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36.花のお返しに



 カルルの視線が気になったシスティアーナは、デコルテを飾っていた白薔薇をすべて取り外し、萎れないよう水切りをしてから花瓶に生ける。


「せっかく、綺麗に飾られていたのに、外してしまうのですか?」


 残念そうに訊ねるカルルに、困った笑顔で「乾燥から萎れてしまっては可哀想ですから。十分、楽しんだ後ですから」と答え、花瓶を、直射日光のあたらない明るい場所に据えた。


 カルルが居るからだろう、花瓶を用意したり、空気の入れ換えや雑用をしていたメイドが下がると、侍女数人はこの場に残り、人数分のお茶を淹れ、配った。


 一口飲むと、予定通り、社会学から順に、地理、歴史の勉強を始める。


 カルルが居るため、自国の歴史に加え、近隣の国が当時どうであったか、どう関わってきたかまで掘り下げての授業となり、更には、各内容ごとに、異なる国の言葉で行われた。


 定期的に、知らない単語にリアナやメルティが立ち止まり、説明を挟んだが、概ね予定の範囲までの勉強が終わり、少し遅めの昼食を摂ることになった。



「あら、お兄さま達も今なの?」


 王家専用の食堂に着くと、ちょうどフレック夫妻とトーマストル、ここではあまり顔を合わすことのないアレクサンドルも席に着く所だった。



「ああ、ちょっとたて込んでいてね。兄上が携帯食で食べながら作業を続けようとされていたので、強引に引っ張ってきた所なんだ。そっちこそ、いつもより遅いんじゃないか?」


 王家でも朝食は揃って摂るが、勉強や公務の都合上昼食は揃うことはほぼなく、夕食も決まった時間に出られる者だけ揃うという決まりだった。


「ええ。いつもの勉強に、語学を交えて3ヶ国挑戦していたのよ。せっかくカルル様がいらっしゃるのですもの」


 一番下座に立って頭を下げるカルル。


 王家王族ではないが、家庭教師としてリアナが個人的に招聘(しょうへい)した伯爵家の外交官僚で外戚ではあるため、特別に同席を許された。


 システィアーナは祖父が先々代王弟であるためここでは王族として扱われる。


「花、全部とってしまったのか⋯⋯」


 残念そうに呟くアレクサンドル。


「花瓶に挿してありますから、後でドライフラワーにでもしようかしらと。⋯⋯そうでしたわ、これを」


 システィアーナは小さな紙袋を出した。


 朝から、勉強用の資料と共にずっと持っていた紙袋。

 授業中一度も開けようとしなかったので中味が何なのか、ユーフェミア達王女三人は気になっていたのだ。

 不要品を持ち歩くタイプではないシスティアーナが、珍しく持ち歩く紙袋。


 アレクサンドルは、手渡された紙袋が見た目より重く、手触りから中味が硬いもの──割れ物であると判断して、そっと折り返された部分を開く。


「これは、ジャムだね。もしかして?」

「はい。たくさんのお花をいただいたので、少し勿体ないかと思いましたけれど、蕾が綺麗なうちに摘み(ほぐ)して、ジャムを作りましたの。久し振りで楽しかったですわ」


 システィアーナが作ったジャムだと聞いて、また、弟妹である王子王女達もみたことのない笑顔を見せるアレクサンドル。


 カルルは、ユーフェミアの三日月のように笑みに細められる眼をみたような気がした。





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