33.王家の白薔薇で牽制攻撃?
ウエストの切り返しに作られた襞の中に挿した薔薇を総て抜き取り、気を利かせた侍女が差し出した花瓶に茎の先を水切りしながら生けたところで、ユーフェミアが戻ってきた。
アルメルティアとフローリアナを連れて。二人の後ろには、カルルがついてきていた。今日も王城に来ていたらしい。
「ちょうど、朝議が終わったところだったようなの」
訊いた訳でもないのに、カルルがこの場にいる事をユーフェミアが説明する。
『リアナ殿下が、この後の社会学と地理、歴史の教育に、語学を同時にしたいと仰せでね』
可愛い姪の願いには応えなくては、といった所か。
どちらにしても、王女の頼みを、叔父とは言え臣下であるカルルが叶えないという選択肢はない。
綺麗な、現地で鍛えた発音と耳慣れない単語を学ぶ機会であり、システィアーナにしても否やはない。
ただ。
『ごきげんよう、カルルデュワ・ヤンセンハウナル=タルカストヴィア外交大使様。
先日は、お気遣いありがとうございました。とても綺麗なお花に家族も大変喜んでおりましたわ』
浅めのカーテシで挨拶と礼を述べる。
『いや、喜んでいただけたなら何より⋯⋯』
にこやかな表情と柔らかい声で挨拶に返すが、システィアーナには、カルルの目が笑ってない気がした。
『カルル様、どう? 可愛いでしょう?』
背後からしな垂れかかるようにして肩を抱き、満面の笑みで、王家保存種の『女王の薔薇』を挿したシスティアーナを自慢するユーフェミア。
『ええ。⋯⋯王家の白薔薇が、とてもよく似合っていらっしゃる。さすがですね』
何をさすがと評したのか。
システィアーナは、王家保存種の薔薇の美しさだと思った。
ユーフェミアは、王家保存種の『女王の薔薇』を挿したシスティアーナを、態々カルルに見せつけたことだと思った。
カルルが、この花を贈ったのがアレクサンドルだと知っていてもいなくても、王家の花を身に纏ったシスティアーナを見せつけることに意味がある、と思っていたから。
アレクサンドルの贈った花だと知っていれば尚のこと。
カルルのことは、各国の文化への造詣が深く語学が堪能で、そつなくスマートに外交を行う優秀な官僚だとは思うし、異母妹の実家の三男──外戚だとは思っているが、外面が良すぎてあまり好きではなかった。
システィアーナの事は、大好きな再従叔母であり、王女の学友として選ばれ姉妹のように共に育った高位貴族令嬢であり、公務に就く際の同僚のような立場でありながら親友でもあると思っている。
早い話が、自分が好きになれないカルルにとられたくないのである。