34.カルルの戦略──外交に優れた伴侶
カルルは、近隣諸国と外交を取り持って来た。
子供の頃から目端の利く方で、相手が何を求めているのか、察するのが得意であったから、笑顔とその察知力で、たいていのことはなんとかなって来た。
幾人かの女性とも付き合ってみたが、望むことがみな同じで、先回りして希望に添うようにしていれば、喜んでくれるし問題も起きないが、程度の低い知略ゲームを攻略するような感じで、すぐに飽きた。
勿論、同時に複数の女性と付き合うような面倒なことはしない。
近隣の国へ赴くときに、長期に渡り国を離れることを理由に、相手に失礼のないよう、また、禍根を残さずに綺麗に別れておくので、帰国しても待たせた女性が詰め寄るなんてこともない。
女性を喜ばせるのも、親善国の外交官を気持ちよくさせてうまく自国に有利に契約をとりまとめるのも、情報収集と根回し、多少の金銭と駆け引きのタイミングで、うまくまわってきた。
親やまわりは、外交上の宴席などに伴い、情報交換と社交を受け持つパートナーを早く待てと急かされたが、特にこれといって、妻に、社交のパートナーに、相応しいと思える女性は見当たらなかった。
知性、語学力、ウイットに富んだ会話をする機転など、そこらのご令嬢には求めてもどれかが足りない。
美貌、語学に優れていても気が利かなかったり、会話も弾みそこそこの知識力もあるのにファッションやちょっとした事へのセンスがなかったり、自国の言葉しか話せなかったり。
それら総てを兼ね備え、且つ、身分もある女性が、婚約を解消し独り身になったと聞いて、早速様子を見に行ってみれば──
王家とも縁の深い侯爵家令嬢で跡取り。婿を探しているという。自分は格下の伯爵家ではあるが、王家の外戚。外交の手腕から官僚爵位の子爵位を賜る話も出ていたが、三男ゆえ婿入りしても構わない。
外交に優れていたという先々代の王弟自ら育てたという、公務に向いた学力と美貌、複数の言葉を解し、貴族令嬢としての高度な教育も、礼儀作法も完璧。
しかも父親は宰相!
彼女と婚約を解消したという公爵家の次男坊とやらは、見る目がないのか己に自信がないのか? いや、ただの阿呆だろう。
あんな優良令嬢を手放すなんて。
しかも、運が向いてきたのか、姪のフローリアナ王女が、自分を語学の教師として招聘して来た。学友として、彼女も同席するという。
──これはチャンスではないか?