21.想う、添いたい相手は、添える相手か?
「お姉さま、本当によろしいのですか?」
「ええ。こんなにたくさんあるのだもの。リーナは、ガーベラやチューリップがお好きだったでしょう?」
玄関ホールや階段の踊り場、廊下に幾つか飾ってもまだ余るたくさんの花。
エルネストは、見舞いの花束に、ちゃんとリーナへの小さめの花束(常識的なサイズが小さく見える)も用意していた。
リーナへの分があったのはエルネストだけである。
「私は、エル従兄さまのがあればそれで⋯⋯」
頰を染めて俯くリーナに、柔らかく目を細めるシスティアーナ。
まだ10歳で淑女教育も終わるかというところでも、やはり女の子である。姉への見舞いの添え物であっても、憧れのお従兄さまから好きな花が届けば嬉しいに決まっている。
まだデビュタントも済ませていない少女のリーナとは、エルネストは又従兄で、家系的にも婚姻が不可能ではない。
ただ、祖父の嫁の姉──母の叔母の血筋で、エルネストの母ユレイナは母エルティーネの従姉であり、公爵家であるからには王族の血を複数の傍流からひいてはいる。
祖母フェルミーナの姉アミナリエがエステール公爵家を継いだ、数代前の王妹からの女当主の家系で、サラディナヴィオ公爵家も祖父ドゥウェルヴィア公爵と兄弟関係の家系である。
つまり、ユーヴェルフィオもエルネストも、下から数えた方が早いが、十何番目かの王位継承権を持つのだ。
女王が立った事もあるゆえに、システィアーナやソニアリーナにも。
エルネストもソニアリーナも、当然、次期当主ユーヴェルフィオも、国王の承認なしでは自由に婚姻契約を結ぶことは難しい立場であった。
それでも、成人していない跡継ぎでもない少女が、憧れて将来を夢見るくらいの自由はあげたい。
可能ならば、思う相手と添わせてやりたい。
そのためにも、自分が婿を取る事を考えねばならないと、改めて強く思う。
幸いというか不幸にもと言うべきか、幼い頃からオルギュストと婚姻すると決まっていた弊害か、未だ、リーナのように頰を染めて想う相手はいないので、婿を取ることに抵抗はなかった。