


「僕では頼りないかな?」

「まさか、そのようなことは⋯⋯」

「僕の社交能力を認めてくれているかどうかではなくて、ティアが頼れない相手だということだろう?」


 それはそうかもしれない。信頼しているかどうかではなく、頼れるか、頼りたいかと言われれば、頼れない。


「エルネストにも僕は負けるんだね」


 確かにこういう場所では、父かエルネストなら、素直に手を取れるし、傍にいてくれるだけで、不安は消える。


(否定もしないんだな)


 頼ってくれないのは、傍にいることが慣れないからなのか信頼がないのか、彼女自身が頼ることに慣れていないからか、自分が王太子だからか。


 そのどれも当てはまるようにも思えたし、多少関係性が遠くても同じ先祖を持つ親戚で、子供の頃は妹と共に可愛がっていた少女なのに、王太子だからというだけで線を引かれるのは寂しい気がした。


 ただの王子の頃は元より、立太子してからは尚のこと、まわりは自分との間に微妙な距離を置く。身分上仕方のない事と割り切っていても、やはり、寂しいものなのだ。

 公爵家の子息達は、みな遠くても近くても王族で、彼らならそれなりに友人関係を築けると思っていた。しかし、軽口をたたき合うほど親しく付き合えるのはユーヴェルフィオくらいのもので、むしろ、表面上は親しげにしていても、気は許していない事は疑いようもない事実であった。


(そういえば、あの愚か者(オルギュスト)の兄ファヴィアンも、臣下の態度は崩さないが、プライベートでは友人としての付き合いもしてくれるのだったか⋯⋯)


 オルギュストのやらかしからしばらく出仕を控え、領内で書類仕事をしては完成した分を持って登城するという面倒な働き方をしているようだったが、新年よりはまともに働くように言いつけねば。


 ふたりがそんなことを考えていると、ユーフェミアとデュバルディオ、フレック夫妻もフロアへ出て、自分達の名が呼ばれた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ