6.引き上げましょう
ある程度交流のあった令嬢とは挨拶も済んでいるし、婚約者がいたから遠慮していた各令息たちの秋波も煩わしく、もう今夜は早々に帰ろうと決めたシスティアーナは、断りを入れるべく両親を探す。
ちょうど今夜会の主宰者であるグリニッズィア侯爵夫妻と話し込んでいるのを見つける。来て早々に引きあげる失礼を詫びるのも同時に行えると、急ぎ、両親の元へ。
「グリニッズィア侯爵閣下には大変失礼かとは存じますが、今宵はもう失礼しますわ」
「薄紅の姫君。もうお帰りになるのか⋯⋯」
「わたくしが居りましては、いつまでも口さがない噂話ばかりで、夜会の品が損なわれますわ。ご迷惑をおかけする訳には参りませんから、本日はこれで下がらせていただきとうございます」
「残念だけど、仕方ないわね。またいらしてくださいね?」
「ありがとうございます。お父様、お母様、お先に失礼しますわ」
「ああ。私達もひと通り交流が済めば帰ることにするよ。
⋯⋯ったく。ここ数年は酷いものだったが、あそこまで愚かであったとは。むしろ、これで婿入りさせずに済むなら良かったやも知れぬ」
システィアーナと妻の冷たい視線に口を閉じた侯爵。
例え事実であったとしても、ただの悪態にも聴こえるし人に聴かせて楽しい内容でもない。
ただ、そう言いたくなる背景も、グリニッズィア侯爵夫妻も知っているので、咎めたり眉を顰めたりはしなかった。
「シス。私も帰るよ。送って行こう」
会場からエントランスへとつながる廊下に出たところで、背後から声をかけられる。
「エルネスト従兄さま。まだ夜会は始まったばかりよ?」
「構わないよ。侯爵には挨拶は済んだし、友人たちにも声掛けは済んでいる。なんだか、楽しい話やダンスを楽しむ気分じゃなくなってしまってね。帰ることにしたんだ。ついでだよ。
それに、君を一度帰したあと、侯爵夫妻のために再びここへ戻る馭者や馬が可哀想だろう?」