31.兄の変化を喜ぶ兄妹
「お兄さま、まるで人目を忍んで女人を小部屋へ連れ込む下劣な男性のようですわ」
「ばっ⋯⋯ ユーフェミア、何を言う。これは、システィアーナ嬢が! その、花の姿を、人目につくのを恥ずかしがるものだからだな⋯⋯その、決して、そのような理由ではない」
「解っております」
「ミア、そんな言い方はよくないわ。殿下がそのようなことをなさるはずがないでしょう?」
表の扉から、フレック夫妻や侍女を伴って入ってきたユーフェミアの言葉がよろしくない。
連れ込まれたシスティアーナが庇うのもおかしな話だが、アレクサンドルがいつものようにサラッと返せないのが、ユーフェミアの興味を強くひいた。
エスタヴィオと同じく、いつも感情を表に出さず、何でもスマートに対応するアレクサンドルらしくない様子が、ユーフェミアには面白かったし、また嬉しいとも感じる。
今なお、システィアーナの肩を引き寄せたまま離さないのも、珍しく慌てて言葉が乱れているところも。自分の言葉に冷静さを欠いて、頰を染め、言い訳のような言葉を繰り出す事も。
兄にも、こうした人らしいところがちゃんとあったのだ。
それは、フレックも同じであった。
同じ王子でありながら、どこか一線を置いた感じがするアレクサンドルは、幼少からまわりに傅かれ、王太子たらしむようにと自分達の何倍も勉強し努力して来た。
常に王太子として『公』を優先し、親兄弟であっても、殆ど『私』の部分を出さず、隙を見せない『王太子アレクサンドル』にも、こうした人らしいところがちゃんとあったのだ。
父王エスタヴィオは、『公』においては、王太子である兄と、以下の王子である自分や弟妹達を区別はしたが、『私』においては、同等の家族として扱っていた。
王家としては異例であろう、家族だけで過ごす時間を設け、子である自分達や、王妃と弟たちの母である側妃を、分け隔てなく愛してくれている。
前国王が存命で目を光らせることが出来、且つ宰相が、しっかりとした方針を持って政治を行い、幼き頃からエスタヴィオの考え方や想いを知り尽くしている友人であるからこそ出来ることであろう。
王族同士で何かを争ったり牽制し合うのは得策ではなく、自分は王位を継がないが、妻と子供達を大切にしていきたいと、その姿勢は見習うつもりである。
それでも、アレクサンドルはあまり感情を表に出さないところがあり、常に感情を抑えていては、何かの拍子に心が壊れてしまわないか、兄が王位を継ぐとき王佐となって傍にいるであろう臣下としても、弟としても、ずっと心配もしていたのだ。
「ふ、ふふふ。兄上ったら、何もそんなに慌てなくても⋯⋯ ふふふ」
「フレック。何がおかしいのか、教えてくれないか?」
「いやいや、ただ、兄上にも、そんな一面があったのだな、と、喜んでいるだけですよ」
「さすが、フレックお兄さまにもこれがどういう事かおわかりなのね!」
「そうだね、ユーフェミアも嬉しいかい」
どう反応していいのか解らずに立ち尽くすシスティアーナとアレクサンドルを放置して、兄妹は喜び合った。




