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25.花飾りの娘



 一日ゆったり過ごし、カルルの大量の花や婚姻相手として見られるかと訊ねられたりと、多少の心の乱れもあったが、すっかりよくなったシスティアーナは、朝議のため陽が昇る前に家を出るロイエルド以外の家族と、花のある明るい食堂で朝食を摂った。


「やはりお花は、目を楽しませるだけでなく、匂いやその存在で、心も温かくしてくれるのね。いつもよりお食事が進みますわ」


「お姉さまが具合を悪くされて心配したけれど、お花をたくさん頂けて得した気分よ」


 リーナ付きの侍女がこっそり伝えた所によると、昨日一日、エルネストからの花束を愛でた後、夜から日の当たらないところに移して逆さに吊るし、ドライフラワーにしようと試みているらしい。


 冬が近く空気も乾燥しているから、よく乾くことだろう。


 システィアーナは、大量の薔薇の利用法として、幾つか湯船に浮かばせたり、廊下を飾ってもなお余る花を、咲かせてやれずごめんと心の中で謝りながらひとつひとつ丁寧に花びらをほぐして、ジャムを煮た。


 身支度を整え、部屋を出るとき、一輪の薔薇がショールにかかり花瓶から抜け落ちてドレスに咲いたようになったのを見て、思いつきで、ドレスの胸元と腰まわりの(ひだ)に挿して、自身を白薔薇で飾り立てた。


「初夏に見た、アナファリテ王子妃殿下の花嫁衣装もこんな感じだったかしら⋯⋯?」


 デコルテを覆う飾りも、ウエストの身ごろとスカート部分との切り替えにも、レースを巻いて束にして留めた物を広げて花に見立てた、コサージュのような飾りがたくさん豪華に飾られ、ダイヤモンドの欠片が縫い付けられて陽光にキラキラしていて、朝露に濡れる薔薇の花のようだったのだ。


 これは生花だが、あのドレスに負けないくらい綺麗だと思えた。


「ふふふ。子供みたいなことしちゃった」


 そう言って外そうとしたが、


「あら、素敵なドレスね?」


この場にいないはずの声が聞こえる。


「え? ユーフェミア殿下?」

「シスも、そんな遊びをするのね」


 クスクスと笑いながら、毛足の長めの絨毯の上を音もなく廊下を進んでくるのは、第一王女ユーフェミアだった。


「どうしてこちらに?」

「あら、お邪魔だったかしら?」

「そんなことはありませんわ。そうではなく、なぜわざわざお越しに? もう少しお待ちいただければ、今から登城いたしますところでしたのに」

「あら、具合はもういいの? 本当に今日から出る気だったのね?」

「ええ。王太子殿下にもユーヴェ従兄(にい)さまにも、一日休めと言われたので昨日はゆっくりさせていただきましたけど、今日はもう大丈夫ですわ」


 そもそも前の日に夜更かししたから疲れが溜まったのと、カルルの見透かすような視線に緊張したから、貧血を起こしただけなのだ。たいした不調ではない。


 慌てて薔薇を外そうとするシスティアーナの手を押さえ、ユーフェミアが微笑む。


「あら、せっかく綺麗に飾り付けたのだから、そのまま行きましょう?」


 システィアーナは、ユーフェミアの言葉を理解できずに、固まってしまった。






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