表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/260

35.カルルの戦略──ミイラ取りがミイラに?



 美しさと可憐さ、家柄だけでも妻に望むに価するというのに、知性、語学、性格といった総合的な社交力は、正に理想。


 甥や姪に土産を手渡す。万が一気に入らなかった場合のために予備の品物もあったので、それを彼女にも土産と称して贈り物をしても良かったが、この場では手渡さない。

 あくまでも甥や姪への土産(ヽヽ)だから。


 勿論、育ちのいいシスティアーナは、自分だけ何もなくても、もの欲しげに見たりねだる視線をよこしたりはしない。


 後日、理由をつけてより良いものを贈ってやれば、ここでもらえなかった分、その贈り物は強く印象に残る。──はずだった。


 いざ会ってみれば、思ったより育ちの良さが出ていて、期待したよりも美しく愛らしい。

 ついつい、綺麗な所作で自分のためにお茶を淹れてくれる彼女をみていると、なぜか顔色が悪くなってきた。ここは頰を赤らめる場面ではないのか?


 王女の許可が降り、学習から辞すると言うので送ろうと思ったが、元々訪ねた目的が語学指南である事を理由に断られた。

 その代わり、早速贈り物のチャンスが来た。


 挨拶もきっちりと済ませられなかった事と、見舞いの意で、翌朝一番に、懇意にしている花屋の薔薇を買い占め、差し色にガーベラやチューリップなど、女性の好む種の花を取り混ぜて、大量に贈った。


 ──(やしき)中に飾ってどこでも目に入れば、いつでも私を思い出すだろう。


 印象づけるためとはいえ、ちょっと自分でも多すぎたか?とは思ったが、選んでいるうちに小型の荷馬車いっぱいになってしまった。


 らしくない。花を選ぶのに迷うとは。そしてそれが楽しいなどとは。


 彼女の驚く顔を見られないのが残念だが、これで自分のことはそうそう忘れないだろう。


 そう思っていたのに。


 次に会ったとき、システィアーナは、王家の秘匿する白薔薇──通称『女王の薔薇』を身に纏っていて。

 しかもユーフェミア王女殿下が、含みのある笑顔で「可愛いでしょう?」とシスティアーナの肩を抱き、自慢げに訊いてくる。


「これは、王家のもの。お前如きが手を出すな」


 と、そう言われているようにも感じた。


 なぜ、こんなに屈辱感を味わっているのか?


 なぜ、ユーフェミア王女にここまで、笑顔で弾き出そうとされているのか。


 いつもなら、この段階で手をひいていただろう。

 物事は無理を通そうとすると抉れる。引き際を見極めるのも外交には必要な事だった。


 だが、どうしても、もう一手二手、足掻いてみたくなった。


 ──まったく、らしくない


 王家の白薔薇で飾られた美しい宝物が、欲しくなってしまったのだ。


 さて、次はどの手で行くか⋯⋯


 カルルは、多くの女性が頰を染める綺麗な笑顔で、薔薇を飾った姿を褒め、システィアーナに微笑みかけた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ